超エッジランナー!/cyberpunk princess kaguya! 作:徳明
ACT1-1
◆2076/10/14
——今は昔
がむしゃらに走り続けて、清水の舞台から飛び降りる。
のうのうと逃げ出そうとしたフィクサーを始末し、ナイトシティの「生きる伝説」から尻尾を撒いて逃げる。
サイバースケルトンが生み出す反重力が、義経の八艘飛びのようにより高くより遠くへ躰を押し上げるが、それでもこの町の重力から振り切ることはできない。
ナイトシティに、そこを牛耳る
ここまで迷惑をかけ、付き合わせて貰ったレベッカとファルコには悪いけれど……だからせめて、ルーシーには生きて欲しい。
——ではなくて
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「繝�繧、繝薙ャ繝�!繝�繧、繝薙ャ繝�!、分かる?私よ!繝ォ繝シ繧キ繝シよ!繝�繧、繝薙ャ繝�!戻ってきて!戻って……」
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ふいに両頬に何かが触れたかと思うと、唇に暖かくて心地よいものを感じる。
もしかして俺、ルーシーとキスをしている……?
——超未来だったり
地に足のつかない俺達は、反重力の力によってゆっくりと地面に墜落している。
クローム塗れのデカくなった俺に抱き着いたルーシーは泣いていた。
「デイビット……インストールしたんだ……本当はあんたが入れるのは分かっていた……でも入れたら死ぬのも分かっていた……だから入れてほしくなかった……死んでほしくないから」
「この町から君を守る方法はこれしか思いつけなかった……母さんもメインも守れなかった……君だけは守りたいんだ。」
——いやいや、大昔でも超未来でもなくて
「私なんか守らなくていい……あんた自身が生きていればそれだけでよかったのに……」
「俺のことはいいんだ……なにもない俺の代わりに……君が君の夢をかなえてほしい……それが俺の夢だ」
——今とそんなに変わらない、未来の世界、デイビッド・マルティネスという者ありけり
月、一緒に行けなくてごめんな……
超エッジランナー!
cyberpunk Princess kaguya!
◆2030/7/4
「なんだったんだ今のは……」
目覚めると、知らない天井、知らない部屋……ここがどこかわかるのに、始めてみる景色をぼんやりと眺めていた。
アラサカタワーを襲撃して、ルーシーを助け出して……アダム・スマッシャーに殺されたはずだ
ファルコ達は無事に脱出できただろうか……
「デイビット!…………デイビット!」
まだぼんやりとした頭で夢の続きを見ていると、懐かしく……
それでいて二度と聞けないはずの当たり前が聞こえる。
「母さん……?」
母さんはギャングの抗争に巻き込まれて死んだじゃないか?
だから、ここは死者の世界だと思う。
でも俺は天国にいけるはずがない……確かに母さんもサイバーウェアの横領をしていたから天国にいける保証はないけど、
伝統的なキリスト教の教えによると、間違いなく俺は地獄に堕ちる……多分
「何ボサッとしてるんだい、学校遅刻するよ?……ひどい顔、学校で何か嫌なことでもあったの?」
目やにとぼやけたままの視界を拭う、袖が濡れた。
……俺は泣いていたのだろうか?
「わからない……変な夢でも見たのかも……」
「そう?でも無理はしないで、あんたにはシリコンバレーのてっぺんまで行って欲しいんだよ、それだけの才能があるんだから」
シリコンバレーというのは一体どこの企業のことだろうか、今までアラサカタワーのてっぺんと言っていた気がする……そもそもアラサカという企業は存在しない……?さっきから俺は何を考えている?
