なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの発だよな? 作:家葉 テイク
("
指示を送った瞬間、一瞬オーラが鳴動する。僅かな変化ではあったものの、様子を見ながら"凝"で警戒していたネコタマはその予兆を見逃さなかった。
(オーラの波!! ヤツの能力が自動操縦も可能なものなら、おそらく"
先程と同じように隙を作ろうとすれば、おそらく待っているのは袋叩き。
そう判断したネコタマは、自動操縦状態となり動きのスペックが落ちたであろう"
操作系能力者の自動操縦は他の系統の能力者のそれに比べて、操作条件が緻密な傾向にある。対応されづらい下段からの攻撃にも対応してくると考えたネコタマは、"
「「再生」」
直後、"
シンド=アクイットの能力――"
能力者が自らの手で念を込めて破壊した物質を修復・変形させ、念人形として運用する。
念人形"
"
「っ!? がに゙ゃ!?」
全く想定外の攻撃。四肢と口に"凝"をしていて、胴体の念での防御が薄かったこともあっただろう。ネコタマは衝撃をモロに受け、枯れ木のように舞うが――シンドは追撃の手を緩めなかった。
ドバッ!! と、思い切り地面を蹴り飛ばし、まるで飛沫を上げるようにネコタマに直撃させる。――そしてその飛沫は空中で人型を形成し、両手で以てネコタマを殴り落とす。
――大ダメージ。通常の使い手であればとっくに気絶していたであろう負傷だったが、ネコタマは地面に叩きつけられる前に身体を反転し、4つ足で態勢を整えていた。――その表情には、最早殆ど意識の色はないにも拘らず、である。
(……自己型の強みだな。もう意識も朦朧としているだろうに、プログラムされた操作内容を遵守している訳だ)
こうなってくると面倒なのは、殺したところで"死後強まる念"となってさらにシンドに牙を剥いてくる可能性があるということだ。もっとも、シンドにネコタマを殺す意志はないが――初撃からして、ネコタマは殺す気で動いていた。死闘である以上、「殺さず事を納める」などという平和惚けた方針を堅持するほどシンドは愚かではない。
シンドは改めて足に"凝"をしながら、
(
オーラを込めた蹴りで以て、シンドは地面を抉り飛ばす。空中で"
向かって来る"
「さっ……きから、"凝"ばっかァにゃ!! アンタの能力はァ……"凝"を使わなきゃ発動できない!! だが、にゃーを前にそれで戦い続けられるかにゃ!?」
ネコタマの肉薄までならば、シンドの想定内。
シンドに予想外があったとすれば――それは、その攻撃速度。
(速……いや、
オーラの総量で言えば、シンドの方がややネコタマよりも多い。単なるオーラ運用技術のみでも、まだシンドの方が上だろう。しかし、能力由来の身のこなしも込みでの格闘能力ではネコタマの方が上だ。
つまり下手に"凝"に拘泥すれば、オーラの薄いところを抉られて消耗していくのはシンドの方ということになる。よってシンドは即座に"凝"での迎撃を諦め、"堅"による防戦へと移行する。
"
しかも位置取り的に、ネコタマは"
「自己型を擦りすぎて忘れたか? 操作系の強みは手駒由来の手数の多さだろ」
背後から、"
シンドの方に集中していたネコタマからしてみれば寝耳に水とも思えるタイミングだが――ネコタマはシンドの指摘を鼻で笑った。
「そっちこそ忘れてるにゃ? 自己型相手に「パフォーマンスの低下」は期待できないにゃ」
完璧に不意を打ったタイミング。
しかしそれでも、ネコタマは驚異的なスピードで跳躍し、タックルを回避する。そして位置取り的に、タックルを躱された"
ネコタマが、勝利を確信した笑みを浮かべる。"
(衝突のダメージによる操作の停滞は確実!! 仮に受け止めた個体の操作を
――その刹那。
最後の「詰め」に向けて、まずは感覚器を破壊するための一撃を繰り出そうとした彼女が見たのは、シンドとの衝突の直前に反転し背中を預けた体勢の"
能力者本体での格闘すら分が悪いのに、念人形で突撃させたところで不意打ち程度では難なく対応される――ゆえに、シンドは「不意打ちに対応させること」自体を隠れ蓑として、その先の「再生」による追撃を意識しづらくさせたのだ。もっとも、これを回避してもそれはそれで次の"
つまり、シンドと"
「"
それに対し、何かを思う間もなく。
ドバッ!!!! という破裂音と共に、ネコタマは土の飛沫に呑み込まれた。
◆ ◆ ◆
果たして、それでもネコタマが行動不能になることはなかった。
というか、完全に失神しているにも関わらず"
――操作系自己型に属する"
加えて(キルアのような)体組織の操作による爪や牙の変形も技術に依らず行えるが、これはあくまで余技にすぎない。シンドが看破したようにこの能力は多分に防御的な能力であり、その真髄はネコタマ自身が述懐したように「ダメージによってパフォーマンスが低下しないこと」にある。
そして"
「…………自己型の能力なら、やっぱ失神時の保険は残してるよな。クソっ。死なない程度にダメージを加えれば能力解除できるかもと思ったんだが、甘かったか」
倒したはずの少女が再び4つ足で立ち上がったのを見て、シンドは軽く舌打ちをする。
操作が継続している以上、シンドにこれ以上彼女をどうこうする術はない。戦闘を継続する意志がないのを見て、とりあえずシンドは臨戦態勢を解除して"円"を展開する。――これは、戦闘が一段落した今、仮にこの戦闘を監視している者がいれば1番横槍を入れて来やすいタイミングだと判断したからだ。
