ルカリオを撃破し、謁見らしきところに突入した。黄金の王座の前に座っていたのは赤い装甲を携えし虫と鋼の複合ポケモン、ハッサム。
「随分と暴れているな、侵入者よ」
「お前は……ボスか。なるほど、強いな。ルカリオよりも、断然…!」
「ふん、私をアイツと一緒にしてもらっては困るな。なぜ私がボスに君臨していると思う。それはな、誰も私に敵わないからだ」
肌を突き刺すような刺々しいオーラが謁見場全体に広がる。
この威圧感、確かに他のポケモンたちがこのボスに対して反撃の行動に出なかったのも頷ける。
行ったとしても、無駄であると感じ取っていたからこそ、動かなかったのだ。
なんつー状況だよ。何レベルなのか、その想定すらも及ばない。
「シザークロス」
「精霊一刀・狂剣」
闇の一撃と虫の一撃が交差する。とてつもないエネルギーの衝突の果て、相打ちの現象が引き起こされる。
だが、実力は均衡じゃない。3割か、4割か。俺がその出力で出したのに対して、ハッサムはきっと1割も使っていない。
なんてふざけた野郎だ。ミリム以来だよ、戦ってて勝てるビジョンが見えないヤツの勝負なんて。
…ようやく理解できた、アヴェルタたちが俺のボス突入作戦に対して渋っていた理由を。育成しきるまで待っていて欲しいと言っていた理由が。
……おかしいな、最初は俺も育成しきってから行くつもりだったんだがな。いつからか、クライルと俺の脳は壊れてしまったらしい。
本当にいつからだろう。……ドリューズに邪魔された時にだろうな。
「ほう。あやつを倒しただけはあるな。程度を下げたものでは相手にならんな。よかろう、少し真面目にやってやろう。エアスラッシュ」
「(真面目ね……とんだイカれ野郎だ。こっちはハナから本気でやってるってのに)
【エアスラッシュ】
まともに受けたら体が傷だらけになってしまう恐ろしい技だ。きっと俺の持つポケモンの技では相殺ができないだろう。
だが、それはあくまでもポケモンの技。アンジュと契約を交わし、使えるようになった闇の精霊魔法はその限りではない。
どこまでも暗い景色を見せる竜巻が発生し、見えない斬撃を全て飲み込んでいく。俺には届くことはなく、【エアスラッシュ】は完全に消失した。
「ふむ。面白い力だ。私たちが扱う技とは大きく違う……が、そろそろ限界が来ているのではないか?」
「なにを根拠に……」
「威勢を張ったとて、無駄だ。お前の顔に出ているぞ?もう疲れた、とな」
[
魔素に関しては問題ないが、一番の問題は精神力。維持するだけでゴリゴリと削られるのに加えて、精霊魔法の連発。
あまり精神力を鍛えられていない……言ってしまえば、効率が悪すぎるんだ。そんな状態でバカみたいに使ったら、こうなるのも分かる。
つっても、そんな状況を回避するのは逃げるな倒すしかないわけで。一度衝突した相手を簡単に逃すほど優しくないだろうし、結局は一択なんだよな。
「アンジュ、カバーよろしく」
『本当にメチャクチャなマスターですよ、あなたはっ……!!』
「
闇のオーラ。それを全開にすることで強く体を刺激し、身体能力を底上げさせる。出力を大体全部こっちに回してるから、治す暇はない。
全力全開の短期戦で片付けるしかない。
「はァァっ!」
「速くなったが、まだ目で追える範囲だ。甘い。私の防御は貫けない…てっぺき」
あぁ、ありがとう。舐め腐ってくれて。俺のこと、バカみたいに格下だと思ってくれてさ。
そのおかげで攻撃が通る。俺とアンジュの、闇の力の本領は攻撃力アップのバフなんかじゃねえ。
相手を穢す、心の底からの
まあ、次があるかは分からんが。俺も、お前もな。
「……っ、なんだ…この痛みは……!?」
「
「デバフだと……?お前、私にいったい何をした!!」
「別に?ただ、善意で俺とアンジュのオーラを送っただけだ。適合すればスーパー強くなるが、適合しなければ毒となる」
「ふざけるな…っ!私は毒耐性を持っているのだぞ!?技だったとしても、私は毒無効だ!」
「ばーか。耐性が完璧だとは思っちゃいけねえよ」
【てっぺき】の上から祝福という名の呪いを受けたので一点。
毒耐性があるのに「毒」を受けたという情報が一点。
四肢を切断される方がはるかに楽な痛みを与えられた、一点。
合計三点もの動揺を誘うポイントが、王様ハッサムにはある。こんなご馳走用意されちゃあ、誰でも分かっちゃうなあ。
隙だらけなんだよ。
「闇王霊術・百喰」
白い装束には似合わない純黒の剣を地に捨て……次の瞬間には悍ましい闇のニードルがハッサムを貫いている。
いつの間にかデュランダルは輝かしい王室と共に消え去り、残るは右も左も上も下も分からない暗黒空間。
「お前を見た時からこれしかないと思ってたよ。圧倒的な力には、クソがつくほどのデバフしかない、ってな」
