吾輩は先生である。
なんて、ふざけた思考をしていた時の話。
僕ちゃんは、連邦生徒会に押し付けられた、机の上にある、書類の山を右から左へ移し、新しい山を作っていた。目が滑るので休憩として、背筋を伸ばした瞬間、背中バキバキ、お腹ブルブル、頭クラクラの三重奏が鳴り響き、椅子から転げ落ちる。
その衝撃で、僕ちゃんの口から威勢よく声が漏れた。
「痛ってぇ!」
その声に反応して、先生のクエストを手伝います!と、言っていたがいつの間にか、僕ちゃんの後ろのソファーで寝っ転がって漫画を読んでいた。群青混じりの足まで届く黒髪を、黒のカチューシャで左側にサイドテールを作り、青空色の瞳を、漫画に向けていた少女。天童アリスが読んでいた漫画をほっぽり出し、問いかけてきた。
「先生!新しい特技の練習ですか!?アリスもやりたいです!」
そう言って彼女は、ミレニアム製の制服が汚れる事も厭わずに、床にダイブし、明るい声で言う。
「痛ってぇ!」
僕ちゃんは、顔が真っ赤になるのを自覚しつつ、痛みを堪えて立ち上がり、倒れているアリスの前に行く。
「アリス。痛ってぇ!はあまり、お行儀が良く無いから言わない方が良いよ」
言葉を発して、彼女に手を伸ばした。
「アリス知りました!痛ってぇ!は言わないようにします!」
彼女はそう言って僕ちゃんの差し出した手を掴む。手の内側でメキメキと音が鳴った。
痛い!手が死ぬ〜!なんて言いかけるが、大人な僕ちゃんは動じずに、アリスを立たせた。
そして。
天下の宝刀、ニコポを炸裂させる。魅力的な顔面偏差値83点の底力が放たれた。
「先生?なぜ笑ってるのですか?やっぱり、楽しいのですか?」
その一言で、僕ちゃんの笑顔が引き攣った。
それはそれとして、机を離れる口実が出来たので、アリスの手を引いて共にソファに座る。あとで、リンに文句を、言われると思うが、今はアリス優先だ!
「ねえ、アリス。さっきはどんな漫画読んでたんだい?」
「アリスは、女の子同士が裸で絡み合う漫画を読んでいました!色々な格闘技があるのですね!」
僕ちゃんは先ほどアリスが、ソファの端にほっぽり出した、秘蔵のコレクションを背中とソファの間に隠した。
「なぜ、隠すのですか?アリスはもっと読みたいです!」
「いいかいアリス。この世界には知らない方が良いことがあるんだよ。あれを見られるのは、私にとって、魔王神龍ラグナロクが復活した時と同じくらい危険な事なんだ」
「アリスは理解しました。危険な行為だったのですね」
そう言って彼女は僕ちゃんのナイスボディに抱きついた。ミチィと、音がしたが気にしない。
「アリスは先生を守るのです」
僕ちゃんを心配しているのか、アリスの声色が少し揺らいでいた。さらに圧迫感が増す。僕ちゃんはクールなナイスガイだけど、顔が変顔になる程、体に力を込め、抵抗する。僕ちゃんの変顔が気になるようで、彼女が小首を傾げた。
僕ちゃんは、目を血走らせながら、アリスに囁いた。
「ア、アリス。ラムネバーが有るんだけど食べない?私は食べたいんだけど一緒にどうだい?」
「ラムネバーですか?アリスも食べたいです。でも、先生を守りたいです」
「大丈夫、私は良い守り場所を知っているんだ」
「そうなのですか!?それなら早く行きましょう先生!」
彼女が僕ちゃんから離れ、立ち上がる瞬間、僕ちゃんの体は剛人幻魔と化して、秘蔵のコレクションを、先程までいたオフィスチェアの鍵付きの引き出しに仕舞い込んだ。これで大丈夫。
「そこが良い守り場所なのですか?」
「そうだね。鍵を閉める事で、みんなに見つからないんだよ」
僕ちゃんはそう言って、ラムネバー食べよっかと、アリスの頭を撫でた。
彼女はへにゃりと目を細め、僕ちゃんの手のひらにグリグリと、頭を押し付けてくる。
少し時間が経つ。
僕ちゃんとアリスは、執務室の隅っこに置いているシルバーグレーの冷凍庫付き小型冷蔵庫の前にいた。
僕ちゃんは上段の冷凍庫の扉を開く。中には、ラムネバーが一本。
「先生、ラムネバーが一本しか無いのですか?」
アリスが問いかけて来た。僕ちゃんはラムネバーを取り、袋から取り出して、アリスの手に握らせた。
「アリス、私は君がラムネバーを食べるクエストを発注するよ」
アリスは目を輝かせ、はい!アリスはクエストを受けました!と、無邪気に笑い、僕ちゃんの手を引っ張り、一緒にソファに座る。
アリスは僕ちゃんの隣で、黙々とラムネバーを食べていた時。
執務室に置いてあるのっぽの古時計のカチ、カチと鳴る、小さい物音に僕ちゃんは、誘われるように目を瞑った。
古時計の針の音に合わせて、走馬灯が僕ちゃんの過去から這い出てきた。
アビドスで生徒達に、砂に埋められてファラオになりかけたり、ミレニアムでは僕ちゃんを起動エレベーターの実験台と称して、人間大砲で射出したり、トリニティにおいては、先生教なる物が爆誕しかけたりしたなと、思い出が振り向かせてくる。
気づけば、僕ちゃんは仰向けに寝ていて、アリスが跨っていた。
僕ちゃんに馬乗りになっている、いつものアリスらしく無いトーンの、彼女の声がのしかかる。
「アリスはもっと色々な事が知りたいです。先生の生態や思考を教えてください」
アリスは人工的とは思えない、青みがかった瞳で見つめてきた。アリスも先生にクエストを発注しますと、言いながら、さらに、僕ちゃんに全体重を乗せ。強くホールドしてくる。
とほほ〜!生徒に好かれるのは大好きだけど、機械娘はもうこりごりだぁ!と、思いながら。僕ちゃんの視界はプツンと消えた。
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