なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの念だよな?   作:家葉 テイク

15 / 19
No.011/ピーピング・トム ②

「ちなみに、わざわざ現場まで行く必要はないぞ。オレの能力なら、カメラを"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"にして標的を撮影したりもできるしな」

 

 

 この手の異能にしては珍しく、オーラは映像媒体に映り込む。

 それも、"隠"を使用したオーラでさえも技術さえあれば肉眼同様に目視確認できるほど鮮明にだ。つまり、念能力者をカメラ撮影した場合、被写体が纏っているオーラも鮮明に把握できる。

 そして、シンドの"錆鉄愚連隊(ハネウマライダース)"は、破壊した物質が何らかの機能を有していた場合、その機能を使用可能な形で"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"を構築することができる。

 たとえば使い捨てカメラを破壊した場合、撮影機能を有した"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"を作り出すことができるのだ。

 しかも、"錆鉄機兵体(ハネウマライダース)"は自動操縦の際の操作条件をかなり精密に調整できる。「常人を遥かに超えるオーラ量の人間を確認し次第撮影しろ」というような複雑な命令すらも設定できるほどだ。

 

 ただし、そこでシンドは付け加えるようにして、

 

 

「まぁ、連中もオレ達と同じようにオーラ偽装していれば、決め手には欠けてしまうが……」

 

「それについては問題ないと思うわ」

 

 

 シンドの懸念に、ダリィは明るい声色で答える。

 

 

「わたしは調査スレへの協力とかでそこそこ転生者と会う機会があるんだけど、転生者にも大体2つのパターンがあるのよ」

 

 

 ダリィは得意げに、指を2本立てる。

 

 

「1つは、あくまで日常を謳歌することを目的とするタイプ。わたしみたいな魔法少女が主に守らなくちゃいけないタイプの人達ね」

 

「いやそれは知らないが……」

 

「もう1つは、己の能力を活用して非(・)日(・)常(・)を(・)日(・)常(・)と(・)し(・)て(・)生きていくことを目指すタイプ」

 

 

 ダリィは手を下ろして、

 

 

「前者はほぼ間違いなく"湧"を使えるけど、後者の場合は意外と"湧"を使えないのよ。っていうか、全然使えないと言ってもいい。わたしもそうだけどね」

 

 

 ダリィの説明に、シンドは納得したように頷く。

 

 

「かなりの高等技術な上に、用途が限定的だからな……。何しろ非念能力者に擬態できるだけで、別に防御力や攻撃力が変わるわけでもない。"円"のような索敵効果があるわけでもない。戦闘能力に乏しい人間が擬態する為に使う技術と言っても過言じゃないだろう。普通の念能力者なら、修行するだけ無駄だろうな」

 

「それに、下手に念能力の修行過程で修行してしまうと、難しさゆえに予期せず発の発動条件になってしまいそうで怖いですしね……」

 

 

 これは実際、原作において第4王子(ツェリ―ドニヒ)が陥っていた状況でもある。第4王子(ツェリードニヒ)は"絶"の修行に熱中していく中で偶発的に"発"が組み上がったことで、発動条件に"絶"が加わってしまった。当然ながら、"絶"は念での防御力をゼロにするので、非常にリスキーな条件である。

 そして、実は転生者あるあるでもあった。

 たとえばシンドの能力"錆鉄愚連隊(ハネウマライダース)"の発動条件に"凝"が含まれているのは、彼が故郷でガラクタを処分する為に本来の修行よりも早く"凝"の修行を始めた為に、「"凝"でガラクタを破壊する感覚がなんとなく手に馴染んでいた」ことに起因する。

 同じように、サイアイが"窒素装甲(オフェンスアーマー)"の発動条件に"纏"を必要とするのも、発を生後間もない段階で構築していたため、"纏"の修行と並行して行っていたという経緯が影響しているのは間違いないだろう。

 なお、少なくない転生者がこうした"ミス"を冒しているが、一応"転生者掲示板"にはこうしたものも注意事項の一つとして記載はされており、シンドやサイアイのように「のっぴきならない事情」を抱えていなかった転生者達は推奨通り発の修行の前に基本の四大行とその応用を習得している。

 

 

「そういうわけだから、保存派の連中はほぼ間違いなく"湧"を使えないと見ていいわ。逆に言えば、"湧"を使いながらであれば、わたし達が直接保存派を探し出すのもアリじゃない? シンドくんにばっかり負担がかかっちゃうし」

 

「イヤ……だとしてもその判断は保留にしておこう。"湧"の精度は試験中の死活問題だからな。保存派が試験官に成り代わっていないという確証が得られない限り、修行優先で長時間の観察は避けた方がいい」

 

 

 ダリィの申し出に、シンドはそう答え、

 

 

「……監視対象が決まったら、皆にも協力してもらう。だからそれまでに、"湧"を完璧に仕上げることを考えてくれ」

 

「おーけー☆」

 

「超了解です」

 

「分かった! 任せとけ!」

 

 

 シンドの呼びかけに、三人は三者三様に快諾する。

 こうして四人の転生者達は、目的に向けて確かな一歩を踏みしめていた──。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 大部分の転生者は、ハンターやそれに類する職業になろうという意志を持つことなく、ただ念能力の修行だけをして、念能力を持った民間人として善良な一般市民の中に混ざって「+αの日常」を享受する結論に至っていく。

 何不自由ない社会で、念能力による身体能力のバフを受けつつ追加で発を構築することによるメリットを享受し続ける人生。それは、非日常の中に身を置くよりもよっぽど「安定した成功」に近しいルートだからだ。

