なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの念だよな? 作:家葉 テイク
「ダメダメダメ! オーラの出方がぎこちないわよ! ほらシンドくんが撮ってくれた駅前の通行人の映像見て!」
「うお~ん、ムズいよ~これ! もうちょっと緩くしてくれよ、リィ~」
「アンタただでさえドンケツなのにこれ以上緩くしてどうすんの!!」
――シンド達が合流し、行動を共にするようになってからもうじき1か月が経過しようとしていた。
現在日付は、12月16日。ハンター試験の受験申込が開始したタイミングで、シンド達は揃ってハンター試験の受験申込を行い、ザバン市の隣にある都市、ドポボ市のホテルにいた。
ちなみに、クロト以外の面々については一ヵ月で完璧に"湧"をモノにしていた。
一般人との比較についても既に全員が及第点となっており、現在は一番習熟度が高かったダリィがクロトの修行に付き合っている状態だ。
あーだこーだと念の修行に勤しんでいるクロトとダリィを横目に見ながら、サイアイはベッドに腰かけて写真をチェックしているシンドに言う。
「しかし、超予想外の幸運でしたね。まさか会場がザバン市とは」
シンドのコネでハンター試験の会場について調べたところ、なんと会場は原作通りザバン市のままとなっていた。
それだけでなく、会場への行き方も原作通り"めしどころ「ごはん」"でステーキ定食を注文し、焼き加減を尋ねられた後「弱火でじっくり」と回答する──となっており、これについても原作と相違なかった。
これについては、何もせずそのままになる可能性も低いので、協会内に潜伏している転生者がそのままの形にしたのだろうとシンド達は結論づけていた。
「……"掲示板"の制限もあるしな」
というのも、原作そのままの条件だったとして、転生者がそれを何の調査もなしに実践すれば、まず間違いなく"掲示板"の制限条件に該当するからだ。
("
この一ヵ月、シンドは"掲示板"の制限についてある程度考察を深めて来た。
その結果、"掲示板"の制限についてある種の法則性を見出すことに成功していた。
(同様に、本来知りえない知識を前提に行動することもまた「制限の対象」……! 情報を得てもいないのに
「……ステーキ定食、弱火でじっくり」
舌の上で転がすように、サイアイが呟く。
「改めて考えると、超馬鹿らしい合言葉ですよね。誰か間違って言う人とか超出て来るでしょう」
「流石に一般客が間違って来たら帰すだろ。むしろあえて一般客に間違わせて、情報を広めることで「ヒント」を作ってるんじゃないか? 全く情報の出所がなかったら民間試験官経由かコネでしか参加できないしな」
「……確かに」
――何より、サイアイの発言。これがシンドの推測を裏付ける決め手となった。
(この
シンド達の話を聞いて、"湧"の修行中のクロトが口を挟む。
「「それ」なんだけどさぁ、…………、……あーだめだ」
「込み入った話は相変わらずなのよねぇ」
「急に言えるようになったよな」と続けようとしたクロトの発言は、途中で止まる。掲示板によって制限されているのが明確になると、「情報を秘匿されていること」を示唆することになるから──と考えられる。
しかしこれは一方で不条理でもある。何せ、どこまでがマズイかというのはいかにも恣意的であり、個人個人によって判断基準が千差万別だからだ。ある者からは妥当であるように見えても、ある者にとっては過剰に思えるし、またある者は不足と思うかもしれない。それに、それがアウトならこの言い回しもアウトでは? というような局面だってあり得るだろう。
もっと言えば、このクロトの発言自体が「情報を秘匿されていること」の示唆であると言われれば否定の余地はない。つまり、機械的ではなく人間的な基準によって制限されていることの証左だった。
「…………オレ、たまに思うんだよな。"制約と誓約"の基準。これ、基準が個人によってバラバラすぎるだろ? 明確な基準があったらいいのにな……って」
制約と誓約。
それは、難易度の高いものやリスクの高いものであればあるほど念に強さを齎す。
だが、難易度はその能力者の特技によっていくらでも左右されるし、リスクの考え方にしても能力者の価値観によっていくらでも取り方は変わる。
たとえば制約の例ならば、「100メートルを泳ぎ切ること」を条件として発動する念能力の場合、水泳選手とカナヅチとで難易度は天と地ほどの差が発生するだろう。同様に、誓約の例にしても自殺志願者が命を懸けるのと死にたくない人間が命を懸けた場合の重さには比べようのない重さの違いが存在する。
その難易度や重さをジャッジするのは、一体誰なのか? 念能力の場合、それはその人物の直感に委ねられる。今説明した通り、実際に制約も誓約も、
翻って、"掲示板"の制限はそうではない。
誰であっても、"掲示板"の制限は一定の条件を転生者に課している。クロトのようにそこまで思考を巡らせないタイプであっても致命的な情報の漏洩がないのが良い例である。
そう考えると、"掲示板"の制限には明確な判断基準が存在する。そしてそれは──
「"掲示板"の制限には多分それがある。……おそらく創始者の危機管理基準がな」
「それって、創始者の人は保存派と同じ考えってことなのかな?」
シンドの言葉に、クロトが首を傾げる。
"掲示板"の制限を設定した動機を考えれば、あり得ない話でもない。"転生者掲示板"が作られたのは90年以上前だ。その時代から原作に関する言動を無制限にしていれば、今の状況はまずありえなかっただろう。それを防止したいという発想は割とあり得る。しかし……。
