なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの発だよな? 作:家葉 テイク
11月18日、午後6時。
予定よりも少し早いその日、シンドは集合場所であるダスーチャンド市は港湾口駅の駅前広場にやってきていた。
港湾口駅は、ダスーチャンド市の中でも栄えている駅の一つだ。終業時刻でサラリーマンが帰宅を始めるこの時間帯、駅前広場はたくさんの人でごった返している。
「……>>1、かにゃ?」
人を探すように辺りを見回していると、シンドの目の前から一人の少女が声をかけてきた。
シンドは、その少女へと視線を向ける。
年の頃は10代半ば程度だろうか。少なくとも19歳のシンドよりは幼げだった。
(接触が早い……か。まぁそうだろうな)
集合日時よりも先の接触は、シンドも想定していた。というより、集合日時よりも先に接触してくることを誘うため、シンドは"掲示板"に書き込みをしてからというもの、毎日この時間帯に港湾口駅の駅前広場をうろついていた。
声をかけてきた少女も、そうしたシンドの動きを見てアタリをつけて接触してきたのだろう。
("リンカー×リンカー"を追うことが争いを生むと分かっている者ならば、集合日時よりも先に現地周辺で準備を整えるのは当然の流れ……! つまり俺の動きに呼応してくる者はその時点で"リンカー×リンカー"を追うことによる争いを覚悟した人間……。問題は……! コイツが「追うことを止めようとしているのか」……そして「目的を達する為に武力の行使をためらわないか」……! その確認が必須!!)
「あぁ。オレが>>1だよ。シンド=アクイットだ。よろしく」
「にゃーは……ネコタマにゃ。この口調は気にしないで欲しいにゃー。そういう誓約も世の中にはあるのにゃ」
「本気で嫌そうだな……」(まぁ本気で嫌だから誓約として成り立つんだろうが……)
少女――ネコタマと合流したシンドは、改めて周辺を見回す。
ネコタマが接触してきたということは、それを遠巻きから観察している別の探索者がいる可能性は大いにある。それを確認する意味もあるが……当然ながら、目視確認では彼らを観察している者と通行人の区別はつかなかった。
「この先の船着き場に船を1
「船にゃ?」
「正確には小型のボートだ。此処は港町だからな。下手に部屋を借りるより内緒話には最適だろ?」
「にゃー。用意周到だにゃー」
合流したシンドは、彼女を連れて歩き始める。
駅前広場は人通りが多い。ゆえに、あまり聞かれたくない話題を出すには向いていないロケーションだった。――場所の移動は、内緒話のしやすさの他にも意味がある。人通りの少ないところへと移動するということは、人の流れに逆らうということ。それはつまり、彼らに追従する者がいれば目立ちやすいということでもある。
(オレ程度の練度でもついてくる連中が素人に毛が生えた程度なら把握できるはず…………と思ったものの)
シンドの目では、ネコタマとの移動についてくる者は確認できなかった。
シンドの観察眼を超える尾行能力か"絶"の技量を持っているのか、本当に追跡者がいないのか、これでは判断がつかないところだった。仕方がなく、シンドは追跡者が「いる」前提で思考を進めていく。
「待ち合わせの日の前ににゃーが接触したことについては、何も聞かないんだにゃ?」
「それを言うならオレが>>1だと判断した理由もだな。どちらも聞く意味はないだろ? 答えは自明だ」
ネコタマがシンドを>>1──スレ主だと判断した理由は簡潔。十中八九、シンドが念能力者だからである。身体から立ち上るオーラを見れば、シンドが念能力者であることは明白だ。そして念能力者の総数を考えれば、待ち合わせ付近でうろちょろしている念能力者がスレを見た転生者の誰かであることは想像に難くなく、それがスレ主であるというのも、実に簡単な推論だ。
同様に、待ち合わせ日の前に合流を目論む者が戦闘を覚悟して地盤を固めようとしているということも、いちいち確認するまでもない「前提」――シンドはその認識をネコタマと共有する。
「それより、ネコタマは"円"使えるか?」
「それはまたなんでにゃ?」
「いちいち質問の理由聞くのやめねーか? 会話のテンポが悪い」
「シンドは説明を省きすぎにゃ。意図が分からないのに答えるなんてリスクありすぎにゃ?」
「…………まぁ、そりゃそうか。悪かった」
ネコタマの言葉に、シンドは頷く。
"円"を使用することで、自分達を追跡している者の有無を知ることができる――という意図での質問ではあったが、"円"は多くの場合使用者を無防備にする。ネコタマがまだシンドのことを信用していないということを考えても、いきなり"円"の使用可否を尋ねるのは確かに会話のステップを飛ばし過ぎかもしれなかった。
