なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの発だよな? 作:家葉 テイク
(にしても暇だな……)
高級ホテルの高層階。そのソファに腰かけながら、ミルナは内心で退屈そうにぼやいていた。
現在日は12月23日。
ミルナがザバン市に入ってから既に二週間近く経過しようとしていた。その間ミルナは全くこの高級ホテルから出ていない。――彼女は事実上の軟禁状態となっていた。
(まぁ、下手に市内を出歩けば他の転生者やらと鉢合う危険もあるしィ……それ自体はいいんだけど……)
他にも、莫大な前金を渡しているから、高飛び防止としての意味合いもあることにミルナは気付いていたが、もとより信頼関係などあってないような関係性だ。そこに不満を抱く性格ではなかった。お互い持ちつ持たれつ、利用し合う関係だからだ。
ただ、それでもミルナとしては、せめてザバン市の外で待機しておきたかったというのが正直なところだった。
(この時期のザバン市なんて、保存派以外の転生者が
ハンター協会に所属している保存派転生者からの情報で、今年のハンター試験は原作通りザバン市からスタートすることが知らされていた。他の諸派についても各々の情報網からザバン市に集結している為、今ザバン市近郊は世界で最も転生者が多く集まる街になっていると言っても過言ではないだろう。
それでも、護衛の一切を保存派――戦闘目的で念を修めた武闘派集団――が取り仕切ると言っている以上、生半可な護衛より安心なのは間違いない。そのため、ミルナは渋々このホテルでの軟禁を受け入れていた。
(ミルナの能力は、誓約でゴンと出会えば失われてしまうっていうのに……。その辺のリスク分かってんのかな? どうも連中、考えなしなヤツが多い気がしてならないわ……。ローテが試験で不在なのも影響してるのかしらん)
ひと口に「保存派」と言っても、彼らは決して一枚岩ではない。
というのも、保存派の
そして保存派の転生者は、その
(最近「再編」があったからバタバタしているのは理解するけどね……。付き合わされるこっちの身にもなってほしいわ)
つい最近まで、保存派の中で圧倒的最大勢力を誇っていたのは「原作キャラに干渉しようとする転生者を排除する」グループであった。
保存派の目的を考えれば、無理からぬこと。転生者が原作キャラに干渉してしまえばお題目である「原作通りに歴史を進める」ことが無駄になるからだ。なので「原作」が目前に迫るまで、多くの保存派は互いの
その総数は、数百人以上。日和見派の大部分が行動を起こさないで潜んでいることを考えると、転生者の中でも最大派閥と言って差し支えない規模の集団だった。
その甲斐あって、保存派視点では原作キャラに接触しようとしている転生者は全て排除してきたが、原作が目前に迫ったことでその協力体制は終わりを告げた。
原作で主軸を担う面々は、どれもが世界で有数の才能の持ち主である。ゆえに、主要人物については殆どの転生者を上回るポテンシャルであることは言うまでもない。そんな次元が上の才能を持つ原作キャラに対し、転生者が一発勝負を挑もうと結果は見えている。それを見越して、利用派や改善派は多くの準備を積み重ねてきているのだ。それに対抗する為、保存派もまた各々の
以前は大半が保存派に所属していた
これが、近々およそ半年間の出来事である。
(まぁ、どうせあと数週間もしたら人数の変動も落ち着いて、ミルナ以外の
今年のハンター試験の日程は、年が明けて1月7日からと告示されていた。
今日が12月23日なので、およそ2週間程度の猶予が残っている。「再々編」はハンター試験が始まり各々の目標の達成・未達成が確定した段階で始まるだろうから、確実にミルナが保存派のイニシアチブを握ることができるのは実質的にはおよそ2週間ほどである。そういう意味で、ミルナの読みはほぼ当たっていると言えるだろう。
