ヴェスタの友人であり、次期陸軍統括者とも謳われるクライルは今、人間態となって旅を行っていた。
現在の集落は同類しか住んでいないこともあり、他の街と比べると明らかに文明レベルが低い。そこを懸念したヴェスタがコネを作るためにクライルに旅をさせていた。
旅を始めて約1ヶ月ほどだが、成果はあった。ドワルゴンの国に入り、鍛治氏などの職人たちとの関係を作れた。一部の者たちは、誘ってくれたらどこまでも着いて行くと宣言するぐらいに仲は深まった。
ドワーフたちがいきなり大森林に来てはせっかくの人材が意味がないということで断りはしたが……明確な成果が出ている。
順調だった。……そう、旅の途中でミリムと遭遇するまでは。いきなり飛んできたと思ったら攫われ、自身が統治している国に連れてかれた。
「あぁもうやだ。お腹いたい」
「ええと、大丈夫っすか?」
ミッドレイという実質リーダーのハゲにボコボコにされたクライルはうずくまる。ノーガードで受けた腹パンはまだ余韻が残っている。
誘拐からの強制修行。自分の師匠ながら、本当に心があるのか疑ってしまった。魔王だった。あるわけがない
腹に残る痺れに似た痛みから思い出すのは、旅に出かける前の集落。恥をかかないようにと実の父親から鍛えられ、ヴェスタから特訓と称して[
…少しおかしい。あんま変わらない。なんて劣悪な環境なんだろう。
「ぐぅ……ちょっと治ってきた。無闇矢鱈にするなって言われてたけど、アンタだったら問題ないだろ。本能顕現……!」
【本能顕現】……それは、[分解]と[構築]のスキルを持つ
本来、クライルを含めたポケモンは人型になるのが向いていない。力の放出が下手になるというよりも、常に省エネ状態、貯蓄しているという表現の方が正しい。
その裏を返せば……人型を保つポケモンたちが全力の力を出すとき、通常のポケモンよりも保有魔素量が大きく上がる。
「ふむ…四腕か。確かに腕の数は脅威だが、その程度で負けるほどへこたれた鍛錬はしていない。来い、揉んでやろう」
……元々、クライルは本気を出す気はなかった。ミリムという師匠の配下であるということを踏まえても、そのミリムが今後ヴェスタに敵対するかもしれない。
だから全部を出すのは得策ではないと感じ、人間態のまま行おうとしていた。
そんな性に合わない考えは捨てた。フィジカルが長所である自身に考えごとなど向いていない。
それに、力を示さなければミリムとヴェスタの関係が途切れてしまうかもという危惧がある。
そして、何より一番、心の底からミッドレイに負けたくないと吠えている。
「そいつはどうもぉ!からてチョップ!!」
本来は直接体に当たるはずの技、【からてチョップ】。
しかし、溜め込んだ魔素とヴァンゼルと戦っているときに獲得した
並大抵の魔法よりも威力があり、
それこそ、タイミングがズレれば魔王ミリムだろうとマトモに受けてしまう。防げる道理など、ない。
「…ふむ、効くな。貴様が打った飛ぶ打撃を防いだ右手が痺れている。数日限りとはいえ、ミリム様が教えられていただけはある」
「おいおい、これだけで満足か?もっと喰ってくれよ!」
「ではお言葉に甘えていただこう」
四本腕と二本腕が交じる。手数で言うのなら圧倒的にクライルの方が上だ。しかし、ミッドレイには戦闘の技術がある。
受けて危険な技は受け流し、攻撃を撃ち終わった隙に打撃を繰り出す。
(素晴らしい肉体と魔素量だ。だが、まだ青い。まだまだ技術が身についておらん。しかし、生まれて10年も満たない魔物なら十分だ)
「貴様の実力は分かった。見事なものだ」
「なにが分かったってェ!?俺のバトルフェイズは終わっちゃいねぇ!」
「…なに?」
「我が般若の鎧よ、蛮族となり果てろ……リベンジ!!!」
【リベンジ】。ファイターである格闘タイプにとって受けたダメージを利用して高火力を叩き出す【リベンジ】は、とても重視されている。
それはクライルとて同じこと。他の格闘タイプと違うところと言えば、クライルの【リベンジ】は択ではない。
蓄積したダメージを用いて発動する【リベンジ】を[
変化させた【リベンジ】は、友であり、主であるヴェスタに似通っている。
[
ヒラヒラとした赤のマントに顔面半分に浮かぶ禍々しい髑髏の仮面。
ただそれだけなのに……クライルの肉体強度と魔素量は大幅に上昇している。
「…この形態は、ダメージが溜まらないと使えないんだ。やっぱりここまでさせると思ったぜ」
「……何回強化があるのか分からんな。本当にそれが最後か?」
「本当にこれで最後だし、俺みたいに二回も強化があるのはヴェスタ…様ぐらいだぜ」
「…それは、一回は必ずあると?」
「まあな」
「なるほど、恐ろしいな」
「そりゃ、あの人の左腕なもんで。右腕にばっか良いとこ取られちゃ世話ないのよ」
「すげぇ……あの人があそこまで本気になってるの100年ぶりぐらいじゃないか…」
「ヴェスタもそうだが、クライルも飲み込みが早かったのだ。それ以外も二人には劣るが早い。あやつらの種、ポケモンと呼ばれる生命体は基本的に飲み込みが早いのだ。そこにヴェスタなる起爆剤を入れたら……まあ、オチは分かるのだ」
ミリム様のお話が本当なら__いや疑う必要ないけどな?___あのクライルという魔物?魔人?は3ヶ月前ほどはそこら辺にいる程度の力だった。
つまり、その3ヶ月で大きく実力を上げたっていうことだ。そんなバカな話、目の前でなかったら疑ってるよ。つーか、今でも疑ってるし。
ヴェスタ……ちょっと興味出てきたな。ミリム様のマブダチ候補で、あのクライルをあそこまで強くさせた人。
「ヘルメス」
「はい?なんでしょう」
「お前、ヴェスタに興味が出てきたな?まあ、仕方のない話なのだ。私もクライルも惹きつけられた。興味が出るのも仕方ない……うむ、そうだな。ヘルメス、ヴェスタの集落へ行ってこい」
「いいんですか?」
「構わんぞ?私の配下と言えば手を出すバカはいないだろうしな。それに、行けばあっち的にも……お前にもよい影響になる機会だとは思うぞ?どうする、行くか?」
「それじゃあお言葉に甘えて、ヴェスタさんのところに行かせていただきます」
「うむ、存分に盗んでくるがいいぞ!」
このスキルの効果は、端的に言ってしまえば理を捻じ曲げる能力である。本来【からてチョップ】は体に当てる物理技が遠距離技になったのは、一瞬で