なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの発だよな? 作:家葉 テイク
シンド達と2人組の男女、それぞれの視線が交差する。
2組は、お互いにどちらから言うでもなくお互いのことを認識していた。
2人組のうちの1人――少女の方はシンドとサイアイを見るなりぱっと笑みを浮かべて、大きな動作で手を振る。シンドもまた、手を振った少女に手を振り返した。
2人が大した
目の前の男女は念能力者で、他に念能力者はいない。そしてそれは、少女達側から見ても同じだ。つまり、念能力者(ひいては転生者)はこの場で4人のみ――ネコタマが行った判別方法と同じである。
シンド達と合流した2人組は、どちらも年若い少年少女だった。
シンドに手を振った方は、亜麻色の髪をツインテールにしたサイアイと同年代くらいの小柄な少女。どことなく私立校の学生服みたいなデザインの服を身に纏い、学生鞄のような鞄を背負っているのが特徴だった。
そして彼女と共にいた方は、ネコタマと同年代くらいの精悍な印象の少年。少し長めの黒髪に、黒いウインドブレーカーを合わせている。しかし陰気そうではなく、全体的に活動的な雰囲気だった。顔つきの優しさもそれに一役買っているだろう。
シンド達がある程度近づくと、少女の方が先に口を開いた。
「お2人のどっちがイッチ?」
「イッチ? ……ああ、>>1か。それリアルで言ってる人初めて見たな……」
イッチ。インターネット掲示板でスレ主――即ち>>1のことを(多くの場合親しみを込めて)言い表すスラングである。
なお、しれっと言っているが、シンドの方も"掲示板"の利用者と会ったのは昨日が初めてなので、リアルで言っている人を初めて見たのは実は当然の話である。
リアクションしているシンドをよそに、隣のサイアイが手でシンドのことを指し示す。
「こっちが超>>1ですよ」
「あぁ。アナタは超の人なのね」
「まぁ……超それでいいです」
少女の方は、話が早かった。とんとん拍子にシンドとサイアイの素性を把握し、馴染んでいく。
一方、もう1人――少年の方は、状況について行けていないようできょとんとしていた。事前に少女の方とはある程度会話しているのか、少しばかり打ち解けた様子で少女へと問いかける。
「え? え? この人たちがそうなの?」
「だからぁー、オーラを見なさいって言ったでしょ」
少女はやや声のトーンを落として、呆れたような調子で少年に言う。
その声色から、少女と少年の出会いでも同じやりとりがあったのが容易に想像できた。
「人口における念使いの比率は、街中じゃ到底出会えないほど極小よ。そして転生者はその性質上全員が念使いと考えるべき。イッチの説が正しいなら、"掲示板"の利用者は念による「攻撃」を受けているからね。よって、前以て指定されていた集合場所に念能力者がいたら、イコール転生者を疑う! この状況のセオリーだわ」
「面目ない……。初めてオフ会参加するもんで」
「オフ会て……」
申し訳なさそうに言う少年に、シンドは思わずツッコミを入れてしまう。……確かにオフ会と言われればその通りな状況ではあるのだが。なんとも釈然としない解釈であった。
「セーフハウスがあるから、積もる話はそっちでしよう。……ただ、その前に自己紹介だな。オレはシンド」
「サイアイ=キヌハタです。超よろしく」
「オレはクロト。ジャポン出身だ」
「わたしはダリィ。みんなよろしくね☆」
挨拶を交わした4人は、そのままここ数日サイアイが生活しているボートのセーフハウスへと足を進める。
人通りの少なくなってきたタイミングで、クロトは遠慮がちに口を開く。
「あ、あのさ……。サイアイさんってさ……」
「呼び捨てで良いですよ。クロトの方が年上でしょうし」
「あぁうん。サイアイって、それ"
クロトの確認に、シンドは少し意外な気持ちだった。
シンドが見た限り"掲示板"でも全然ツッコミを入れられていなかったので、てっきり"絹旗最愛"のことを知っている人はほぼいないと思っていたからだ。
「おお、よく分かりましたね。超その通りです」
「いや流石に分かるて……。だってまんまだもん」
「そうなのか……」
