なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの発だよな? 作:家葉 テイク
サイアイ=キヌハタ──と現在名乗る少女が生まれ落ちたのは、今から12年前。
産声が上がったのは、"流星街"であった。
流星街――独裁者の人種隔離政策に端を発した無法地帯。
歴史を紐解けば1500年ほど前から廃棄物処理場として扱われてきており、現在も政治的空白地帯として
――という、辞書的な説明よりも簡潔に説明するとすれば。
「
転生者は、基本的に乳幼児期の間、完全な自我を持たない。
自我の起点自体は、胎内にいるタイミング。妊娠およそ20~23週あたりから「意志」と呼べるものが発生するが、その時点ではあくまで断片的。数秒ほど意識を保ったと思ったらまたしばらくは意識を失って……という形で「前世」の意志が目を覚ます状態が続く。
次第に意識を保てる時間は長くなっていき、生後10か月程度である程度安定するようになるが、この状況でも赤ん坊としての本能的な動作に抗うことはできず、あくまで満足に可能なのは「思考」のみとなる。行動まで含めて完全に可能となるのは、生後3歳ごろだ。
転生者は"
少女もまたそうした転生者の多分に漏れず、生まれて間もなく"念"の修行を開始した。
だが、彼女の環境が安穏とした修行を許さなかった。
奇しくも彼女が生まれた1987年は幻影旅団設立の年であり、流星街が単なる「棄民の街」から「殉教者の集団」へと変貌を遂げる過渡期の最終局面であった。
己の生まれ落ちた土地が流星街だと悟った彼女は周囲の雰囲気の変化を敏感に感じ取り、一刻も早い自衛能力の獲得を目指す必要があると考えた。
生活用水を使った水見式の結果、己が"変化系"であることを知った少女は考える。どんな能力が、
少女は生まれて間もなく自分に念が使えることを認識したが、しかしその理由が自分の才能にあるとは考えなかった。
それは
「命は命でしか贖えない」。
のちに"報復の掟"の元となるこの誓約は、流星街がマフィアンコミュニティーと手を組んでからしばらくして長老の中で念能力に目覚める者が現れるうちに発生した。
これは――"ハンターハンター"の本編で語られた事実。"
流星街で生まれ育った者にある種の誓約と共に念能力の素養が授けられている可能性。
これは、カキンにおいて"
そしてもしそれが正しいとすると、流星街の誓約には本編ではまだ語られていない「
それに対抗する為にどうすればいいか考えた結果――少女の結論は、「自らの念のメモリを早い段階で消費してしまう」ことだった。
コミュニティーの中で生活することによってある種の念に組み込まれる恐れがあるなら、その前に発を作り出し、他の念能力を習得する余裕をなくしてしまえばいい。
しかしそこで、変化系能力の習得難易度が立ちはだかって来る。
操作系ほど明確ではないが、変化系にも幾つかの類型が存在している。
例示すると、オーラの性質を現実の物質に寄せる変化系模倣型、オーラに自分のイメージした特殊な性質を付与する変化系仮想型、オーラの形を変形させる変化系成形型などが挙げられる。
習得難易度で言えば、最も低いのは変化系成形型だ。
原作にも登場した代表例は、ゴンの"ジャジャン拳・チー"やマチの"念糸"。習得難易度が低いのも納得だろう。だが、習得難易度の低さは習得に必要な
かといって、他2つだと今度は習得難易度が高すぎると少女は考えた。
変化系仮想型はビスケの"
変化系模倣型としてはキルアの"
もちろん、制約と誓約を使えば習得難易度は遥かに低くなるだろう。
だが、可能ならば最初の段階では制約と誓約についてはかけたくなかった。
少女は、変化系において理想の能力はヒソカやキルアのそれだと考えていた。基本的な性質をオーラに付与したあとは、そのオーラの運用によって特殊能力を構成していく。これが一番現実的で対応力の高い
たとえ早期に
では、どうすればいいか。イメージ修行を省略しつつ応用性のある能力を構築するならば、必然的に変化系模倣型が最適だと少女は考えた。
しかし、模倣型の修行は変質させたい物質に能力者が常に触れ続けるなどする必要がある。"纏"ができるようになった程度の赤子でも触れることができ、かつ応用性のある物質がないか。少女はそう考えた。
そして、やがて気付く。――「そういえば、空気なら常に触れているんじゃないか?」
直感的に、いけると感じた。
空気ならば常に触れて体内に取り込んでまでいるのでイメージはしやすいし、オーラの運動がそのまま風という形で攻撃にもイメージできる。何より彼女の生前の愛読書である"とある魔術の
ゆえに彼女は己のオーラを空気のようなものに変化させる能力を開発し――――。
◆ ◆ ◆
「ただ、超問題があったんですよ」
シンドに案内されたセーフハウス代わりのボートの船内で、サイアイはそう語る。
お互いの身の上話から始まった彼女の来歴の話は、いつの間にか念開発の苦労話に移り変わっていた。
「問題?」
「オーラを空気みたいに変化させるのはわりとすぐ実現できたんです。呼吸っていう形で空気を体内に取り込み吐き出す動作に慣れていたのも超大きかったですね。ものの数日で形にはなりました。ただ……変化系からだと、放出系は超遠いじゃないですか」
「………………ああ、なるほど」
サイアイの説明に、シンドは頷く。
「イメージソースの根底に創作物があったのも超よくなかったんでしょうね。創作物における異能って、『現象が能力者から放出される』タイプが超多いですけど……それって念で超再現しようとすると、変化系と放出系っていう遠く離れた系統を超使わざるを得ないので」
