宮殿に戻るとすでにエスデス隊長がイェーガーズに緊急招集をかけていた。いつもの会議室にはもう俺たち以外は集まっていたそうだが、俺とコイちゃんは宮殿にいなかったためクロメが探しに出たらしい。
「ウェイブ君!」
「あぁ、ボルスさん。大丈夫ですよ。そんなに心配しなくても、ちょっとヘマしただけです」
見回してみるとセリューやランも心配そうに見ている。心配かけちゃったな。反省反省。
「遅い。何をしていたんだ」
……うん、隊長はこうでなくちゃ…
「では、ウェイブとコイも来たことだし話を始める。と、いっても事務連絡のようなものだ。すぐに終わる。気構えずに聞いてくれ。
先日、ケイが生きているかもしれないという話があったと思うが、本当だった。しかも大臣直属の部下として軍に所属している」
「「「!!」」」
俺とコイちゃん、それにクロメ以外は驚いている。そりゃそうか、帝都を騒がせた殺人鬼がこの宮殿に居たんだからな。
……クロメが驚いていないというのはやっぱり…
「元暗殺部隊所属だそうだ。つまり、クロメとは面識がある。そうだな?クロメ」
「はい……でも、彼はそんなに悪い人では…」
「何言ってんですか!クロメ!あいつは善良な市民を大量虐殺した犯罪者ですよ!?正義の敵です!大臣は何を考えて……!」
セリューが食ってかかる。やっぱりそうなるよな……こうなるとコイちゃんがケイの妹って話をしたらその場で殺してしまいそうだが……
「それは命令で仕方なく……!」
「やめろ、お前たち。ケイはいわばお前たちの上司に当たる。セリュー、間違っても変な気は起こすなよ?これは命令だ」
流石隊長。こういう時の気迫はスゲェな。
「……了解です」
納得はいってないようだが、渋々認めるセリュー。
「それと……もう一つある。コイ、いいか?」
「……はい」
セリューに全神経を集中させて彼女がコイちゃんに襲いかからないように警戒。多分クロメも同じこと考えてる。俺は今セリューを止められないからな。頼んだぞ、クロメ。
「コイはケイの実妹だ」
「「「!!」」」
……どうなる?コイちゃんは俯いている。おそらく嫌われると思っているのだろう。
「だからって、ケイの殺人衝動がコイにもあるわけではないからな。仲間には変わらん。分かっているな?セリュー」
「な、なんで私だけ……ってかみなさん?なんで戦闘態勢なんですか?」
見るとランとボルスさんもセリューを警戒していた。考えはみんな同じだったか……
「みんな、お前がコイを攻撃しない警戒してるんだ」
た、隊長…そんなストレートに…
「な、なんで!?コイちゃんは関係ないでしょう!?……え?なんですか?皆さん、私がケイの妹ってだけでコイちゃんを殺すって考えてるってことですか!?」
「そうだ」
隊長………すげぇー……空気読むとかのレベルじゃねぇ…
「な、な、なんですか!皆さん!そんなに信用ないんですか!コイちゃんは大事な仲間です!そんなことしません!私が手にかけるのは悪だけです!コイちゃんは正義ですぅ!」
ハッ、とコイちゃんが顔を上げる。予想外の反応に驚いているようだ。まぁ俺も驚いた。こんなに丸いやつだったんだな、こいつ。なんかあったのか?
「ふふ、そうか。スマンスマン。だ、そうだぞ?コイ?」
「セリュー殿……」
「コイちゃん!私は身内に悪が居るからってあなたを敵視しませんよ!それこそ悪の諸行です!私はあなたに流れる正義の血を信じてますから!」
ははっ!いいこと言うじゃねえか、セリュー。こりゃ杞憂だったな。
「そうだな、まぁ他の奴らは大丈夫だと思うが……もう一度言う。コイは私達の仲間だ。分かってるな?皆、チームワークを乱さないように」
「勿論です」
「こんないい子あんまりいないからね、私の娘もこんな風に育って欲しいくらいだよ」
ランとボルスさんも気持ちは一緒のようだ。
「エスデス隊長…皆さん………うぅ!私は感動しました!皆さんの心の広さに!今後ともよろしくお願いいたします!」
と、頭を90度に下げてお辞儀をするコイちゃん。もっと暗い話になると思ったが、俺たちの絆が深まるいい機会になったな。良かったぜ。
「ケイに関してはまた詳しい連絡が入ると思う。公にするんだ、大臣の奴がまた何かしでかすかもしれん。警戒するように」
「「「「「「了解!」」」」」」」
その声は俺たちの心が一つになった合図のように思えた。
「しかし、ウェイブがそこまでやられるなんて相当強いんだね、ケイは」
「あぁ。私と同じレベルだろうな」
隊長…俺の怪我具合でそんなところまでわかるのか。やっぱすごい人だ、この人。
「この前殺しあったところだ」
「「「「「!?」」」」」
マジで、何してんすか……フリーダムすぎる……
『あ、どこいってたの、ケイ君?』
コイの殺害に失敗して宮殿に帰ると部屋の中に《至急、私の部屋まで来るように》という置き手紙があった。渋々向かうと、そこにはミソギ君と見知らぬ女の子がいた。
「君も呼ばれてたのか、ミソギ君。……そちらの女性は?」
「あ、初めまして。私、ムカエっていいます。ミソギさんと同じ過負荷(マイナス)です。よろしくお願いしまーす」
あぁ、この前ミソギ君が探していた………軍人だったのか?