問題があるとすれば──現時点で、既に保存派を中心とした多派閥との対立が激化している点だろうか。
ミルナが認識している限りでも既に今日の午前中、利用派と保存派の小競り合いによって利用派に死人が出たという情報を耳にしていた。
(バカだよねぇ……。そうやって揉め事を大きくしたら、何かの拍子に原作が変わる可能性が上がるかもしれないってのに。……ま、多少変わったところでミルナの能力ならゴンの最新情報は変わらず確認できるんだけど)
ミルナの能力――"
暗黒大陸編を除く原作の大部分を追うことが可能な"
保存派の最大目的が歪みかねない流れに乗っていてもミルナが辟易するのみで大して慌てていないのも、その能力によるところが大きい。仮に転生者が暴れすぎて原作が乖離したとしても、その場合はより自分の能力の価値が増すという判断である。
と、そこでミルナの部屋の扉がノックされた。
それを見て、ミルナは露骨に気分を害したように表情を歪める。
「誰? 今ミルナ取り込み中なんだけどー?」
「ジャルールだ。近々の状況について折り入って話がある。開けてくれないか?」
「…………まぁ
扉の向こう側から聞こえて来たのは、女の低い声。
ミルナが扉を開けると、入って来たのは160センチ程度の浅黒い肌をした女だった。外見は可愛らしいが、立ち居振る舞いからは無骨な印象が漂って来る。
ジャルール――そう呼ばれた女は、入室して扉に鍵をかけるなり早速話を切り出す。
「コテルニオのところのストリニンが死んだのはもう聞いているか?」
「名前で言われてもどこの誰だかミルナ分かんないんだけど。どこの所属?」
「……口頭での説明は難しいな。「マフィアに肩入れしたい」連中といえば分かるか?」
「あー……ね」
ジャルールに言われ、ミルナは曖昧に頷く。
マフィアに肩入れしたい──つまり、マフィアンコミュニティーの破滅を防ぐことで利益を得たい派閥ということだ。彼らの本番は来年の9月のはずなのに何故この時期のザバン市で死者を出すほどの戦闘を……? とミルナは思わなくもないが、深い思考はやめた。
わざわざ命を賭して原作に介入しようなどという酔狂な人間の思考回路など、ミルナには到底想像できないからだ。下手に思考を理解しようとしても、その「手前」で立ち止まっているミルナには縁遠い話でもある。
「さっきカイが部屋の前で電話してたのを聞いたわ」
「! アイツも来ていたのか」
「部屋の前でって言ってんでしょ。監視よ監視。それより重要情報を大声でくっちゃべるのやめとけって言っといてくれる? 部屋の中にいたのに丸聞こえだったわよ」
「……、……すまないな。彼には言っておこう。それで、本題だが……流石にこの時期に死人が出るのは想定外でな……。……我々の中でも、一旦集合して今後の動き方を詰めていく必要があるんじゃないかという話になっている」
「はぁ? ヨソでやってよそんなの。ミルナは"湧"が使えるから転生者バレしないけど、アンタら全員"湧"使えないじゃん。アンタらと行動範囲が一致したらこっちまで芋づる式に転生者バレしかねないんだけど」
「だが、外部で込み入った話をすれば転生者に聞かれかねない。それくらい、今ザバン市は転生者が
「はぁ~!? ふざけないでほしいんですけど! アンタらの見積もりの甘さのツケをミルナに押し付けないでくれる!?」
あくまで
「状況がヤバイのは分かったからひとまず呑み込んでやるけど……あんま腑抜けた真似しないでよね。全員死んで報酬踏み倒しとかシャレになんないから」
「……ありがとう。そこは安心してくれていい。我々が全員死んだ場合でもきちんと君の口座に自動送金されるように設定されているからな」
「そういうコト言ってんじゃないのよ……ほんとマジ最悪」
ジャルールの回答にミルナは舌打ちして、矛を収める。
居心地悪そうに視線を逸らすミルナを横目にしながら、ジャルールは仲間へと連絡を始めた。
◆ ◆ ◆
それから30分としない間に、ミルナが所属している保存派グループの面々が一堂に会していた。
