あとおねショタは3話まで待ってください。
OK。
じゃあ一度だけ説明しよう。
僕はベル・パーカー。
放射性の蜘蛛に
たった1年だと言うのに多くの人を救ったし、恋はしていないけれど友達はできた。
街も救った。
何度も何度も何度も街を救った。
それと同じくらい何度も何度も失敗して、途中米花町治安悪すぎじゃないか?とも思ったけど頑張った。
僕はスパイダーマン。
悪党に立ち向かうことが、今の使命。
『あとは任せるよ。…今日から君がスパイダーマンだ。喜んでいいんだぜ?なにせ、街のみんなが僕に憧れてる。そのうちユーチューバーより人気な将来の夢になる』
過去は消えない。
どんなに悔やんでも。
なら、ちっぽけな凡人は今を全力で生きるしかないのだ。
「─────っ!」
くるり、と世界が裏返って、普通に生きてるだけでは味わえない浮遊感に身体の芯が震える。
…いつだって、スパイダーマン稼業は恐怖の連続だ。
怖くなかったことなんて一つもない。
毎回不必要なくらい痛みを伴うし、苦しいことだらけだ。
何度も地面にたたきつけられ、壁にめり込んで、火の中で悶えて、砂の中で溺れて、毒の見せる幻と踊ってきた。
それでも。
「あーいいね、今日もスパイダーマンって最高」
───少年に、立ち上がらないという選択肢はなかった。
震える喉が呪文のように唱えた自分を鼓舞する言葉の直後、少年は空に向かって落ちていく。
これは、訳あり小学1年生のうすほそ少年が不完全なスーパーヒーローとして陽気なフリして懸命に足掻く話。
少年スパイダーマンは悪党が蔓延る米花町で戦い続ける。
大いなる力に伴った、大いなる責任を果たすために。
●
事の始まりは数時間前、テレビ局に押し入った強盗が朝のニュースのロケに出ようとしていたアナウンサーとヘリの操縦士を人質に空へと逃げる事件が発生。
警察のヘリは犯人を刺激しないために近寄れておらず、どちらかと言えばヘリが着陸してから確保しようと、多くのパトカーが地上から追いかけてる、というのが今の状況だ。
さらに言うのなら、様子見をしていた警察と少年に見せつけるように人質の一人がナイフで傷つけられており、事態は急変。
予断を許さない状況になってしまっていた。
「…にがさない」
自分をパチンコのように射出して、制御を失い不自然な旋回を始めたヘリコプターに向かって
だが。
「…って、うわわ!ちょ、まっ!?」
二本の蜘蛛糸がヘリコプターへと接着し、腕にとんでもない負荷がかかる。
さらに、その負荷はふらついていたヘリも感じていたようで、少年が伸ばした糸を大きく振り回した。
小さくて薄くて細い少年の体躯は容易く宙を舞い、空を飛んでいた鳩と正面衝突する。
「…ああもう…かっこつかない…!」
頭を振って顔に張り付いた羽を払い落とした少年は、蜘蛛糸を握り直して一気にヘリコプターに向かって加速した。
肉体の加速に合わせて、それに引きずられるように脳の処理速度も跳ね上がる。
全てがスローモーションになった白黒の世界では、恐怖の色こそがより鮮明になる。
マスク越しに、恐怖で顔を歪める人質のアナウンサーと目線が絡んだ。
「やぁ!ごめんだけど、僕ってば彼女のファンでさ!握手したいから場所変わってくれない?」
「誰だお前は!」
「地獄からの死者!!(適当)」
彼女の喉元にはナイフが突きつけられており、男が喚くたびに撒き散らされる唾が彼女の美貌を穢している。
それを少年はヘリコプターの窓を蹴りでぶち抜き、飛び込みながら解放する。
ヘリの操縦士を小脇に抱えて*1空を飛んだ少年は、安全なビルの屋上に血を流す彼をそっと降ろして寝かすとすぐに空へと舞い戻る。
救助ヘリがすぐに駆けつけられるようにできるだけ広い屋上を選び、傷口を糸で止血し、ついでに重傷者のいる合図である信号弾を打ち上げて急がせるのも忘れない。
…空中での人質救助は時間との勝負だ。
だから少年は他の大人たちを信じて、振り返らずに敵のもとへと飛び込む。
少年だってこんな無茶で危険な救助作戦したくはない。
功名心があるわけでない。
警察が無事取り押さえるならそれで良しとするつもりだった。
…操縦士が切りつけられるのを見て、判断を誤った自分を本気でぶん殴りたくなりながらも、懸命に少年は命を救うために糸を伸ばす。
「こうかいはあとまわし…!」
「俺様に勝てると思うなガキが!!舐めてると潰すぞ!」
さっきのすれ違いざまにナイフを奪い取ってから拘束したというのに、男は顔と手に施した糸を引きちぎっていた。
目は血走り、筋肉は隆起しているその姿に、少年は思わず泣き言を漏らす。
「…またあのクスリ…?はやりすぎでしょ…」
薬で仮初の力を手に入れてすることが人を傷つけることだなんて趣味が悪い。
…空中から真っ直ぐ飛んでくる少年を迎え撃とうと拳を構える男の予測を裏切るように、少年はヘリコプターの底面に糸をくくりつけ素早く振り子の原理で後ろに回り込む。
視界がシェイクされて、上下左右が目まぐるしく入れ替わった。
「──────!!」
もはや、脳内に浮かぶお手本を真似た軽口で自分の恐怖を誤魔化してる余裕もない。
