迷う旅人
ヴェスタ率いるポケモンの集落が新たに結成されてから約3ヶ月。
人類には毒とされる大量の魔素が大気を覆う森……ヴェスラリーアの大森林には人間など滅多に寄り付かない。
どれだけ高名な者であろうとも、どれだけ研鑽を重ねた者であろうとも。この毒を乗り越えれる覇者は数少ない。
だが、それは人類ならの話。人を超え、魔物に近き生態となった『魔人』には異なる話。
基本的にヴェスタを除いて警戒心が高いポケモンたちは見慣れないモノには近づかない。
しかし、その魔人に近づいたポケモン……[
生まれながらに強力なフィジカルと[魔法闘気]と優秀な耐性スキルを持つ[
起きたらアムルなど簡単に殺せることも露知らず、彼は魔人を自身への家へと運び入れた。
幸運だったのは、魔人の気性が荒くなかったこと。そして、魔人が元いた世界の弟に似ていたことだ。
「…ここは、いったい……」
「わっ……起きたね!人間!何しにここに来たの!?この森の外っていったいぜんたいどうなってるの!?」
急な質問攻めに魔人が困惑しながら質問に答える。
自分が異世界人なこと、流れ着いたこと、森の外を説明する。
そうして説明し終わって気がついた。この場所は、人間が生きるにはあまりにも過酷すぎることに。
そして、このような子供が生き残れている理由……それはこの子供も強力な魔人だということに。
困惑と、驚愕を抑え込みながら、こちらもと説明を要求する。
「んー?僕たちのこと?僕たちはねえ、ヴェスタ様を王とした3000人の集落なのだよ!」
「……っ!
「…?
言葉が出ない。人間側を自負している魔人としては、人類の危険になりそうなものは排除してきた。
しかし、これは魔人一人で対処できる範囲を大きく超えている。先ほどよりも大きい困惑と、驚愕と……新たな恐怖。
大きすぎる存在に震え始めた頃、新たな
「アムルと……そこの魔人。ヴェスタ様がお呼びだ。着いてこい」
「魔人ねぇ。中々強いんだろ?」
「あぁ……いや、はい。我のスキルの
「
「何を巫山戯たこと……んんっ!!ご冗談を……。ヴェスタ様なら見ていらっしゃったのでしょう?」
「まあな」
パゼルが俺に対して敬語が慣れていないのを見るのが好き過ぎてつい揶揄ってしまうんだ。
基本的に[
あの魔人、実に興味深い。同類以外だと、戦ったのはアンジュとミリムしかいないからとても参考になった。
ふむ……やはり、人の戦いというものは見るものだな。俺もだが、他のポケモンたちは人間の姿で戦うことにあまり慣れていない。
基本的に人間態でいろというのは俺の方針だが、この慣れないままではアイツらに不利益が起きかねない。
…そして、俺が人間を好んでいるというのも見抜かれている。「主君が好きだから傷つけてはいけない」なんて空気感が起こるかもしれない。
そろそろちゃんとしたルールを定めるべきかもな。
『そんなに恐ろしいものなんですか?マスター以上の強さを持つ人間なんて多くいるとは思えませんが』
俺も思ってない。けど、人間の欲ぶかさは甘くみちゃいけない。それに…いや、なんでもないわ。
『……?』
「ヴェスタ様。客をお連れしました」
ペクスが客として連れてきたのは、3ヶ月前に名付けしたぶりのアムルと大森林に迷い込んだ魔人だ。
うんうん、ペクスは相変わらず執事服が似合っているな。まだ執事と呼ぶには幼いが、成長すればアルティメット執事になるだろう。
っと、今回はそんな話じゃないな。話の主題は迷い込んだ魔人くんじゃないか。
「お前が迷い込んだ例の魔人……元異世界人の安藤龍牙か。おっと、今のお前には名前はなかったな」
「……っ!なんでそれを…!」
「残念。俺に説明する気はない。……まあだが、踏み込んだことは言わないさ。あぁでも、人類側の立場として、俺たちをどう思うかは聞いておきたいところだ」
「……お前たちは危険だ。俺が死のうが生きようが、人類はお前たちの危険性に気づく。いずれはお前たちを滅ぼすだろう!」
そんな言葉を聞いた配下たちは感情的になっている。元々プライド高いからなあ、ウチのメンバー。
人間たちを明らかに下に見ているから、そんな人間たちに「滅ぼされる」と断言されるのは面白いものではないだろう。
…しゃーなしだな。アンジュ、あれやるぞ。
『分かりました。行きますよ、マスター!』
「『
この3ヶ月、多くの鍛錬を積み重ねてきて、色々な変化があった。剣の腕が上がったり、魔法が扱うのが上手くなったりしたが、一番の変化は……
「『少しは落ち着きなさい…。覚えていないのですか?私が打ち出したルールのことを。……一つ、自身を押し倒すことだけではなく、相手を探れ。一つ、無遠慮に力を出してはいけない。一つ、すぐに激情を晒すな。少なくとも、このルールは守れと教えたはずですが?』」
「……っ、それ、はっ……」
魔素量だ。単純な量だけで言うのなら、リューゼルよりも多い。これだけ圧倒的な魔素があれば、配下たちの行動を諌めるのに役にたつ。
配下の多くが頭が働くが、感情をコントロールする能力はあまり育っていないからな。止めるには圧倒的な威圧が一番だ。
「『私たちは強さを持っている。多くの人間から見れば太刀打ちできない強さだ。だからこそ、私たちはその強さを振るうこと、その強さを持つことに対して責任を持たなければならない。それに、今や私たちはただ強く"在る"だけの魔人ではない。皆の幸福も、便利に暮らせる技術を求めていく魔人だ。そのためには、人間の力が必要だ。あなたたちの姿が、私たちの総意に捉えかねない。注意しなさい』」
配下たち全員に反省の色が見え始めたので、そろそろ[
……ふぅ、やっぱり融合技は疲れるな。多少慣れてきたつもりだが、自身の完全強化の[
まだ[剣人融合]はできないし、修練する必要はあるな。
「…本当に魔人なのか、あなたは」
「魔人らしくはないかもだが、魔人だぜ。そこら辺に関しては生まれてからまだ3ヶ月だからかな」
「だとしても、異常には変わりあるまい。ヴェスタほど変わり者の魔人は珍しいだろう」
「うるっさ。…つか!リューゼル、お前なら止めれただろ!なにボサっと突っ立ってんだよ!
「ヴェスタなら止めるとの信頼があったからだ。私はお前を信じているのだからな?」
うぐぅ……!顔面が、顔面が強すぎるぅ……!!リューゼルじゃなかったら「なーにが信じてるじゃ」とか言ってたのに…!
この元女王様、顔面が強すぎるぜ!
「ふふっ、はははは!信じられないな、お前らが魔人だなんて。…いつか人間を害するのか?」
「さあな。俺は仲間たちを守るだけだ。仲間に手を出すのなら、それ相応の覚悟をしてもらおうか」
「なるほど……。心得る…!」
侵略領域
自他共に認めるテリトリー、または支配権がある暗黒内にて絶対的なバフを発動者に与えるスキル。自身の肉体強化、出力強化などの順当なものだけではなく、相手からの精神力吸収や五感を操ることが可能である(さすがに魔素が格上な相手は操作難度が高い)。また、それ以外にも今回の話で行った[侵略領域]に踏み込んだ相手の記憶、または情報の閲覧が可能となる。