「…………………………」
「シンド?」
「あ、いや。"掲示板"の制約にまた引っかかったっぽい」
「何言おうとしたか超分かりやすいですね」
「
「つまり、オーラを空気みたいに超変化させられたのはいいですけど、それを体から超離すことはできなかったんです。でももう超ここまでやっちゃいましたから、どうしようって思ったんですね」
「ふむ」
「そこで超思い出したんですよ。『
頷くシンドに、サイアイは得意げに語る。
「『禁書』においても、気流操作系の能力者は普通に超ある程度射程を持ってます。ただ、ある種の改造を脳に超仕込まれた能力者っていうのがいるんですよ」
「うえぇ……脳に」
「ま、そういう制約みたいなものですね。『絹旗最愛』っていうキャラは、脳を超改造されて最強の能力者の『防護性』を植え付けられたことで自分の体表数センチと両手付近に限定した超至近距離限定の気流操作を手に入れたんです」
「……それ、何の意味があるんだ?」
「大ありですよ。気流を纏って疑似的な怪力みたいなこともできますし、何より気流による自動防御でバズーカとか全然ガードできたりします」
「自動防御!」
確かに、空気に変化させたオーラを体表で操作することは"纏"と何ら変わらないし、"堅"をするだけでも圧縮した空気を纏うような効果が得られるかもしれない。そこに幾つかの制約を組み込めば、防御力もさらに向上するだろう。自動防御という「前以て特定パターンでの操作の型を用意する」手法ならば操作系の修行もそこまでいらないのも大きかった。
バズーカをガードできるというとウボォーギンクラスの防御力ということになるので、どこまで本当かは実際に試さないとシンドには俄かに信じがたいところではあるが……イロモノのように見えて、かなりの実力者というのは間違いなさそうだった。
「まぁ、流石に私は常時自動防御とはいかないですけど……幾つかの制約と誓約と引き換えに、かなり近い水準までは超近づけてますよ」
「制約と誓約……口調とかか?」
「んまぁ……それは超ゲン担ぎみたいなものですけどね」
サイアイは少し気まずそうに言って、
「どうせ能力を寄せるなら、能力者の方も元ネタに
「まぁ、なんとなく分かりはする」
そこまでする必要があるか? とシンドは内心思ってみるが、案外こういう余人には理解できないこだわりが誓約となって能力を強化するものである。
「ファッションも超寄せるようにしていたら、いつの間にかそっくりに超成長しまして。病は気からって言いますけど、こういう能力がある世界なら超気の持ちようで成長の方向性も変わるんですかね」
「へぇー……」
なんてことないように言っているサイアイだったが、シンドには分かった。おそらくそれは、具現化系の能力でそういう風に無自覚のうちに変身しているだけだ、と。
ビスケの例もあるし、「元ネタの外見に肖ろう」という強い意識を常に持っていれば、自然とその姿を具現化してしまうこともあるだろう。サイアイの「なるべくメモリを消費したい」という思惑も無関係ではあるまい。おそらく、そうやって他の能力の開発の余地をなくしたことが逆に誓約として機能しているはずだ。
とはいえ本人は無自覚のようなので、それをあえて伝えても……と思い、シンドは黙っていることを選択した。
「で。この後は超どうするんです? 一応私という協力者は超獲得してますけど、他の襲撃のリスクとの天秤ですよね」
「予定通りに行くかな。明日も期日前の合流者を探すし、当日に普通に来た協力者とも会うよ」
「…………当日に来た人もですか? ぶっちゃけ、当日に来るような人は超危機感がないと思いますけど……」
今回の呼びかけには、保存派や利用派といった派閥の転生者達が介入することが容易に予想される。
そうした者からの攻撃を受けるリスクを考えることができるなら、合流の日時よりも前に現地の下見をするのは当然の流れ。それすらしない――即ち「目的の競合」に思考が回らない者を仲間に加えるべきか? というのが、サイアイの考えだった。
しかしシンドは首を横に振って、
「気持ちは分かるが、そういうヤツこそ仲間に加えた方がいいと思う。そういうヤツはつまり、裏表がないってことだからな。立ち回りだのはオレやサイアイが教えてやればいいが、裏があるヤツや思想的に問題があるヤツはどうしようもないだろ?」
「…………一理ありますね」
確かに実力ある者が来てくれればそれに越したことはないが、転生者はほぼ念能力者であることが確約されている以上、ある意味で一定の実力は担保されているとも言える。
それならば、仲間となるのは気持ちのいい性格の方がいい。多少抜けていたとしても、裏表のない人間の方が仲間として好ましいというのはサイアイも頷けるところだった。
「決まりだな。じゃあ、ひとまず合流日まではこの船を使ってくれ。宿泊環境くらいはちゃんと整ってるから」
「超十分すぎますよ。流星街生まれを超ナメないでくださいね」
「重いなぁ~……」
◆ ◆ ◆
――それから、瞬く間に2日が経過する。
結局翌日は誰も引っかからず、合流日当日、11月20日、13時――――。
約束の場所には、シンドとサイアイ――彼らに加えて、1組の男女の姿があった。
「命は命でしか贖えない」という誓約は実際にあると明言されていますが、これが流星街全体の誓約なのかどうかは原作描写からだと不明です。"
あくまで、転生直後に自分が流星街出身だと知った余裕のないサイアイが叩き出した推論であるということで。