逆に呆れているようなクロトの調子に、シンドは少し申し訳ない気分になる。そんなに見る人が見れば一発で分かるような外見ならば、シンドの煮え切らない態度はさぞ居心地が悪かっただろう。
「なんというか、凄いな……。口調だけじゃなくて、見た目まで完璧に元ネタに寄せてるのか。なんか、本人が目の前にいる感じがしてくるよ」
「いやぁ……超それほどでも……。というか、そんなに超珍しくもないですけどね」
少し照れているクロトに、サイアイは満更でもなさそうな笑みを浮かべながら答える。
それに補足するように、ダリィが口を開いた。
「サイアイちゃんほど気合入ったのは珍しいわよ。でも、似たような傾向……まで対象を広げれば、割といなくはないかも」
ダリィは人差し指を立てて、
「この世界にも、念の元ネタに既存の概念や創作を使うハンターだっているしね。同様に、前世特有の概念や創作を念の元ネタにするっていう例はままあるの」
「え、そうなのか……。念ってこう、無から自分の感性に合うものを捻り出すのが良いんじゃないか……?」
念の開発にはかなり拘っていた自覚のあるシンドがぼやく。
なお、彼の発言はサイアイに刺さっているようで、実際のところサイアイも最初は自分に合うものを考え出して、それを後から他作品に合わせて整えていったという経緯があるため、微妙に配慮された発言でもあるのだった。
とはいえ、それを知らないダリィも特にそこには触れずに、
「本当に色々いたわよ? 「仮面ライダー」やってた具現化系の人とか」
「ムズそうだな、具現化系で仮面ライダー……」
ダリィの説明に、シンドは呆れながら呟く。
確かに具現化系ならライダーの「ガワ」は形成できるだろうが、その「ガワ」に十分な攻撃力を持たせるのは強化系だ。生半可な能力では見掛け倒しになってしまうのは想像に難くない。
「あと、「ウルトラマン」やろうと頑張ってた人もいたわねー」
「それは流石に無理だろ」
全長数十メートルの巨人に変身する能力は、個人の念能力の限界を超えている。
なお、この世界のエンタメ事情だが、実はこの世界にも元の世界の娯楽は一部存在している。たとえば何があるかというと、ドラゴンボールもナルトも存在しているくらいだし、そもそもそのものずばり「週刊少年ジャンプ」も存在している。無論、「ハンターハンター」は存在しないが。
一方で、ウルトラマンや仮面ライダーといったエンタメ作品はこの世界には存在していない。同じ少年誌でも「週刊少年マガジン」や「週刊少年サンデー」もない。"
「ええ。だから最終的に光線技だけ再現する感じになってたわ」
「放出系だったのか…………」
他人の念開発苦労話を聞くと、なんとも侘びしい想いになってくるシンドなのであった。そして、意外と他作品から元ネタを引っ張って来る転生者がいるらしいことに静かに驚きを覚える。
ただ、実のところこれは理に適った流れでもある。
多くの転生者にとって、念というのは「憧れを実現する装置」でもあるのだ。少年ならば、誰しも「ギア2」や「螺旋丸」や「デトロイトスマッシュ」や「日の呼吸」や「黒閃」などに憧れを抱くもの。そうした憧れは念という精神的要素の強い技術においては強固なイメージソースとなりうる。
それが念というシステムや個人の資質に合致するかはさておき、強い憧れは誓約にも繋がるし、1から自分で能力の詳細を考えるよりもよほど修行もやりやすい部分はある。むしろ、下手に自分で1から考えるよりも「元ネタありき」からスタートして念能力として無理のない範囲に近づけていく方がよほど有用な能力になるケースすらあるのだ。
「俺が考えてたときは自分の系統をどう生かすのかだけ考えてたなぁ……」
能力開発事情に対して、クロトはしみじみと言う。
転生者にとって、念能力の開発というのは"掲示板"の情報とのにらめっこが前提である。なまじ情報が大量にある分(しかも正誤の精査も定かではない)、念能力の使用に際して考えるべきことの全てを網羅するのは、相当頭がよくないと難しいだろう。
「系統ね……クロトの系統も気になるが、込み入った話はセーフハウスの中でしようか。ちょうどついたことだしな」
そう言って、シンドは足を止める。
貸切られた船着き場には、1艘の船が波に揺られていた。