あれからコイと一緒にブラートを探し回ったが結局見つけられなかった。結論としては、インクルシオはグランシャリオにはない特殊能力で逃げた、ということにした。そうせざるを得なかった。ただ逃げられたと言うのと、未知の能力を使われたと言うのでは隊長の拷問のレベルが違ってくるからな(それでも微々たるものだが)
が、結果としてその拷問は行われることはなかった。それよりも重要な事件が起こったからだ。なんともまぁラッキーなことだ。
その事件というのが
『イェーガーズの皆さん!こんにちは!ミソギでーす!』
イェーガーズとナイアーラトテップの邂逅でなければの話だが。
事の発端は大臣だ。ナイアーラトテップとイェーガーズ。帝国の平和を守るために動く組織としてそろそろ顔合わせをした方がいい、ということらしい。まぁ普通ならば何もおかしいところなどない。むしろ今までなぜ顔合わせを行わなかったのか不思議なくらいだろう。しかし…
そこにはもちろんケイもいる。
「………」
「ケイ……」
『あれ?ケイ君、君、クロメちゃん以外とも知り合いなの?』
「あぁ、そこの田舎者とエスデス将軍にはあったことがある。それにそこにいる眼帯の女は僕の妹だよ」
『妹さん!?わぁ!言われてみればそっくりだ!名前は?これからよろしくね!』
「コ、コイです。よろしくお願いしします……」
こいつがミソギ…。ナイアーラトテップのリーダーに位置付けられている男。なんだろう……この感覚は…人当たりはすごい良さそうなのに……一言で言うなら…気持ち悪い。
いやそんなことはどうでもいい。いや、どうでもよくはないが、そんなことより……
「ムカエ……」
「あの時のキチガイ娘!なぜここに!!」
セリュー……いや、なんでもない。人のこと言え……いや、なんでもない。
「……話しかけないでくれない?ウェイブ君。私はもう貴方のことなんかなんとも思ってないんだから」
「無視するな!!」
今にも噛みつきそうなセリュー。まぁ、殺されかけてるからなぁ。しょうがないっちゃしょうがないけど…殺すなよ?
「……こいつが……確かにいやらしい目をしてるな……」
ん?なんかあの赤髪の男に睨まれてるな…いや、睨まれてるというより……なんかこう…ゴミでもみるような…
「そ、そうだ、セリュー。アカメが出現したんだって?その後どうしたんだ?」
気まずくなったので話題転換。いや、これだって十分に重要な案件だからね?
「私が現場に着いた頃にはもうアカメはいませんでした。警備兵を散々葬った後、姿を消したみたいです。時間があればもう少し探したかったんですが……」
そうか…一体何が目的なんだ?わざわざ自分の姿を晒すなんて。まるで見てくださいと言わんばかりじゃないか。…何かの作戦か?
「貴様がミソギか。大臣から聞いている。直属の暗殺部隊だそうだな。これから任務で一緒になることもあるだろう。その時はよろしく頼む」
『はーい。こちらもご指南よろしくでーす』
みんな色々思うことがありそうだが……それぞれの隊長が手を取り合ったことで、メンバーもなし崩しに和解することとなった。セリューはいささか不満そうだが。
と、その時会議室の扉が開いた。大臣か、とも思ったがどうも違うようだ。緑髪の……男?
『あれ?ラバック君?なにしてんの?こんなところで』
「貴様は!ナイトレイドの!」
ミソギとセリューが同時に反応する。少し遅れてランと赤髪の男も気づいたようだ。ナイトレイド?じゃああれがミソギと赤髪の奴が捉えたっていう…
「皆さん、落ち着いてください。私はもう昔の…ナイトレイドのラバックではありません。オネスト大臣に改造され、善の心に目覚めたのです。ラバック(改)です」
「何を!血迷ったか!コロ!」
「きゅい!」
その掛け声とともにコロが巨大化。ヘカトンケイルの本性を現した。ちょっ!こんな狭い室内で!
「喰い殺せ!」
「ギュアアアア!!!!!!」
「せ、セリュー!待……」
「………………」
ーーーーヒレフセーーーー
瞬間、コロは地面に叩きつけられた。さながらその言葉に従うかのように。これは………!
「コロ!」
「落ち着いてください。セリュー・ユビキタスさん。それに『魔獣変化・ヘカトンケイル』。私はあなた達に害はなしません。程の良い奴隷か何かだと思って構いません。『敵の前線で使うもよし、囮に使うもよし、人質に使うもよし、好きに扱いなさい』と大臣から仰せつかっております。ですので私はイェーガーズ、ナイアーラトテップの臨時メンバーとなります。好きに扱ってください」
…………全員が息を飲んだ。その発言に、そしてその未知の能力に。冷静だったのはミソギと隊長、ケイくらいか。
「今のは…帝具か?」
隊長は冷静に質問する。そうか、これは帝具の性能。それならば納得がいく。いや、でも報告によればこいつの帝具は糸ではなかったか?
