「はぁ……はぁ……」
ダメだ……どこかで休んでお菓子食べなきゃ…。もう目眩で前が見えない……。
ナテラやドーヤを出す体力もない。少しでも回復させないと……。
「…………おいし……」
ボルスさん……死んじゃったのかな……。もうあの人の美味しいご飯食べられないのかな………。それは……やだな……。
「………………ウェイブもいないし……もう……最悪……」
ガサッ!
「!!」
反射的に八房を抜く。敵襲!?いけるか……この体力で……。
「あ、やっぱりクロメちゃんだ!よかった!無事だったんだね!」
「ぼ、ボルスさん!?」
生きてたの!?あの爆発で……どうやって……。
「焼却部隊は火耐性を上げる儀式を受けてるからね。爆熱で死ぬことはないよ」
「あ……そっか………」
よかった………これでこっちは全員無事!またみんなでご飯を食べられる……!
「でもゴメン……帝具は無くなっちゃった……」
「いいよ!全然!ボルスさんだけでも無事で……」
これで2人で帰れる……。敵が来る前に早く宮殿に戻らないと…。
「はぁ…はぁ……」
「大丈夫?クロメちゃん?」
「平気……ちょっと疲れただけだから……」
……うーん……ガイアファンデーションでボルスに化けて隙を狙ったはいいけど……決定的な隙がないわね……。何か……異様な不気味さを感じる………。
「はぁ……う……!」
「クロメちゃん!」
倒れた!ここだ!
「大丈夫!?クロメちゃん……!」
「大丈夫……お菓子食べればすぐに……」
「辛そう………あ、そうだ!楽になるおまじないをしてあげるね?」
「え?」
ズプッ
「………え?」
「………はい、これでもう苦しまない……」
「あ…………」
悲しいけどこれも殺し屋の因果だと思ってね。
「あ………う……………お姉……………ちゃ…………ムナカ…………タ………」
「…………暗殺完了。これでウェイブ以外全滅ね……」
………最後お姉ちゃんって言ってたな……。それと……ムナカタ?………恋人の名前かな……。
「ごめんなさいね。来世では恋人と仲良くね。もっと…平和な世界で……」
そう呟き、私は八房を回収。これでやっと帰れるわ。……さて、どっちがアジトかしら……。
「ねぇ」
「!!」
気がつくと、持っていた八房が無くなっている。え……嘘でしょ?無刀取り?
「さっきのおまじない、効かないよ?とっても痛いし、とっても苦しいよ?」
「う、嘘…急所を抉ったはずなのに……」
「……お姉ちゃんがいなくなってから帝国で劇薬が開発されてね。体に負担はかかる一方だけど……お陰でこの体を手に入れた。……自分でもびっくりだけど、私を殺すなら心臓を潰すか頭を吹き飛ばすくらいしないとダメみたいだよ?」
「くっ!」
私はとっさに持っていた煙幕を使う。逃げなきゃ…これはまずい。まさか半分人間辞めてるなんて……。
「とりあえず何かに変身……」
ズキュン!
「あ……」
ガイヤファンデーションが……。砕け……。
「さっきウェイブ以外全滅と言っていた……きっとボルスさんの敵!ドーヤ!ナタラ!そいつを殺して!」
マズイ……マズイマズイ!!
「はぁ……はぁ…」
振り切れたかな……。幸い、体力的にはこちらの方が有利……。
ズキュン!
「あ…………カハッ!」
お腹が………。熱い……。やられた……。
「うぐぅ!」
逃げなきゃ…逃げなきゃ…!
「…………………」
「あ………うぐ!」
ナタラ………。首が………あ…………。
「…………………」
「か…………は…………」
苦しい……このまま絞め殺され……いや……あの槍で……殺すのかな……。
………深追いしすぎたな……クロメを舐めてた……。ここまでか……。私は殺し屋。死ぬ覚悟なら……いつでも……。
「…………………うがぁぁぁ!!」
「!!」
腰に差してあったナイフでナタラの腕を攻撃。そのまま草むらに逃げ込む。
「はぁ…はぁ…」
嫌だ…!死にたくない……!死が怖い……!死んだらどうなる……?何も考えられなくなる……。もう誰とも会えない……!みんなとも……タツミとも……!
