陰の実力者の師匠は天の鎖! 作:くつくつと嗤いたい
シドくんの口調に違和感があるかもしれません
太陽が地平線から顔を出す少し前。
僕ことシャドウことシド・カゲノーは果汁百パーセントリンゴジュースが入っているなんかかっこいい彫刻が施された銀の杯を片手に、アルファを待っていた。
なんでアルファを待つだけなのに、こんなことをしているのかって?
陰の実力者っぽくないかな、こういうのって。
「待たせたわね、シャドウ。貴方のお師匠さまに持っていくものを選んでたら、少し遅れてしまったわ。」
いつものように、アルファは部屋の窓から室内に入ってくる。
右手にはミツゴシ商会で発売されていふチョコレートが入っているであろう紙袋をぶら下げており、師匠に会いに行くのに準備は万端といった様子だ。
「いいよいいよ。集合時間より十分くらいは速いわけだし。まぁそんなことより、早く師匠のところに行こうか。」
僕は立ち上がり、スライムスーツの性能を駆使して、もとあった場所に銀の杯を戻す。
そして、アルファの入ってきた窓から、向かいの建物の屋根へと飛び移る。
そうして二人は、月光の照らす闇夜を駆けていくのであった。
※※※
「大変なのです大変なのです!!」
「どうしたのですか、デルタ。朝からそんな大きな声を出して。」
ミツゴシ商会のスタッフルーム。
そこではまだ六時過ぎなのにも関わらず、七陰の一人であるデルタが騒ぎ回っていた。
デルタが騒ぎ回っていること自体は、そこまでおかしいことじゃない。
だがその声のうるささがいつもの数倍はあったために、スタッフルームにいた他の七陰たち…アルファを除く五人も何があったのかと集まってくる。
「大変なのです、ガンマ。ボスが、ボスが…!!」
デルタがボスと呼ぶ者はたった一人…シャドウのみ。
陰の盟主である彼にいったい何があったのか、七陰たちの間に緊張が奔った。
「ボスがアルファ様と駆け落ちしちゃったのです!!」
「「「「「は?」」」」」
こうして、朝っぱらからとんでもない爆弾発言が降下されたのである。
※※※
アルファを除く七陰たちが阿鼻叫喚の状態となっているその頃。
その原因であるシャドウとアルファは、七陰たちの状況を微塵も察することなく、人気のない森の中を歩いていた。
「シャドウ…。こんなところに、ほんとに人が暮らしているのかしら?」
「んー…師匠はいろいろと普通じゃないタイプの人だからね。人工物のあるところより、こういう自然の中のほうが落ち着くって言ってたよ。」
他愛もない会話をしながら、二人は森の深奥へどんどんと入り込んでいく。
そうして─────ようやく、目当ての人物との邂逅を果たした。
「やぁ。だいたい三年ぶりくらいかな?久しぶりだね、シド。」
一切の気配を悟らせることなく、背後からそう声をかけられる。
そのことに驚愕しつつも、二人は声のした方へ顔を向けた。
「そちらの少女は初めましてだね。僕はエルキドゥ。呼び方は好きにするといい。それで、キミはなんというんだい?」
緑の長髪を持つ性別不詳のソレ…エルキドゥはにこやかな笑みを浮かべて、そう告げる。
「私はアルファ。そう呼ばれているわ。」
「ふふっ…シドにいい名前を付けてもらったんだね。これからよろしく、アルファ。」
差し出されたエルキドゥの右手。
あまりにも友好的すぎるその態度に、アルファは思わず毒気を抜かれてしまう。
「えぇ…よろしくお願いするわ、エルキドゥ。」
が、すぐに持ち直してそう返した。
「それで……久しぶりに会うわけだけど、なにか困ったことでもあったのかい?」
とくに躊躇おうとすることもなく、エルキドゥは本題へと切り込む。
「ちょっと実力が伸び悩んでて、師匠の力を借りたいって思ってここに来た感じだね。」
「そうなのかい?それじゃあ……少しばかり、性能を比べ合ってみようじゃないか。そうしたら、なにか見えてくるものがあるかもしれないだろう?」
何の予兆もなしに、宙に黄金色の歪みが現れる。
その中から飛び出てきた鎖がシドの身体に巻き付き、そのままはるか上空へとシドこことを投げ飛ばす。
「アルファ。そこから出来るだけ動かないでくれるかな。でないと、巻き込んでしまうかもしれないからね。」
いきなりすぎる展開に、アルファは呆然としながら首を縦に振ることしかできないのであった。