少年は普段、スパイダーマンでいる間は軽口を叩く。
ふざけているわけではない。
恐怖を誤魔化すために少年は赤いスーツを着た本物のヒーロー真似しているのだ。
…真似をしても、本物になれるわけではないのに。
「おくすりのめたねって褒められるのはお子様だけだよ!」
ヘリに再び乗り込んだ少年の身体は、恐怖を抱えたまま、それでも染み付いた動きをなぞり始める。
自分の背丈の2倍はある男の顎を宙返りで撓らせた脚先が捕らえ、すぐに天井を蹴って窓を床のように転がる。
ちょうど正面に突き出された尻を蹴り落として再び空へ。
その際に必死にヘリのハンドルを握りしめ出来るだけ高度を稼いでいたアナウンサーも小脇に抱え込んだ。
…なんでただのアナウンサーが火花を散らして故障寸前のヘリを運転できるのだろう、なんて疑問も探偵ではない少年は投げ捨てる。
「──────!」
操縦士を失い、重力に捕まったヘリが地面とキスする、なんて未来は許されない。
下には千人近くの街の人達。
必死に警察官たちが避難誘導しているが、たくさんの人達を巻き込むことになってしまう。
「……ふぅ…うまくいきますように」
「…………嘘でしょ?」
「……いいたびを」
「いやー!!なんでよバカでしょありえないんですけど!?せめていつもみたいに軽口叩きなさいよ!!」
無茶を言わないでほしい。
少年は元来無口だしナイーブなのだ。
───もはや別人が話してるレベルで、軽口を叩くときと普段の少年は差異が大きかった。
空中でアナウンサーをヘリの軌道から大きく離れた場所へと放り投げてから、ヘリから蹴り落とした強盗を蜘蛛糸で繭にするとビルの壁へと強引に張り付ける。
もちろん、アナウンサーの彼女の命を守るために命綱代りのクモ糸と落下地点にクモの巣を展開することも忘れていない。
…さぁ、人命救助は終わり。
あとは大きすぎる落とし物を交番に届けるだけだ。
「…うっわぁー、ゆめにでそう」
少年は空中で身を捻り、頭を下へ。
覚悟を決めて地面に向かって加速する。
回転する羽を躱しながらヘリを追い越し、少年はビルとビルの間に蜘蛛の巣を張っていく。
一つでは当然足りないところを、何重にも重ね、そうこうするうちにヘリが一つのクモの巣を破り、2つ目へと衝突。
一瞬の停滞の隙にヘリへと蜘蛛糸を巻き付け、ビルと繋いでヘリの重さを分散する。
ぶちり、と無慈悲な音を立てながら3つ目の巣がヘリを受け止め、千切れそうになるところへと飛び込んで自分の身体を縄の一部として引き留めた。
自分の身体から聞きたくもない異音を感じながらも、少年は全身に力を込める。
そして───
●
「……いち…新一?ねぇ、新一ってば!急にぼーっとしてどうしたのよ!」
「………え?」
私怒ってます!と、全身で表現する幼馴染を視界に収めてなお、しばらく自分の思考が空白を泳ぐ。
その表情が怒りから心配へと変わってきたあたりでその少年は思索の海から現実へと戻ってきた。
「わ、わりぃわりい…」
ようやく耳が街の喧騒を拾うようになり、少年はそっと胸をなで下ろした。
「大丈夫?」
「おう、大丈夫だよ!ちょっと現実感がなさすぎる光景だったからつい、な」
「すごかったね!話題の
「スパイダーキッズ、な」
幼馴染がはしゃいだような声で囃し立てるのは、先ほどまで高校生探偵を宇宙猫状態にした“スーパーヒーロー”。
新一の前では、警察によって交通整理が行われ、少なくとも表面上はいつも通りを取り戻していた。
だが少し視線を上げれば、ビルとビルの間に張られた巨大なクモの巣にヘリコプターが絡め取られている。
…なんて現実感のない光景だろう。
同時に、人の命が奪われてから動く探偵とはまったく正反対な、人の命が失われる前に懸命に手を伸ばすヒーローという存在への興味が大きくなるのを新一は感じていた。
視界の隅で保護されたアナウンサーが集まった同局の報道陣からマイクを奪い取りスパイダーマンに対して罵倒なのか感謝なのかよくわからない叫び声をあげている。
スパイダーマンが守った平和な光景。
そんな、ここ最近見慣れ始めた米花町の日常を背に、新一は幼馴染と共に遊園地へと向かうのだった。
───それは、江戸川コナンが生まれるよりも前。
平成のシャーロック・ホームズと米花町の親愛なる隣人の物語が交差する前日譚。
ヒーローは失われるかもしれない命のために危険を顧みずに飛び込んで救いの糸を伸ばす。
探偵は命を奪われた声なき死者たちの代わりに謎を暴いて殺人者に真実を突きつける。
悪党を許さない。
その一点以外真反対の二人。
彼らの物語は蜘蛛の糸のように複雑に絡み合っていくのは、まだ先の話だ。
・うすほそ
名前はベル・パーカー。
ピーター・パーカーはいない。
小学1年生のくせにいつもボロボロになりながら戦っている。
【挿絵表示】
・あなうんさー
壊れかけのヘリを操縦できるただのアナウンサーとかいるわけないだろ。
少年に紐無しバンジー捺せられてお冠。
でも感謝はしている。
・くどうしんいち
今日は幼馴染の毛利蘭と遊園地に遊びに行く。
このあと怪しげな男たちの取引を見るのに夢中になる。