そこにいたのは、数人の男女。加えて、タブレットに壮年の男性が表示されている。
先程ミルナに応対していた大柄な女性が、ジャルール=イチロ。系統は具現化系。
頬杖を突いている小柄な男性が、カイマン=トロペサンジ。系統は操作系。
笑みを浮かべながら話を聞いている儚げな女性が、アマズダ=ヒメイリ。系統は強化系。
そしてタブレットに映し出されている壮年の男性が、ローテンサン=コヴォーク。系統は強化系で、このグループ唯一のプロハンターにして、グループの中核を成すメンバーである。
「事態は想定よりも急速に進んでいると言っていい。特にマフィア寄りの利用派だったコテルニオ組がザバン市に来ていたのは想定外だった。これは我々のキャパを超えていないか?」
話を切り出したのはジャルールだった。
それに対し、画面の中のローテンサンも頷く。
『おそらく、
>>23というのは、「原作知識整理スレ」のレス番号23番に書かれている内容――「ヒソカ」の隠語である。
これは、リアルで精力的に活動しているベテラン転生者のみが使う手法だ。その人物が本来知りえない原作知識は全て制限されるのが"掲示板"利用者にかけられた操作系半強制型の効果だが、レス番号を隠語にすればそれを突破できる。"掲示板"の「裏ルール」の一つである。
この場合、受験番号44番という比較的早期受験者であるヒソカとザバン市で接触し、友好関係を築きつつ試験に参加することでヨークシン編でヒソカと協調し、マフィアンコミュニティーの被害を減らそうという思惑を意味している。
その計画の実現性については疑問符がつくところだが、それはさておくとして。
「今からでも戻れねェのか? 流石にローテのオッサン抜きだとまずいと思う。この情勢はアンタも想定外だっただろ」
画面の中のローテに呼びかけたのは、小柄な男性――カイマンだ。
神経質そうに言うカイマンを
「いや~~。それはどうでしょうね~。こうなってくると……いっそ我々はこの場では主体的に戦わないというのも手かと思います~。元より100%完璧にというのは望めないと分かっていましたし、そのためにローテさんも試験官になってるんでしょ~?」
『試験官補佐と言った方が正しい。オレが削りを入れるにしても、トリックタワーまでは手を入れられん。ザバン市で可能な限り転生者は狩っておいて欲しいが……』
「カイ、お前の能力で手駒を増やせないのか?」
「無茶言うなよ。オレのは短期戦メインだ。制御を奪ったら自害させんのが基本スタイル。手駒にはなんねーよ」
「やるなら多対一が前提じゃないでしょうか~? 複数人で掛かれば、それこそ>>23でもない限りは安定して狩れるでしょうし~」
「…………そうだな。ひとまず単独行動は控えるくらいしかない、か……」
ジャルールの呟きに、一同が頷く。
それから画面越しのローテンサンが総括の言葉を繋げた。
『オレは試験準備の関係上そちらに向かうことはできない。だが……我々の目的は元より「
「了解した」
「はいな~」
「……あぁ、それで良いよ」
提言に対して全員が頷くと、最後にローテンサンがミルナに視線を向ける。
『ミルナ。君の方はどうだ? >>4の状況は』
「特に何も。大物釣りのために試行錯誤中。アレけっこう手こずった結果みたいね」
『そうか。そこがズレたら何もかもが変わって来るが……一方でオレ達のアドバンテージが増えるということでもある。注視してくれ』
「今の分、入金よろしく」
『了解した』
確認を終えると、ローテンサンは通話を切る。
それに伴い、グループの面々も退室した。ジャルール、カイマン、アマズダが先程の言葉通りに行動を共にし、ミルナのみがホテルの自室に残る形だ。
全員が退室したのを見届けると、ミルナは部屋の鍵を閉め、そしてホテルの窓から階下の街並みを見下ろす。
そんな彼女の視界のちょうど外側――一つの小さな物陰が、ホテルから落下していた。