もっとも、この質問にはネコタマが"円"を使用できたとしてそれを渋るかどうかを読み取るカマかけの意図もあった。"円"の使用中はどうしても無防備にならざるを得ない。それを考えたら、まともな警戒心を持つ人間なら渋るだろう。そのレベルの警戒心を持ち合わせているか確認したかったという部分もある。
このカマかけにネコタマは引っかからなかったが、それ以前のところで警戒心を見せたという点で十分優秀だった。――もっともそれは、シンドにとっては彼女が敵であるリスクを捨てられないということも意味していたが。
「オレ達が尾行されている可能性くらいは既に考えてるだろ? さっき言った方法で真っ当な手段の盗聴は回避できるが、念による盗聴はカバーしきれん。射程を考えて、広範囲の"円"が可能か知りたかったんだよ」
「ん~。にゃーは"円"が苦手でにゃ~。ほぼできないと考えてもらっていいにゃ。シンドは?」
「オレは5メートル」(本当は30メートルだがな……)
「にゃー。でもまぁ、そこまで盗聴のリスクを考える必要があるかにゃ? まだ聞かれて困るような情報なんてないはずだけどにゃ……?」
「まぁな。だがもし仮に尾行されてたとして、盗み聞きするような連中にはどんなものであれ情報渡したくないだろ」
「気にしすぎだと思うにゃー」
楽観的に言うネコタマだったが、それに対してシンドは大して拘泥しなかった。
実際、念による盗聴の可能性は考えてもしょうがないとはシンドも思っているし、それにそこまでこだわるつもりもなかった。この問いはあくまで、ネコタマの意識を確認するためのものでしかない。
数分ほど歩けば、夜道はすっかり人通りが少なくなってきた。ネコタマはシンドのすぐ後ろを歩きながら、
「しかし、シンドも物好きにゃ。わざわざ生きているかも分からない人の為に当てもない調査を始めるんだからにゃ」
「まぁな。だがアテはあると思ってるよ」
振り返りざま――シンドは拳を振るう。
突然の暴力。しかしそのひと振りは攻撃ではなかった。むしろ――それは凶刃に対する防御。
シンドが振り返ったところでは、ネコタマが鋭く尖った爪をシンドに向けて突きつけていたところだった。シンドが"凝"をした腕でガードしていなければ、その爪はシンドの心臓を貫いていただろう。
「お前とかな」
「にゃあ……やってられないにゃあ」
呟くように言い、ネコタマは飛び退いた。まるで四足の獣の如き体勢――さらに鋭く尖った爪と伸びた牙を見て、シンドは考える。
(身体の変化……。具現化系か操作系…………いや、全身の変貌度の低さを考えると具現化系のセンは薄いか。となると操作系自己型……。…………口調も含めて誓約と考えると、要請型か半強制型まではサブであると見た方がいいな)
「後学の為に、どうして気付いたのか聞いてもいいかにゃ? 反省して次に活かすにゃ」
「位置取りが露骨すぎんだよ。お前はオレのことを信頼しない聡明さを見せていた。だってのに「信頼していない相手が後ろを取り続ける」ことに対する配慮はなかった。そんなもん、誰だって背撃を警戒するに決まってんだろ」
「にゃー。そっちも随分な警戒心だと思うけどにゃー……」
ネコタマがシンドの出方を伺っているその隙に、シンドは"凝"で視覚を強化する。――何もない。
ネコタマの口と両手あたりに特にオーラが集中していることは分かったが、"隠"で何かを隠している様子は見受けられなかった。シンドは即座に"凝"を両手に合わせ、
「随分損な
呆れたように、
ネコタマはぴくりと眉を動かした。
「操作系の強みは、放出系との親和性の高さにある。具体的に言えば、敵と距離を取りつつ一方的に盤面を支配できる点だ。そこを放棄するなら、一撃必殺をちらつかせることができる強制型一択……。その点、自己型は自分の操作にパワーを割いている分、他者操作や射程の面において劣ってる。サブとして使うならまだしも、メインに置くのは典型的な失敗構築だよ」
「知った風な口を利くにゃんね。そして的外れにゃ」
ネコタマはぺろりと舌なめずりをしてから、地を這うように低い姿勢でシンドに肉薄していく。
低い姿勢の攻撃は、拳に"凝"をしているシンドでは対応が難しい。足を攻防のメインにしようにも、ネコタマが肉薄する速度はシンドの"流"の速さを超えている。悠長に"流"をすれば、迎撃も防御も間に合わない。
しかしシンドはそこで、迎撃ではなく地面への殴打を選択した。"凝"による一撃で、まるで水飛沫のように地面が弾け飛ぶ。
――とはいえ、威力はそれなりだ。"纏"を習得している念能力者であれば、多少の痛みは覚えつつも突貫できる程度に見えた。
(……! 土の波にオーラ!?)