「…なぜ武器を捨てた?リーチや体の強さを鑑みれば、捨てない方が賢明であったろう。もう魔法もろくに使えぬ身だ。加えて!あの武器であれば私の肌を傷つけることも……」
「敵対者の心配をしてくれるとは、随分と優しいじゃないか。まあ、誤算があるんだけどな。お前が思っている内容は」
「誤算だと?」
「あぁ、誤算。まず一つ、俺は武器がなくなったわけじゃない。そして二つ目。俺の精神力はなくなっていない」
この暗闇に俺がいる限り、この空間は永遠に俺の味方をしてくれる。武器だって無尽蔵に湧き出てくる。
加えて、今の俺はフルMAX。アンジュとのリンクを最大限繋いでいる状態であり、それは精神力をも一心同体にできる超強化状態だ。
まあ、これでマトモに勝負できるぐらいなんだけど。素で勝負したら100%負けるよなぁ。
「……なるほど、追い詰められたのは私か。久方ぶりだな、危機を感じるというのは」
「どうやら勘違いをしていたらしい。私は自分のことを挑戦者ではなく、立ち塞がる王であると思っていた。いやしかし、私はまだまだ挑戦者だったようだ。感謝する、私はまだまだ強くなれる」
まだまだ傲慢不遜にしていてくれた方が助かったんだけどな…!もうそっち側にいっちゃう?困るなぁ、それ。
少しはアドバンテージが取れるかと思ったんだが、どうやら俺の想定が甘かったらしい。
本当、嫌になっちゃうぜ。
「ラスターカノン」
「
互いの砲撃が直撃した次の瞬間、俺とハッサムを走る。爆発を背景として、暗黒を駆け抜ける。
眼前に迫る巨大なハサミに対して部分的な【まもる】で防御を行いつつ、【ほのおのパンチ】で反撃を行う。
拳が焼けこげるような猛烈な熱量に襲われているのを感じつつも、痛みを振り切ってハッサムの腹部に打撃を与える。
思いっきり吹き飛びはしなかったが、その痛みとダメージは壮絶なものだろう。俺とて【ほのおのパンチ】は効果抜群だが、ハッサムのほのおタイプによるダメージは上回る。
俺が効果抜群を喰らったときはもうちょっと揺らぐんだけどな。全く揺れた様子を見せないのは経験か、レベル差か。
そのどちらかだったとしても、俺にとっての不利は覆らない。逆に更に不利になったレベルだよ。
俺の部分【まもる】を確認させられた。切り札を切ったみたいなもんだ。
しかも、【まもる】を覚えるポケモンなら誰にでも習得できるかのような手軽さ。この王様が真似できないわけがない。
「シザークロス!」
「
気が落ちるのを自覚するが、目の前の敵は待ってはくれない。目前に広がる斬撃の応酬により、強制的に意識が戦闘に戻される。
技の強度は同じでも、使い方の練度が違う。あぁ、クソ。こんなところで押し負けるのならもっとミリムから武器の扱い方おしえて貰えばよかった……!
「ぐっ……!がっ…!…はぁ、はぁ……
赤十字が交差して、破壊が訪れる。ただでさえ無茶を重ねている現状に負荷を積み重ねる愚業。
しかし、今のままではダメだ。このまま戦っていても勝てはしない。
なら。残された選択肢は一つ。俺のボロボロの体になってでも勝利を欲し、ピンチから打ち勝ってみせる…!
ハッサムの特徴的な武器であるハサミは[
さぁて。これで戦況がどう転んでいくかどうか……。
「やるな…!片腕が壊れたのは初めてだ」
「そりゃ悪いね。可愛い子じゃなくてこんな俺で」
「十分嬉しいさ。猛烈な痛みを与えてくれるのだからな」
武器の一つを奪い去った……それにより、アドバンテージが少しは戻ってくるかと思っていたんだが、全然だな。
左のハサミと頭を用いて攻撃を仕掛けてくる。さっきよりも手数は減ったが、その分一発一発にかかる威力が高くなっている。
こんな事態も計算済みってか?
「っ!」
「……!」
「「アイアンヘッド!!」」
同じ鋼タイプの技。タイプ一致であり、効果いまひとつ。ならば仕事をするのはレベル差であり、現状では俺が押し負けるだけ。
あぁ、悔しい。デバフも使い、こんな手段も使い。そうしないと勝てない俺が悔しいよ。
「フレイムパージ」
【ほのおのパンチ】の灼熱を装甲を燃やし続けることで攻撃力を底上げする超攻撃特化の技。
パッシブで回復してくれる[鋼鉄再生]を込みしても体に襲いかかる負荷は尋常じゃない。
ハッサムほどではないが、俺も炎タイプの技は弱点だからな。長時間の使用は命にも関わる諸刃の剣だ。
でも、コイツに勝つにはこれしかない。今の俺には、これしかないんだ。
「ハッサム…!」
「あぁ、認めるよ。君の勝ちだ。私の負けだよ」
「
ミリムの
今回のようなハッサムは搦手を混ぜなければ勝てなかったので出番はなかったが。仕方がない、アンジュとヴェスタが意識を合わせた
とは言っても、この形態独自の強みもある。それは
……アンジュ、あなた強すぎでは?