「いえ、今のはただの特技です。能力、と言ったほうが正しいですかね。《言葉の重み》ーー今の私の言葉には誰も逆うことができません。でも安心してください、あなた達には今みたいなことがない限り使いませんから。あぁ、もちろん帝具も与えられています。『千変万化・クローステール』ではありませんがね」
今のが…特技……?その上新しい帝具まで…大臣……もう驚かねぇが、自分の保身の為なら本当何でもするな…
「ふーん。随分とまぁ強くなっちゃってまぁ……洗脳ね……ミソギ君どう思う?」
『どうもこうも……あの能力、ラバック…(改)君だっけ?あれが彼の言う通りの能力なら恐ろしいね。死角がないにも程がある。言葉なんて防ぎようがないからねぇ。カルマちゃん並みに防御が難しい』
ナイアーラトテップ組も一目置いてるみたいだな……
「きゅーん」
「コロ!」
いつの間にか縮んだコロ。能力はきれているようだな。いや、ラバックがきったのか?
「隊長!私は反対です!ナイトレイドですよ?こいつは!」
「私も不本意だが……大臣の決めたことだ。それはつまり陛下の命令でもあるのだ。セリュー、分かってくれ」
「でも………!」
納得いかないみたいだな、セリュー。まぁ、あいつの正義感からいって、敵と共闘するのはプライドが許さないんだろう。
「……セリュー・ユビキタスさん」
「話しかけるな!私は……お前なんかと!」
「お気持ちお察しします。私も大臣によって正義の気持ちに目覚めました。ナイトレイド…絶対に許せない社会悪です。私も今までそこに所属していた…本来なら私も許されない存在です。ナイトレイドを倒すことで、この罪が償えるとは思いません。ですので」
ーーーナイトレイドを全員倒した際には私も自害します。
「!!」
こいつ…!
「なんなら、セリュー・ユビキタスさん。あなたが私を殺しても構いませんよ?」
「お前……」
「私が死ぬことでナイトレイドという存在は無に帰すのです。そして私は死ぬことで罪を少しでも償うのです」
「…大臣め、いい駒を見つけたものだな。洗脳で改造したようだが、ここまでそれを行わなかったということは洗脳の器具に使用制限があるか…それとも対象者に限定条件があるのか」
隊長、冷静だな……正直、俺はこいつが怖いぜ。……洗脳か………こいつも哀れだな。ま、ナイトレイドで悪さしてた訳だし、そのツケが回ってきたってことだな。因果応報ってやつか…
「そういうことです。皆さん、しばらく厄介になります。御用とあらばいつでもお呼びください。それでは」
「以上が私が見てきたラバックの現状です」
あの後、もう少しラバックを見張っていた。しかし、もう昔のような気さくなラバックはそこにはなく、大臣の命令にただただ従うだけだった。そして、ナイアーラトテップとイェーガーズの臨時メンバーに…
私達だけでは救出は無理だと感じ、アカメちゃんと一旦アジトへ戻ってきた。
「そうか…大臣め、まさか洗脳とはな…これは厄介なことになったぞ」
「ナジェンダ、どうするんだ」
「……どうするとは…救出の話か?こちらから宮殿への侵入はもうしない。ナイアーラトテップとイェーガーズの臨時メンバーになったというなら、殺されることはないだろう。次に相見えるのは戦闘の時だ。洗脳をを解くとしたら、その時になるな」
「そうじゃない。洗脳とは人格の上書きだ、こう言ってはなんだが…俺は洗脳されて元に戻った人間を見たことがない。つまりラバックは次会う時には確実に敵として現れることになるだろう。その時は……殺してもいいのか」
!!え……いや、え?な、何言ってるの?