しかしネコタマは、そこでブレーキをかけていた。
彼女の目には――集中したオーラ。"凝"だ。
(殴り飛ばした土の破片に"周"……? 放出系か強化系……ウボォーの真似事でもしているつもり? 何にせよ突っ込んでいたら危なかった……。"
空中に巻き上げられた土の破片。
その下で、シンドとネコタマの視線が交差する。
続いて行動を起こしたのは、地面に拳を叩き込んだ直後のシンドだった。
「何が的外れだって!?」
接近し、拳を振るう。"流"の精度と速度ではシンドの方が高いと見たネコタマは、地を蹴って距離を調整しつつ両手で攻撃を警戒する。
そしてその流れは、シンドの想定の通りだった。
("
生み出された念人形――"
完全に想定外の新手。シンドと"
――あろうことか、地面を転がり腹を見せた。
(!? 明らかに非合理!! ……操作能力の条件を満たされた!?)
ギチリ、と。
瞬時に予測したシンドの思考を裏付けるように、シンドとの脳裏に一瞬にして強烈な「愛くるしさ」が浮かび上がってくる。
まるで、愛する我が子を目の前にしたような感覚。それに対して武力を向けているという事実に、思わず
その一瞬の間に、ネコタマは転がった勢いのままにさらに距離を取る。
「操作系の強みは他者を操作できる一撃必殺性にあるにゃ。そしてそれに対抗するには、同じ操作系能力で自らを操るしかない。つまり操作系自己型は最強の盾と矛を有する完璧な
嘲笑うように、ネコタマは言う。
「道理で操作系について一家言あるわけにゃんね。物理型は確かに汎用性と対応力が高い能力が多いにゃ。でも元手が少ないうちはどうしても戦力が低くなる。つまり、よーいドンの戦闘には不向き。議論スレちゃんと読んだかにゃ?」
「穴が開くほど読み尽くしたよ。そしてその為の戦闘方法もな」
先程の愛らしさは、まるで霞か何かのように消えていた。残滓すらも残していない――愛らしさを覚えたという実感も消え失せていた。
(間違いなく操作系要請型の効果……。感覚の残滓すら残らないのがその証拠! 十中八九要請型に付随した記憶補正だろう。愛くるしさを与えたことによる後腐れをなくすのが制約にもなっているわけだ……。考えられてるな)
拳を構えながら、シンドは思考を進める。
(操作系自己型による強化を下敷きにした近接戦闘と、操作系要請型による対象の一時停止。攻撃的な見た目に反して、自己型を選択した動機を考えると大分防御的な発想の念だな……。さっきから立ち回りも消極的だ。とすると、"掲示板"を利用したい競合というよりは利用を阻止したい保存派……? しかし複数人で来ないところを見ると、一匹狼の過激派か)
睨み合いをしている状況だが、ネコタマはシンドが新たな兵を作ろうとすれば即座にその隙を突く構えだった。
ゆえに、シンドも下手に動くことはできない。……しかし、硬直はお互いにとって利になりえなかった。戦闘が長引けば、集合日時よりも先に来て地盤形成を試みている他の転生者の介入を受けるリスクがあるからだ。介入してくる転生者の派閥が不明である以上、自分が人数不利になる前に決着をつけて雲隠れするのが最善である。
(……仕方がない。
思考を進めながら――――シンドは