「そうか、ムカエちゃん。僕はケイっていうんだ。よろしくね」
そういって、僕は手を伸ばす。
「あ!ダメです。私の手に触ると腐っちゃいますよ?」
……流石過負荷(マイナス)、自虐がすごいな。
『いやいや、ケイ君?これは文字通りの意味だからね?そういう帝具なんだよ。「万物腐朽ラフラフレシア」触れたものを問答無用で腐敗させる帝具だよ』
…………さらっとすごい事言ったな。なんなんだ君の人脈は。
「おぉ、来ましたか、ケイ君、待ちくたびれましたよ」
出たな、諸悪の根源。これ以上変なことを起こさないでくれ?本当に殺すからな?
「では、とりあえずメンバーは揃ったので話しましょうかね」
「あの?私ここにいていいんですか?ミソギさんに連れてこられただけなんですけど…」
そうなのか。勝手なことするなよ、ミソギ君。
「えぇ、ミソギ君が見込んだ人なら大丈夫でしょう。軍に正式に加入させましたので。ご心配なく」
「そうですか……」
『安心して?ムカエちゃん。僕が色々、手取り足取り、教えてあげるからさ』
「はい!」
……この子…球磨川を信仰してるのか?哀れな…
「はい、じゃあいいですか?今回君たちを集めたのは他でもありません。あなたたちと私が用意したもう二人でチームを組んでもらいます。イェーガーズのようにね」
ついにきたか……流石にいつまでも一人で行動させてもらえるとは思わなかったが……厄介だな。チームということは多くの人間と長い間一緒にいなきゃいけないってことだろ?殺意……抑えきれるかな……
『へぇーいいね!カッコいい!漫画の秘密組織みたいじゃないか!、それで他の面子は?』
「今呼びます。いいですよ!入ってきて!」
大臣が呼ぶと一人の赤髪の男が入ってきた。あれ?一人?
「……?もう一人はどうしました?」
「それが…『飽きた』とか言ってどっか行っちゃいました」
大丈夫かそいつ。大臣の予定をすっぽかすとか……大物だな…
「全く…勝手ですねぇあの子も。まぁいいです。あなただけでも自己紹介を」
「……はい、カルマといいます。よろしくどうも」
……一向に目を合わせないな。コミュ障か?大丈夫かよこのチーム。
「はい、まぁもう一人はおいおい説明していきますので悪しからず。あなたたちはイェーガーズとは違い、私の監視下にあるチームです。要は私個人の私兵みたいなものです。これから色んなことをやってもらいますので」
『まぁいいですけど……例えば?』
「……まぁ暗殺とかですかね。いわば帝国側のナイトレイドのようなものですよ。イェーガーズでは非合法なことは出来ませんからねぇ」
……全く、要は自分の都合の悪い存在を消す部隊ってことね…僕には御誂え向きだけどさ。
「ふーん、まぁ、私はお金がもらえればなんでもいいですよ」
「私はミソギさんに従います」
『僕は構わないですよ?最近暇ですし』
「僕も。約束を守ってもらえるならば」
反対するものはいないようだ。
「ヌフフ。頼みましたよ」
『あ、僕たちのチーム名は?』
ミソギ君が手を挙げて質問する。名前あるのか?暗殺部隊じゃダメなのか?
「えぇ、一応考えましたよ。あなたたちは誰一人として普通(ノーマル)ではありません。異常(アブノーマル)のようなエリートでもない。むしろ人に迷惑しかかけないと蔑まれてきたことでしょう。そんな落ちこぼれの烙印を押されたあなたたちだからこそ世界を混沌に導けると信じてこの名前にしました。あなたたちのチーム名はーー」
ーーー特殊暗殺部隊『ナイアーラトテップ』
ナイアーラトテップというのはクトゥルフ神話に出てくる混沌を司る邪神です。
めだかでのミソギの異名《混沌よりも這い寄る過負荷》から。
もっと有名な名前があるんですが……気持ち悪さが出ないのでやめました^_^;