「はぁ……あぐぅ!」
逃げ込んだはいいものの、血も出ている。すぐにナタラに発見されて、馬乗りに押さえ込まれる。
「いや!誰か!助けて!!」
やだ………死にたくない……。死にたくない死にたくない!死にたくない!!死にたくない!!!
「誰かぁ!!死にたくないよぉ!!あ……いやぁぁぁぁ!!」
眼前にはナタラの槍、トリシュラが。これで首を落とすつもりのようだ。
「嫌…ぁ…助けて!助け……あ……!」
再び首を絞められる。もう逃げられない。
「あ………あ………う……」
涙が止まらない。やだ……死にたくない……!もっとみんなといたい……。スーさんの美味しい料理を食べたい……。ボスとチェスをしたい……。レオーネとスイーツを食べに行きたい…。マインと平和な世界でショッピングがしたい…。ラバと馬鹿話をしたい…。タツミと……。
タツミともっとお話したい……。
タツミに好きって伝えてない………!
「ぁ………助け……」
助けて………助けてみんな………助けて……。
「助けて……助けてよ………タツミ……」
ガキン!
槍は止められた。赤みがかった鎧の手によって。私はその鎧を知っていた。否、見慣れていた。いつも気づいたら目で追っていた、見知った鎧だった。
「た……つみ……」
「だぁ!」
赤みがかった鎧、もといインクルシオはそのままナタラを吹き飛ばす。嘘……本当に……。
「タツミ………?」
「安心しろ。チェルシーもう大丈夫だ」
「な、なんでここが……」
「ラバが
タツミが……来てくれた……。本当に……。………………ぅ……!
「ぅぅ……ぅ」
大声で泣き叫びたかった。でもこの状況にならないとわからないものなんだな。人間って本当に恐怖すると泣くこともままならない。ただただ震え、嗚咽が漏れ、タツミにしがみつくだけだった。
「……大丈夫だ。もう大丈夫だから」
「何が大丈夫なの?」
「……クロメ…………」
「はぁ…………ナタラはまだ戦えるし、ドーヤもいる。…はぁ…3対2……いえ、3対1かしら、その女は戦えなさそうだし……」
「それはお前もだろう?悪いがそんな状態のお前なんぞ今の俺には瞬殺だ」
「試して……見る……?」
「………………」
「………………」
タツミともクロメが睨み合う。私はタツミしがみついてただただ震えるだけだ。
「止めておこう。互いに損しかない。俺はお前に勝てるが、チェルシーを守りながらとなると流石にきつい。ここは互いに退くとしよう。どうだ?」
「…ふざけたこと言わないで。私の命でその女の首が取れるなら……本望……」
「…………」
「ドーヤ!ナタラ!その女を殺し……グブッ!」
途端にクロメは尋常じゃないほどの血を吐いた。常人ならばそれだけで致死量となるような。
「グブッ…ブ……オェ……ッ!」
「……お前………」
「ドーヤ…ナダラ…………殺……」
「……タツミ………」
「分かってる。……今楽にしてやる……」
そう言うとタツミはノインテーターをクロメに構える。これで……お終い……。
「クロメ!!」
その言葉とともに青い鎧がクロメを引っ張り上げ後退した。ウェイブ……。帰ってきたのか……。
「大丈夫か!クロメ!」
「ウェ……イ……」
「待ってろ!今治療を……」
「私は…いいから…そいつらを………」
「何言ってんだ!ここは逃げてお前の治療が先決だ!」
「おい!ウェイブとか言う奴!」
「……やろうってのか……」
「いや、違う。ここは互いに退くとしよう。互いに戦いにメリットはないはずだ」
「………………不本意だが仕方ねぇ。クロメの命があぶねぇからな。ただ……クロメをこんなにしたことはわすれねぇ」
「こっちのセリフだ。仲間をここまで傷つけやがって……!」
「「次会ったら殺す」」
こうして、私たちの戦いはひとまず休戦となった。
「う………ん?」
「クロメ!気がついたか………!」
「ウェイブ……?私は………。そうだ!アイツらは!!」
「逃げたよ。痛み分けだ」
「何で!!あそこでやってれば、女は殺せたはず!!」
「そしたらお前が死んじまうだろうが!!」
「だから何!!私の命で女を殺せるなら安いもの……」
バチン!