果たして、シンドが"円"を展開してから数瞬後――
「!!」
――ドゴォ!! と、物陰から飛び出してきた1つの影が、ネコタマの頭を粉砕した。
現れた小さな影は、ネコタマがその場に倒れ伏すよりも早く両肩に掌打を加えて破壊し、そして腹部に蹴りを叩き込む。
確実に戦闘継続能力を粉砕されたネコタマは、蹴りを受けてゴムボールのように数メートルほど上に吹っ飛んだ。
「――超失敬。逃げられそうだったので対処しましたが、余計でしたか?」
「……いいや。正直あれ以上どうしようもなかったからな」
ネコタマを殺害したのは、小学生か中学生くらいの年の頃の大人しそうな雰囲気の少女だ。
茶色い髪を肩くらいまで伸ばしており、オレンジ色のフード付きパーカーを身に纏っている。
程なくして、ぼとり、という音を立てて、ネコタマだったものが地面に落ちる。その
「非常用の超逃走モードでオーラの守りが最低限だったのが超幸いしましたね。お陰できちんと超殺しきることができました」
それを認めて、少女は改めてシンドに向き直る。
「私は『掲示板』の開発者を捜索したいという貴方の意見に超賛同する立場です。戦闘に関しては傍目から見て貴方の方が超優勢だったので、待機して取りこぼしに超備えていた形ですね」
そこで少女は1拍おいて、
「……殺さず事を納められればそれに越したことはなかったんですが、初手で超殺しにかかってくるようなヤツですし、逃げの準備も万端だったようなので、逃がして暗殺を狙われるよりは超マシだったかなと」
言い訳するような少女の物言いに、シンドは一瞬怪訝に思ってから納得する。
転生者の多くは、現代日本での倫理観を色濃く引き継いでいる。もちろん現代日本とは比較にならない治安の地域が多数あるこの世界ではあるのだが、「処世術」として警戒心を引き上げることはできても、殺人を忌避するという根幹の倫理観まではなかなか変わらないことが多いのだ。
実際、シンドは(死後の念を警戒したという実利的理由もあるが)自分を殺しにかかってきたネコタマに対し、積極的な殺意を向けることはついぞなかった。
そんな中で突然現れた少女が頭を潰すという無惨な方法で殺害を行っていれば、助けてもらったとかそういう経緯を抜きにして警戒と侮蔑を向けられる可能性はかなり高い。この少女は、それを気にしているのだろう。
シンドはつとめて穏やかな態度をとりながら手を振って、
「アンタの判断で正しかったよ。手を貸してくれて感謝もしてる。助けてくれてありがとう。……超の人、で合ってるよな?」
「そう呼ばれるのは複雑ですが……。はい。サイアイ=キヌハタです。ちなみによく超疑われますけど、ちゃんと本名ですよ。戸籍は超ないですけど」
「疑う……? よくある響きな気がするが…………あぁいや、キヌハタは珍しいか?」
謎の言い訳を続けた少女――サイアイにシンドは首を傾げる。
それを見て、サイアイはバツが悪そうに眉をひそめた。
「…………あー、なんというか、こう……『とある魔術の
「えぇ!?」
"とある魔術の
シンドの記憶が正しければ、アニメにもなっているライトノベル作品だったはずだ。当然ながら別に"ハンターハンター"の作者たる冨樫義博とは何の関連性もないし、作劇も特に影響を受けているといった話は聞いたことがない。つまり、"ハンターハンター"とは全く無縁の作品だ。
シンドは"とある魔術の
名前という第2の人生の根幹をこの世界と全く関係のない作品のキャラに
「…………んまぁ……そういう誓約もアリか?」
が、ややあってシンドはそう呟いて己を納得させた。
ネコタマ(故)も、ネコ口調の誓約を設定していた。おそらくサイアイが掲示板上でも特徴的な口調を使っているのも、自分の名前を元のキャラに寄せているのも、そういう誓約の一環なのだろう。
「元ネタ分かられてヒかれるのも超苦しいですけど、ネタが伝わらないというのもそれはそれで超気まずいですね……」
「俺はサイアイはそういう人だってつもりで接するから別になんでもいいよ」
「んんん!! そこをなんとか、このペルソナの奥にある本来の私を超感じてほしい……!!」
「それは追々な」
軽く受け流しつつ、シンドはサイアイと協力してネコタマの躯を埋葬する。
おかしな話だが、シンドはこの共同作業を通じていつの間にかサイアイに心を許していた。
ネコタマを殺害したのは、彼女がシンドのことを殺す気で戦闘していたことも含めて、仕方のない側面はあった。実際にシンドは救われた側なのだから、それでサイアイに対してどうこう言うつもりは全くない。
だが、それでも人の命が失われたことに変わりはないのだ。
そこで、シンドとサイアイはどちらから言うでもなくネコタマの埋葬を始めた。殺すしかない敵であったとしても、その死を悼むことは忘れなかった。そこには生命に対する、最低限の敬意がある。フィクション作品のキャラに自分を寄せているだとか、何の躊躇もなく人の頭を殴り潰したとか、そういった異常な経緯を踏み越えて、シンドはそこにシンパシーを感じたのだった。
「そういや自己紹介してなかったな。オレはシンド=アクイット。よろしく」
「超よろしくです」
そうして粗方埋葬を終えたタイミングで、シンドはある疑念に思い至る。
些細な――しかし重要な疑問だった。
「ちなみに性格のエミュとかもそのキャラの感じになってるの?」
「それ聞くの相当エグいって自覚超ありますよね??」