石が、燃えていました。
そこはヒノキの壁、ヒノキの床、ヒノキの椅子に囲まれていて、部屋は湿度87%、温度44度の熱気が溢れ、空気に染み込み、隣同士で座る二人の大人の体力を蝕んでいきました。
時間は夜遅くなので、彼ら以外の利用客はいませんでした。
一人は、キヴォトスの大人でも珍しい人間の男。黒い髪、黒い瞳、裸で腰を白い布で覆ってました。20代の筈なのに日々の疲労から、30代に見えます。
もう一人は、キヴォトスの大人でも一般的なオートマトン。発光するオレンジ色の線が走る金属のバイザー、金属の巨体、裸で腰を黒い布で覆っていました。金属の躯体のせいか、疲労も苦悩も分かりづらいです。
オートマトンが一言、告げました。
「私はこの熱気に耐えられるが、先生、お前はどうだ?」
人間が淡々と言葉を返しました。
「ふっ、まだ大丈夫だよ。それより、君の方が先に耐えられなさそうだよ?」
「ふん、どうだか」
オートマトンが言葉を返して、立ち上がり、彼らが座る場所の正面右側。そこにある杓子で木製のバケツから水を掬い、熱された石にかけました。さらに、空気が二人を圧迫してきます。
元の場所に座り直したオートマトンが、隣の人間に顔を向けました。ニヤリと、オレンジ色のアイラインが点滅を繰り返します。
彼らの距離は近いのですが、心の距離には明確に壁がありました。しかし、それは男同士のプライドの距離でした。
10分程度がたった後、静寂を突き破るように、オートマトンが口を開きます。
「先生、着任して日が浅いだろう。アビドスの事など忘れて、DU地区のシャーレに戻ったらどうだ?」
人間が焦点の合わない瞳を下を向けながら答えます。
「それは出来ない相談だよ。たとえ、火の中、水の中、あの子のスカート中。そこに生徒の助けを求める声がするなら、どんな場所でも飛び込むからね」
「それはご苦労な事だ。だが、無意味だ」
それから、耐え忍ぶためにまた、静寂が訪れました。
二人の体には、多量の水滴が付いています。
人間は猫背の状態で両肘を両膝に置き、肩を大きく揺らしながら、短い息を連続して吐いています。黒髪は、雨で濡れたみたいに、しっとりとしていて、目に水滴が入り、チクチクとしました。
オートマトンはその金属の体をしっかりと伸ばしていて、キューンと、低音が内部から発せられています。金属のバイザーのアイラインはさらに感覚が短く、弱々しい点滅を繰り返していました。
そして、限界は訪れました。
彼らの座っている場所から見て、左奥のすりガラスの扉が開き、一匹のカワウソの獣人が顔を覗かせて、言います。
「あの〜、そろそろ閉店の時間ッス」
こうして一夜の我慢比べは幕を閉じたのでした。