「え?」
ビンタされた?う………ウェイブに?
「テメェ次そんなこと言ってみろ……許さねぇからな!」
「………………」
人体実験でひどい副作用には慣れていた。隊長の拷問も受けたことあるし、痛みには慣れていたつもりだった。
でも……このビンタが……どの実験より……拷問より……痛い……。
ガシッ
「ふぁぁ!!?」
ウ……ウェイブ!?なんで抱きしめ………!?
「無事でよかった……お前だけでも………」
……え?嘘………?え?
「泣いてるの?………なんで……?私たちは軍人だよ?そんなことじゃまた隊長に怒られ……あれ?」
なんで私も泣いてるんだろ………。
「あれ?……あれ?……ぅ……なんで涙が……止まらな……ぅぅ……」
「……よかった………本当に………よかった……!」
「ぅぅ……うう………」
多分この時私は人生の中で一番泣いた。生きてることが素晴らしいことに気づいて。……ウェイブの肩で……大声で……泣き叫んだ………。
「うわぁぁあぁぁあぁぁん!!!」
「もう大丈夫だよ……下ろしていいよ」
「黙っておぶられてろ。お前は血を流しすぎてるんだから」
「………うん…………」
磯臭いなぁ。…………嫌いじゃないけど………。
「せっかく殺せるチャンスだったのに、ナイトレイドを逃したとなると隊長の拷問コース決定だね」
「お前に二度と会えなくなるくらいだったらそっちの方が100倍マシだよ」
「………………バカ」
「チェルシー……落ち着いたか?」
「うん…………ありがとう……」
「本当に無事でよかった………。心配したぜ……傷も貫通してたから治療は楽だったしな。いやーよかったよかった」
「うん……」
「よし!じゃあ……帰ろうぜ!ほら!おぶってやるよ!」
「あ、ありがとう……」
言われるがまま、私はタツミの背中におぶさる。……大っきいな。……ずっとこうしてたい……。
「あ、あの……タツミ……」
「?なんだ?」
「えっと……あの……一回下ろしてくれる?」
「?」
「ありがとう」
「なんだよ。まだどっか痛むのか?」
「ううん!そうじゃないんだけど……」
私の心は決まっていた。死を近くに感じて思った。言いたいことは言える時に言わないと後悔するって。いつ死ぬかわからないし。だから……。
「あ、あのね!タツミ……!助けてくれて……ありがとう……」
「?おう!仲間だからな!助け合うのは当然だ!」
「そ、それでね。私……死んじゃうって時に思ったの。タツミが助けに来てくれないかなって」
「おぉ!さながら俺は白馬の王子様ってとこか?ハハッ、照れるなぁ。なんて!」
「そうだよ……タツミは私の白馬の王子様だよ……」
「え?なんて?声が小せえよ。腹を怪我してるからしょうがねぇのかもしれないけど。もう少し大きな声で……」
「………うん。じゃあ言うよ……」
「?」
「私……た、タツミのことが…………!」
「………あ、ラバだ」
「ぬにゃあ!!」
もう!空気読んでよ!ラバ!!
「木を背もたれにして座ってるな……なんだ、まだ疲れてたのか?まぁしょうがないか。おーいラバ………ッ!」
「タツミ?」
木の方へ歩いていったタツミの後を追う。?なんでそんな絶望したような顔を……。
「ラバ。洗脳溶けたんだって?もう、みんな心配して……ひっ……!」
そこにいたのはラバではなかった。いや服を見るにラバではあるのだが。
ラバ
その木にはラバの首なし死体が寄りかかっていたのだ。
ーーーラバック死亡。ナイトレイド、残り7人