陰の実力者の師匠は天の鎖! 作:くつくつと嗤いたい
「最強?醜いな。その程度で最強を語るな。それは最強への冒涜だ。借り物の力で最強に至る道は⋯ない!」
ミドガル王国にある下水道の一角。
シャドウガーデンの盟主ことシャドウは相対している敵⋯ゼノン・グリフィに対してそう告げる。
彼がディアボロスの雫が入っていた瓶を踏み砕くと同時に───シャドウの魔力が爆発する。
空間を紫に染め上げる圧倒的な魔力に、自称次期ラウンズことゼノンは戦慄とともに恐怖を抱いた。
「かつて、核に挑んだ男がいた。男は肉体を鍛え、精神を鍛え、技を鍛えた。だが…それでも届かぬ高みがあった。しかし、僕は諦めるわけにはいかなかった。だから修行を重ねた果て…1つ、答えにたどり着いた。──────核で蒸発しないためには……自分が核になればいい。」
ゼノンにはシャドウの言っている言葉の意味がほとんどわからなかった。
されどシャドウの思考が常人のソレではないことだけは理解できた。
「真の最強を、その身に刻め。これぞ我が最強。」
「アイ、アム…アトミック。」
瞬間、何もかもを消し飛ばす白光が世界を包みこむ。
ゼノンは成すすべもなく白光に呑まれ、蒸発した。
下水道だけではなく、その上にあるミドガルの王都の一部すらも消し飛ばした最強の一撃を放った存在⋯シャドウは先ほどの強キャラ感溢れる雰囲気からは想像もできない呑気な声音でつぶやく。
「うーん、ダメだなぁ。この程度じゃあ序盤の敵なら倒せるかもしれないけど、師匠レベルの敵が出てきたら倒せないや。」
シャドウの脳裏に浮かぶのは、腰辺りまで伸びている緑の髪を持った性別不詳の中性的な容姿を持つ人。
そして、唯一シャドウがいまだに戦って勝つことができないと考える唯一の存在だ。
「久しぶりに師匠に会いに行こうかな。姉さんが王都に行ったくらいから一回も会ってなかったし、近況報告も兼ねて。」
「あら、シャドウ。誰かに会いに行くのかしら?」
シャドウと同じ純黒のスライムボディスーツを身にまとった金髪碧眼の美少女エルフ⋯アルファが、シャドウの背後からそんな問いを投げかける。
その声音にはどこか凄味が感じられた。
しかしそのオーラにまったく気付かないシャドウは能天気に、平然とした様子で首を縦に振る。
「そう。ちなみに誰と会うの?それと、その人ってかなりの美人だったりするのかしら。」
なぜそんなことを気にするのだろうかとシャドウは考えた。
とはいえ考えても答えは見つからなかったので、シャドウはアルファの問いに答える。
「まぁその人⋯師匠はかなりきれいな人だと僕は思うよ。」
その言葉を聞き、アルファはまだ会ったこともないシャドウに師匠と呼ばれている人物への警戒レベルを何段階か上に上げた。
それと同時に、シャドウが師と仰いで信頼を寄せているその人物がどんななのかも気になった。
「気になるんだったら、アルファも一緒に来る?」
ほんの一瞬、静寂が場を支配した。
アルファはまさかシャドウに何かをしようと誘われるとは思っていなかったからである。
「えっと、アルファ?」
「はっ!!ごめんなさい、シャドウ。まさか貴方からそんなことを聞かれるとは思っていなかったから、少々驚いてしまったの。」
アルファの中で自分の評価はどうなっているのだろうかとシャドウは思う。
まぁシャドウがシャドウガーデンのメンバーをなにかに誘ったことはあまりなかったので、アルファの驚愕は仕方のないことなのだが。
「それで⋯どうするの?行きたくないのなら断ってくれても「行くわ。」⋯あっ、うん。」
食い気味なアルファに困惑しつつも、シャドウは頷く。
「それじゃあ出発は⋯明後日くらいにしようかな。アルファはそれで大丈夫?」
「えぇ、私はいつでも構わないわ。だけど貴方のお師匠さまに予定の確認をしなくていいの?」
「あー、まぁ大丈夫だよ。師匠は世捨て人みたいな感じの人だから、街の中に出てくることもほとんどないから、予定は気にしなくていいと思う。」
シャドウは大自然の中をたった一人でとくに不便もなく生活しているであろう師匠の姿を想像して、小さく苦笑を漏らす。
そんなふうに笑うシャドウはアルファにとって珍しく、シャドウと過ごすという未来を邪魔する厄介な障害がまた新たにできてしまったと考えるのであった。
「そういうことだから、明後日の早朝に僕の寮室に来てくれる?」
「分かったわ。それじゃあ最後に一つだけ⋯その師匠はなんていう名前なのかしら?」
「偽名かもしれないけど、師匠は────って名乗ってたよ。」
「教えてくれてありがとう。それじゃあ私は行くわ。貴方も魔剣士たちに見つかる前にここから立ち去ってね。あぁ、それと⋯⋯お出かけ、楽しみにしてるから。」
シャドウ以外の男であったなら確実にドキッとしていたであろう美しい微笑みを浮かべて、アルファは去っていった。
その胸の内側に、新たなるライバル出現への不安とシャドウにデートに誘ってもらえた(シャドウにその自覚はない)ことへの歓喜を抱きながら。
※※※
ミドガル王国の領土の辺境に存在する人類未踏の大智。
そんな肩書きを持つ大森林の中には、黒狼の背を優しい手つきで撫でている、長い緑の髪を持つ中性的なナニカがいた。
ナニカ⋯エルキドゥははるか彼方にあるはずのミドガルの王都から巨大な魔力の爆発を感じ取る。
その魔力をエルキドゥは知っていた。
忘れることなどできはしない、かつて己が出会った人とは思えない強大な力を持った少年のモノ。
「五年前と比べて、君はすごく成長したみたいだね。」
虚空に向かって独りごちる。
エルキドゥ。
ソレは、この世界ではないまた別の世界で生まれた神造兵器の名。
そして、世界最古の王である最強の英霊⋯英雄王ギルガメッシュの唯一の友。
エルキドゥがなぜここにいるのか、その理由は分からない。
されどこの世界の主人公にして、エルキドゥを師匠と呼ぶ少年とエルキドゥが出会ったことには、きっとなにかの意味はある────はずだ。