なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの念だよな?   作:家葉 テイク

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No.014/特定

 保存派の中から標的を選定すると決めてからの1ヵ月で、シンドはまずザバン市地区のゴミ収集員になった。

 制服の入手自体は、さほど難しいことではなかった。ザバン市ではゴミ収集業務が民間企業に委託されており、派遣企業からの応募で従事することが可能だったからだ。

 

 理由は単純。逆(・)追(・)尾(・)を(・)撒(・)く(・)た(・)め(・)だ。

 

 "錆鉄愚連隊(ハネウマライダース)"によって使い捨てカメラを念人形として偵察する。これは優秀な偵察要員だが、シンドはこれを完璧な策とは考えていなかった。

 たとえ"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"に背景に紛れるように指示をして、市街地という小物に溢れた環境で偵察を行ったとしても、それで"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"が誰にも怪しまれず済むというのは考え難い。

 通常の物質を元手にしている分"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"は一般人にも見えるのだから、むしろ"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"による偵察は必ず誰かにバレるのが当然の帰結。そして偵察に気付いた者は必然的に、"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"を起点に逆偵察するに決まっている。

 そこにシンドがのこのこ現れれば、それこそ逆効果である。たとえ"湧"を使っていたとしても何らかの繋がりがあるとバレてしまうから、何もかも意味がなくなってしまう。

 

 では、逆偵察した物質が自分からゴミ捨て場に移動してゴミ捨て場の物陰なりに隠れてしまえばどうだろうか。

 ゴミ捨て場の中で使い捨てカメラを探すのは非常に目立つし、ゴミに紛れている訳でもないのだからそこにやってきたゴミ収集業者をいちいち疑っていてはキリがない。そもそも、ゴミ収集業者を疑うという発想にすらならないかもしれない。つまり、ゴミ収集業者に扮して"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"を回収すれば絶対にアシがつかない状態で偵察結果を手に入れることができるのだ。

 

 さらにシンドはこれに加え、"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"に「ゴミ捨て場に到着したら内蔵したフィルムを感光しないよう保護してゴミ捨て場に隠し、自身はカメラに変形してゴミの物陰に隠れろ」という命令を送ることで、仮に何らかの方法で偵察に気付いた相手がカメラを探し当てても情報を確実に回収できるようにしていた。

 

 

(ここまでしても、勘が鋭いヤツなら偵察した者がゴミ収集業者に扮している可能性に気付くだろうが……それならそれでも構わない。ゴミ収集業者を辿って派遣業者に行き着き、その中からオレを見つけ出すまでには時間がかかる。そこをサイアイとリィで待ち受ける手筈……! もしオレに迫るようなヤツがいれば、「追っているつもりのヤツ」をさらに追っているつもりのヤツを不意打ちで叩ける)

 

 

 二重三重にも入り組んだセーフティ。しかも、それだけの準備を整えてもなお、シンドは己の策が完全とは考えていなかった。

 たとえば、"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"がヒソカやイルミに見つかる可能性。一応自動操縦の命令にはヒソカやイルミ(ギタラクル)の外見情報を入力した上で、それに該当する者には絶対に接近しないように指示している。自動操縦中の"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"の周辺認知能力は訓練された人間並みなので十中八九問題はないが、世の中には絶対はない。

 もし仮に偵察活動を目撃されて好奇心を刺激したとか興味を惹かれたとかで逆偵察された場合、二人のハンターとしての能力を考えれば間違いなくゴミ収集業者までは行き着かれる。そして、サイアイとリィの二人がかりでも返り討ちにされる可能性が非常に高い。ゆえにそのケースについては前以て想定し、ヒソカかイルミが網にかかりそうなものなら迷わず撤退し今年のハンター試験受験は諦める方針をメンバー全員に共有している。

 万策を巡らせて置きつつも、常に一定の警戒を忘れない。シンドはそれが、この世界で長生きする絶対条件だとこれまでの半生で理解していた。

 

 

「んじゃあー行くぞー」

 

「うっす。了解っす」

 

 

 一緒にゴミ捨て場を回っている壮年の従業員の合図で、シンドはゴミ捨て場を後にしてゴミ収集車で移動を開始する。

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「これが現像した写真だ」

 

 

 フィルムを現像したシンドは、アジト(ドポボ市のホテル)に戻って三人に写真を共有する。

 写真は、被写体ごとに見分けがつく範囲で仕分け済みである。もっとも、その仕分け作業をしたのはシンドではなく操作している"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"なのだが……。

 

 先程のゴミ捨て場でもフィルムを回収しており、これで回収したフィルムは16個となっていた。フィルムは一つにつき24枚撮影することができ、これまでの"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"は全てフィルムを使い切ってから偵察を終えるようプログラムしてあるので、384回分の念能力者の行動を撮影していることになる。

 そして当然だが、その全てが別人というわけではない。ほとんどの転生者が複数回写っているし、中には34回写っているという転生者もいたくらいだ。人数で換算すれば、49人ほど。完全に潜伏している転生者もいると考えると、転生者の総数は100人に届かない程度だろうか。

 

 

「……一人、超飛び抜けて写っている人がいますね。これは誘ってるんですか?」

 

「可能性はあるな」

 

 