「……いや。これほどの能力を作る為に、創始者も当時は相当奔走したに違いない。その中でまず間違いなく今の保存派の理念に抵触する行動はとっているはずだ」
そもそも、シンドの読みが正しければ"掲示板"の創始者は暗黒大陸に渡航していることになる。原作の90年以上前に暗黒大陸に渡航するなど、保存派であれば全員が全員危険視するレベルの横紙破り。もし仮に創始者が保存派と理念を同じくしているのであれば、まず取りえない選択肢と言えるだろう。
つまり、"掲示板"の創始者は仮に原作の流れを破壊することになったとしても、後進の為に"転生者掲示板"を残したかったということになる。
「では何のための制限なのか。……つまりこの念の開発者は、……秘匿したいんだろう」
何を──と言われれば、「本来知りえない情報を外部情報として取得している一派が存在していること」、つまり原作という形でこの世界の秘匿情報を得ている転生者がいることそのもの、だろう。
感情論によるものではない真っ当な危機意識による行動という仮定を一旦置けば、その意図も分かりやすくなる。
「それって……何の為に?」
「おそらくですが、超守る為でしょう」
要領を得ないクロトに、サイアイが横から回答する。
「ある種の属性の者に特定の性質があると知れた場合、そしてそれが非常に有用である場合、その集団の身柄が狙われる可能性は非常に高いです。特にその集団に共通の特性があればなおさらですね。たとえば、赤ん坊の頃から念が使える……とか」
原作知識は、言うまでもなく有用だ。
たとえ原作が乖離するとしても関係ない。真に賢い者ならば、乖離したとしても「前提となる物語の流れ」からその乖離の方向性を読むなど容易いからだ。そしてその知識を持つ者――転生者がありふれていると分かれば、当然ながら心無い実力者による「転生者狩り」が起こることは想像に難くない。
転生者の場合、必ず赤ん坊のころから念能力を使用することができ、そして多くの場合幼少期から大人びている。そうした評判から転生者であるとあたりをつけることは難しくないのだから、それこそ魔女狩りのように転生者を狩ることを目的とした人狩りの発生は当然の帰結。
それを防止する為の方策として、"掲示板"の制限は徹底しているというのも、きわめて真っ当な推論である。
「そしてその奥底にある理念は……オレ達後進への慈愛。厄介ではあるが、この制限があることでオレ達は守られているとも言える」
「確かに……。創始者さんに感謝感謝だよなぁ」
"掲示板"の創始者の優しさに感じ入る一方で、シンドはその抜け穴についても既に考察を済ませていた。
――相手の感情に思いを馳せることのできる共感性と裏腹の、冷徹な考察力。その二面性がシンド=アクイットという人間の本質でもあった。
(一方で、操作条件が「創始者の危機管理基準」なら、創始者を丸め込める「理屈」があれば条件は撤廃されるということになる……。マローアから
つまり。
(外形的に違和感を覚えられない形での辻褄合わせが可能ならば、"掲示板"の制限は無視できる! "
たとえば、ヒソカとの戦闘時にいきなり"
ただし、ヒソカとの戦闘時に「ヒソカのオーラの流れから変化系だと思った」というような説明をしたり、「変化系能力で一番警戒すべきはシンプルにオーラに何らかの性質を付与すること」というような前置きをすれば、いきなりヒソカの"
それでもヒソカは警戒するかもしれないが、少なくとも
原作知識の利用は、一律で不可能──ではなく。
原作知識を利用する場合、"掲示板"の創始者を説き伏せる必要がある。創始者を納得させる理屈がなければ、原作知識を利用することはできない。これが、"転生者掲示板"の制限の正確な説明である。
――もっとも、シンドは知らないことだが、これだけでは実は制限の説明としては不十分。"掲示板"の禁止条件には「創始者と対象自身」の危機管理基準が適用されているため、実際にはシンド自身も納得した理屈でなければならない。要は「詭弁は許さない」ということである。
この説明を"掲示板"の制限に抵触しない形で説明することは非常に難しい上に、掲示板に書き込めば改善派や利用派の動きを壊滅的なまでに活発化させるのが容易に想像できる。
そのため、伝えることも難しいルールであるが……それでもシンドに伝えることができるギリギリの形で、三人に共有した。仲間達がそれに気付けるかは分からないが、それでもいいとシンドは考える。
(あくまで、裏ルールは選択肢の一つだ。別にオレ達は利用派でもないんだし、逆にそこに頓着する方が危険かもだしな)
そんな風に思考を整理したシンドに、クロトが問いかける。
「なぁ、写真はどうだった?」
「……クロト。お前修行イヤになってないか?」
「いやいやそんなそんな……ちゃんとやってるよ。それよりどうなんだ?」
シンドは呆れたように溜息を吐きつつ、
「ぼちぼちだな。与しやすそうな弱いオーラの転生者が何人か……。これも含めて偽装なら大したもんだが、流石にその可能性はないかな」
シンドは窓の外を眺めながら、
「これから、この中から保存派の標的を選別して狙いを定める。決行は1週間後ってとこだな。リィ、それまでにクロトの"湧"は仕上がりそうか?」
「コイツの頑張り次第ってとこね。今のままだと留守番確定」
「だそうだ。ホテル代の割り勘比率を高められたくなければ修行修行!」
「押忍! 頑張ります!! くそう!!」
――1週間後。
その日、ザバン市にて戦いの火蓋が切って落とされることを、シンドは既に予感していた。
今更ですが、「発」よりも「念」の方がより広範に伝わりやすいよなぁ……ということで微妙にタイトル変更しています。