「……もちろん最初は直すことを優先とする。だがあっちは殺す気でかかってくるだろう。……直せる見込みがないと判断した時は……容赦無く殺せ」
「……了解」
「ちょ!ちょっと待ってよ!!」
思ったより大きな声が出た。いけないいけない冷静にならないと。
「ラバックを殺すの?あ、あいつはマインを命懸けで庇ったのに?それはいくら何でも………!」
無理だった。声がどうしても大きくなる。
「……どうしても直せないと判断した場合だ。会った瞬間殺せと言ってるわけじゃない」
「でも、無理だと判断したら殺すんでしょ!?戦闘中に正確な判断なんて無理に決まってるじゃない!」
「落ち着け、チェルシー」
「アカメちゃんも!なんでそんな冷静なのよ!マインだってあんななのに!」
あれ?あたしなんでこんな熱くなってるんだろう。少し前まではあたしだって仲間より任務を優先してたのに…
「……チェルシー、気持ちはわかるが私たちは殺し屋だ。私情だけでは動くことはできない。お前だって分かってるだろう」
「で、でも殺さなくてもいいじゃない!せめて保留で…」
「ナイアーラトテップもイェーガーズもそんなことを考えて勝てる相手ではない」
「スーさんは黙ってて!」
「おい、チェルシー……」
レオーネがなだめてくる。でも止まらない、止まれない。
「なによ!分かったような口聞いて!なんでそんな、冷静なのよ!……あぁ、そっか…感情ないんだっけ?帝具だもんね!マインにだって『何もするな、今は一人にしてやれ』ってさ。結局何もしないんじゃない!」
「!!」
「チェルシー!言い過ぎだ!」
「アカメちゃんもレオーネも!ノットなんとかの言うこと素直に聞いちゃってさ!タツミのこともちゃんと探さないでさ!よくまぁ大事な仲間のことをそんな風にすぐ諦められるよね!」
「その辺にしておけ、チェルシー」
「アカメちゃんは何考えてるかわかんないし、レオーネはいつもふざけてるようにしか見えないし!あんたたちにとって仲間なんてそんなもんなのね!」
「ーーッ!黙って聞いてりゃふざけたことばかり言いやがって!!」
レオーネが私の胸ぐらをつかんで押し倒す。が、それでも私の興奮は止まらない。
「なによ、間違ってる?本当のことじゃない!」
「お前だけが辛いなんて思うなよ!ボスだって苦渋の選択なんだ!私たちだって、それしか手がかりがなかったからそうしただけなんだ!」
「レオーネ!やめろ!」
レオーネのその言葉に私もさらにヒートアップする。
「そういえばあんた、スラムの生まれなんでしょ?そりゃあ、生きる為になんでもしたわよね!仲間を売るなんて日常だったでしょうね!」
「チェルシーも!言い過ぎだ!」
「このっ……!」
バキッ!と、鈍い音を立ててレオーネが私を殴りつける。
「レオーネ!!」
「ほら、そうやって気に入らないことがあったらすぐに殴る!いいわよ、殴り殺せば?仲間をゴミにしか思ってないクズ女!」
「お望みどおりぶち殺してやるよ!!」
「スサノオ!止めろ!」
そこでスーさんがレオーネを後ろから抱えるように止めにかかる。
「止めるな!スーさん!」
「落ち着け!レオーネ!殴りつけるのはやり過ぎだ」
「チェルシー、大丈夫か?」
アカメちゃんが私にハンカチを差し出して血を拭ってくれようとする。でも今は…
「触らないで……」
私はふらふらと立ち上がり、会議室を出る。
「どこへいく、チェルシー」
「部屋。ついてこないで。あんたたちの顔なんて見たくない」
バタン!
「チェルシー……」
「ほっとけ!あんなワガママ女!」
「…みんながバラバラになっていく…1週間前まではみんな仲良くしてたのに…なんで……こんな………」
部屋に戻った私はベッドに倒れこんだ。…なんであんなこと言ったんだろう、私……みんなラバックのこと心配してる。当然なのに……
「……あれ?」
気がつくと泣いていた。あれ?止まらない……なんで?
「……う……ぅ……マイン……ラバック……………………タツミ…………!」
私、甘くなったな。殺し屋……失格だ……。
「あ、おかえりなさーい。タツミさん」
「……名前、バレてたんだな」
「えぇ、まぁ。安心院さんに聞いてましたから。どうです?安心院さんから色々聞けました?」
「あぁ、帝具が生まれた訳、スキル、色々とな。君の正体も……」
「そうですか…ま、別にいいですけど。あ、そうそうこれ。どうぞ」
イートちゃんの手にはインクルシオの鍵が。折れた刃が直っている。これが彼女の本来の能力か。あんまり変化はないが、色が変わったな。赤みがかっている。
「ありがとう。恩にきるよ」
「いえいえ。怪我ももう良いですね?」
「あぁ、何から何まですまないな。最後に……」
「?………!!?」
俺はそうしてイートちゃんにキスをした。さっきのお返しのように。
「は……はにゃ……」
「それじゃあ、また。本当、ありがとうね」
早くアジトに戻らないと。みんな心配してる。
「………結構肉食系なのね……………ッ!いや!これは………!そういうことか……だったら最初に言ってよね………」