 そうでない者達は、超常と隣り合わせの人生に憧れ、あるいはのっぴきならない事情から脱する為に、ハンターやそれに近しい領域へと踏み込んでいく。

 

 

 ただし。

 ある種の────ごく少数の転生者については、今挙げた両者のいずれとも異なる、全く別の事実に着目する。

 

 

 つまり。

 

 「原作の内容」に対して、多くの転生者が正(・)負(・)は(・)と(・)も(・)か(・)く(・)興味を持っている──という客観的事実に。

 

 

 これは、考えてみれば当然の話だ。

 保存派、改善派、利用派、あるいはそれら以外の諸派にとって原作が今どういう状態か──概ね変わらないのか、ある程度変化しているのか、致命的にズレているのか──は、各々の派閥の存在意義に関わる重要情報。

 日和見派にしてみても、アンタッチャブルとしているのは「面倒事に巻き込まれたくない」という実利的な問題ゆえであり、彼らが元々「ハンターハンター」の読者である以上、原作が今どういう状況か興味がない訳がない。そして自分の意に沿わない要因で知りたいものを知ることができない場合、その「知ることができない情報」は知りたくなるのが人情というものである。

 また、非日常で(ハンターとして)この時代を生きていたいのであれば、原作の動向を探ろうと思わないのはあまりに不用心すぎる。

 

 そうした状況を鑑みれば、そのインセンティブを満たす形で、「原(・)作(・)が(・)今(・)ど(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)進(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)か(・)を(・)知(・)る(・)こ(・)と(・)」に(・)特(・)化(・)し(・)た(・)念(・)能(・)力(・)を(・)作(・)成(・)す(・)る(・)者(・)が現れるのは当然の成り行きであったと言えるだろう。

 

 "掲示板"において"動静監視型(ピーピングタイプ)"と大別されるこれらの念能力は、念能力者自身の徹底的な原作への不干渉や監視対象の限定といった特定の"制約と誓約"と引き換えに、超遠距離の対象の映像及び音声の取得を可能としている。つまるところ、パームのそれの特化進化系だ。

 これはつまり、遠洋漁業の漁師が生活する島に住むとある少年や、高山に住まう伝説的な暗殺一家の三男の動向を監視することができることを意味する。

 動静監視型(ピーピングタイプ)の念を開発した転生者は、ある者は自身の能力を以て各派閥に自分を売り込み、ある者は専用のスレを立てて自分の監視内容を開示することによって承認欲求を満たしていた。

 

 重要なのは、動静監視型(ピーピングタイプ)の念を開発した者は大概が理念に共感して各派閥に手を貸す訳(・)で(・)は(・)な(・)い(・)という点だ。

 もちろんそうした者も絶無ではない。中には、本気で所属派閥の目的に共鳴して己の能力を使うような者も存在する。ただ、彼らは前提として提示された各勢力を俯瞰して「そこにあるニーズ」を嗅ぎ取る嗅覚を持ち、その需要を満たそうと判断できる精神性を持っている。

 ゆえに大概がかなりドライな価値観を持っていることが多い。

 そして彼らは大半が「情報を売る」ことを目的として各派閥に接触する。あくまでもビジネスライクな関係を築いているし、各派閥もそれでいいと割り切っていた。

 

 

 ――ミルナ=アクティオもまた、そうした"動静監視型(ピーピングタイプ)"の念能力者の一人である。

 

 

 ミルナは、クカンユ王国の一般家庭出身の転生者である。

 クカンユ王国では貴族制が廃止されて久しいが、彼女は元を辿れば田舎貴族の末裔であり、裕福というほどではないが貧困を知らないまま育った。ゆえに念能力も四大行や"湧"の修行を経て、じっくりと考察する時間があった。

 貧困を知らないまま──と言ったが、それではミルナという人格が貧しさへの恐れを持っていなかったかと言えば、そうではない。

 ミルナ=アクティオは現在23歳だが、彼女の人格が連続した期間で言えば51年である。前世で20代後半まで生きた彼女は、自分の老後の社会保障について漠然とした不安を抱えるという経験を既にしている。つまり、「今は大丈夫でもいつかは大丈夫ではなくなる」という強固なイメージを持ち、それゆえに「若いうちに蓄えられるだけ蓄える」ことを人生の優先目標としていた。

 

 そんな彼女が"動静監視型(ピーピングタイプ)"の念能力を開発し、そして保存派にその能力を売り込んだのは、必然だったと言えるだろう。

 

 ――――ザバン市。

 保存派に貸し与えられた高級ホテルの一室で、ミルナは確信する。己こそが、転生者の中で最も賢い生き方を選択していると。

 

 

(……念を手に入れたからって舞い上がっているバカどもとは違う! 間違いなく、ミルナの立ち位置が全転生者の中で一番「安泰」……! 保存派は他のグループを含めても"動静監視型(ピーピングタイプ)"の能力者を持っていない。このままミルナが保存派を牛耳ってやってもいいけど……それだとリスクが大きくなりすぎるしィ)

 

 

 壁一面の窓から下界を見下ろしながら、ミルナはせせら笑う。

 

 

(念なんて、健康法の一種って扱いで十分よ! 保存派に恩を売って大金をせしめて一生分遊んで暮らせる金を得る! それ以上深入りはしない! 此処が命を懸けないで最大の利益を得ることができるギリギリのライン……!! 此(・)処(・)を見極められるヤツが結局一番賢いのよ)

 

 

 眼下では、転生者同士の戦闘と思しき喧騒によって、路地裏から土煙が這い出ている。

 あらゆる思惑が交錯しながら────ハンター試験、その前哨戦が始まろうとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。