統合失調症でも引き起こしたのだろうか、頭の情報がまとまらない。
陰謀論みたいだけど……頭の中に何か差し込まれて、異世界のシャワーを浴びている気分になる。
用意されていたサラダを口の中に搔き入れて、エスプレッソで流し込みながらテレビのニュースを見る。
「モロッコワールドカップ、パラグアイに勝利しアメリカはベスト8進出」
「建設中のフランス五輪スタジアムで火災、たばこの不始末が原因か」
モロッコW杯とフランス五輪はたしか2030年にあったはずだ、つまり俺は40年も前にタイムスリップしたことになる。
俺が生まれる28年も前にタイムスリップしているはずなのに、俺も母さんもこの状況を当たり前のように、日常を過ごしている。
支度を終えて、学校へと向かう
バスの停留所まで15分ほど歩いた。
だが、目に映る情報は、俺にとって当たり前の日常でありながら、知らないことばかりだ。
アラサカにナイトコープ、バイオテクニカにカンタオ……あれだけ街中で見ていたはずのコーポの広告が一切ない、ネットで検索しても出ない。
ネットサーフィンができている時点でおかしい、
レイシィ・バートモスという人物によって引きこされたウィルステロによってネット環境は完全に崩壊している。
検索できるのはブラックウォールの内側に限られるはず……
だがいくら調べてもそのような情報は一切合切存在しない。
他にも、いまから七年前の2023年、
ジョニー・シルヴァーハンドがアラサカ・タワーを核で吹き飛ばしたが……その事件すら存在しない。
アラサカが隠ぺいしたとかじゃなくて、そもそもアラサカが存在しない。
だから、ナイトシティなんて存在しない。
俺が暮らしているモロベイはカルフォニア郊外の、小さい港町だ。
◆2030/7/4
「朝からシケた面をしているなデイビット……スマホの充電でも忘れたのか?」
「あぁカツオ、おはよう……そんなんじゃない」
カツオ・タナカ……中学のからの馴染みだ。
頭の記憶が、こいつがいけ好かないマウント野郎だといわれているが、
現実はいじめられっ子だ。
何があってもジョークのつもりで初手で煽り、イラつかせるような態度をとるので孤立していたが……なんであの時、俺はこんなやつを助けたんだ。
おかげで俺もクラスメイトから若干浮いている。
「しかしまぁ日本に短期留学とはね……僕もグランマがいなくなるまでは帰省したけど」
「ウィジャ盤で決めたが、授業を受ける前から日本語出来るからな、楽単だ。」
インプラントによる自動翻訳が言語の壁を壊し、
ナイトシティはアメリカにあったとしても、
実質の公用語は英語と日本語だった。
それに俺はアラサカアカデミーにいた時、インプラントなしの日本語学習をみっちりと叩き込まれた。
機密情報の取り扱いはオフラインモードがビジネスマナー、本社とやり取りする法務部コースの奴らと比べたら日常会話レベルの会話しか出来ないが、累計で3000時間以上は仕込まれている。
「アニメ見てたら覚えるだろ?」
「あのなぁ……日本語はFSIカテゴリー最難関なんだぞ?俺はともかく、縁もゆかりもないお前が話せるのはおかしいんだよ」
「俺にもできないことはあるさ、できることはできるだけだ」
「全く敵わないね……確かに特待生でネイティブ並みに話せるなら、センコーもお前を選ぶだろうさ、羨ましいぞ特別野郎」
「向こうに付いたら連絡する、土産物には期待すんな」
「あぁ、短期留学楽しんでこいよ?チューマ」
◆2030/7/4
学校も終わり、家に着いた俺は出発準備の最終確認を始めていた。
「遠慮しなくても、ロサンゼルス空港まで送っていくのに」
「馬鹿言わないでよ、何時間かかると思っているの?それに母さんだって仕事があるでしょ」
モロベイから空港まで、最悪5時間はかかる。
次の日は夜勤だという母さんにそんな負担を押し付けたくなくて、バスを使うことにしていた。
「ホストファミリーには連絡してある、台風も来てないから到着ロビーで待ってるてさ、羽田の前にも話したことがあるけど優しそうな婆さんだった。」
「バス乗るときは気を付けてよ?スリにあったら大変だから」
「わかってるて」
「それじゃ、行ってくるよ」
「向こうについたら、メールでもいいから連絡してちょうだい」
バスの時間が迫っているというのに心配性の母さんはいろいろとチェックする。
母さんからの問いかけに何も返事せず、頷くだけうなずいてから、ドアを閉めた。
◆2030/7/4
夢を見ることを諦めたのは、いつだっただろうか……
私は、自分には前世があるのだと思う。
幼い頃は、パパとママに何も考えずに話していた。
知らないはずの街のこと。
大切だったあの人のこと。
月へ行く約束をしたこと。
パパもママも、よくある子供の空想だと思って聞いてくれていた。
今思えば、結構恥ずかしい。
でも、頭の奥に焼き付いた景色だけは、どうしても消えてくれなかった。
あの人と一緒に、月面のBDを見たり、月へ向かうロケットを見ていた。
「俺が君を月に連れて行くよ!約束する!」
あの言葉が、ずっと残っている。
その時に確かにわたしは「月に行きたい」と言った。
でも、私は月に行きたかったわけじゃない。
過去のしがらみから逃げだして、何もかも忘れられる場所が欲しかっただけ。
だから私は……壊れたビデオテープみたいに
同じ場面を何度も再生して、
何度も巻き戻して、
酸っぱい葡萄が食べたくて、
もう終わったはずの夢を、何度も見続けている。