 基本的には、写り込んでいる回数が多い人間はそれだけ警戒心が薄いと言っていいだろう。

 しかし、写り込みの回数を数値として出すと話が変わって来る。

 49人の転生者が写り込んでいる平均の回数は8回。中央値をとると6回となる。そのうち最も多いのは34回写り込んでいる転生者だ。その次に多いのは24回写り込んでいる転生者なので、これはもう圧倒的な数値である。ちなみに20回以上写り込んでいる転生者は一番多い34回の被写体を除き5人、10回以上20回未満は6人いる。

 複数人で何度も写り込んでいる転生者もいるが、大体は一人で写り込んでいる転生者であり、これらの転生者が全て警戒心の薄さゆえに複数回写り込んでいるというのは彼らの知性を甘く見過ぎだろう。

 

 

「…………ある程度の監視は最初から許容し、逆に襲って来る連中を叩いて情報を得ようと考えるケースもある」

 

 

 現代日本人の感性からはかけ離れているが、自分の力量に強い自信を持っている場合、あえて自分が念能力者であることを明らかにして襲撃を誘発させ、現れた敵を倒して捕えるといった手法が「手っ取り早い」という形で合理性を獲得することもある。

 実際、シンドも掲示板に書き込んだ時は半ば襲撃を織り込んでいた節はあった。襲撃を仕掛けて来る=シンドの行動を危険視できる根拠を持つ人間を支配下に置ければ有用な情報を得られるかもしれないという発想だが、やっていることは同じである。

 明らかに生き急いでいる発想だが、そういう人間ほど危機感知能力も高い場合が多く、いざ戦って優勢を取れたとしても早々に逃げられてしまいかねず、標的としては悪いと言わざるを得ない。そういったものを選べば骨折り損の草臥(くたび)れ儲けである。

 

 

「回数が20回を超えている連中は怪しいわね。そういう連中は見られていることを自覚した上で歯牙にもかけていない可能性が高い。知らずに引っかかるのと分かっていて無視しているのとじゃ厄介さが段違いだわよ」

 

「ああ。オレも狙い目は10~15回程度写り込んでいる連中だと思う」

 

 

 10~15回写り込んでいる層では、13回、12回、11回、10回の転生者がそれぞれ1人ずつ存在する。この4人に保存派がいるかどうかは確認してみないと分からないが、ひとまず的を絞って行動してみないことには状況も前に進まないだろう。

 

 

「それなら、回数はこの13回の人が一番いいのか?」

 

 

 そう言って、クロトが写真に写っている男性を指差す。

 小柄な男性だった。金色の髪を短く刈り上げた、スカジャンにジャージの下を履いている若者である。ぱっと見はチンピラそのものではあるものの、時折複数の女性と写り込んでいる時があり、その時はどこか居心地悪そうにしているのが特徴的だった。

 

 

「だな。……コイツ……仮に「13回」としておこうか。13回は2回写り込んだ女と1回写り込んだ女と一緒に撮られている。……つまり、グループを組んでいる転生者の中でも最も警戒心が薄いヤツだ。一番の付け目……! なおかつコイツを経由して他の転生者の情報も抜き取れる」

 

「写真を見ると、ザバン市のビジネスホテルに宿泊してるのかしら? その周辺での写真が多いわね」

 

 

 ダリィの指摘の通り、13回が写っている写真はザバン市南東にあるビジネスホテル周辺の景色が多い。これは、彼がその辺りを拠点に活動しているということを意味している。

 しかし、シンドは逆にそこに違和感を抱いた。

 

 

「だが、少し妙だ。この時期のザバン市だぞ? 転生者が多いのは向こうも承知のはず。11月ごろならいざ知らず、12月に入った今の時期ならばオーラで転生者かどうか見抜かれることくらいは誰でも理解しているはず……。にも拘(かかわ)らず外で活動しているのは何なんだ?」

 

「保存派なんじゃねーか? 転生者を探してるとか」

 

「なくはない。だが、この写真の様子を見てみてくれ」

 

 

 そう言って、シンドは写真を指差す。

 写真には、13回がカフェで時間を潰していたり、電話で誰かと連絡している場面が写っている。あとは仲間の転生者と立ち話をしていたり──だ。周辺の様子を伺っているような場面は少なかった。

 

 

「保存派なら、他の転生者を探したり監視しているはずだ。だが、この男は誰かを探している様子は見られない。手持無沙汰……そんな雰囲気を感じる。まるで、今は本番ではない──という態度だな」

 

 

 そこまで言って、シンドは口元に手を当てる。

 

 

「…………イヤ……やはりコイツは保存派だ」

 

「なんか意見が行ったり来たりしてないか?」

 

「さっきも言った通り、ザバン市に転生者が集まってから既に日が経っている。利用派や改善派なら、もう襲撃を警戒しながら行動するのが染みついている頃だ。こういう風に襲撃を警戒していないのは、襲(・)撃(・)を(・)警(・)戒(・)す(・)る(・)必(・)要(・)が(・)な(・)い(・)グループに所属しているからだ」

 

 

 シンドの言葉に、クロトもハッとする。

 サイアイとダリィが頷いたのを見ながら、シンドはこう続ける。

 

 

「13回は保存派……! コイツを標的(ターゲット)に絞るぞ」

 

 

 「13回」と呼称される男。

 

 彼の名は────カイマン=トロペサンジと言った。




 執筆にあたり、写真に撮られた回数はエクセルで管理しております。
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