カン───と。
昼の武道館で空き缶が舞う。
少年は今、少年探偵団のみんなと缶蹴りの最中だった。
「よーし隠れろ!」
少年が割と容赦なく(普通の子どもの力の範疇)で蹴り上げた缶は、人込みに迷惑をかけない手前あたりに落下し、それをじゃんけんに負けたコナンがとぼとぼと追いかけている。
…ちなみに、少年に鬼役は回ってこない。
ずば抜けた動体視力を全力で使ってじゃんけんに勝つから…ではない。
それもあるが、少年が鬼役をするとあっという間に終わってしまうのだ。
かくれんぼ、缶蹴り。
そういう遊びだと、人を見つけるのが異様にうまい少年は無法な強さを誇っていた。
スパイダーマンとしての能力を使うのって反則、なんて遠慮はない。
普段から力を隠して暮らしている少年は、こういう別にバレない場所で存分に力を解放して楽しんでいた。
…のだが。
どうやら、こないだ東都タワーに連れて行ってくれた毛利蘭とその友人との会話に夢中になってしまったらしいコナンのせいで、かくれんぼは一時中断と相成った。
「それにしてもすごい人数ですねー?」
「ひとよいしそう…」
「TWO-MIXのライブだってよ…」
首を傾げる光彦に答えるように、コナンが呆れたような声音で返す。
どうやらちゃらついたバンドというイメージがコナンの中であるらしく、そんなバンドに自分の慕うお姉さんが夢中なのが気に食わないらしい。
「えー♡ほんと!?」
「トゥーミックスってあれだろ?」
「前に仮面ヤイバーの主題歌を歌っていた!」
「おいおい…」
だが、TWO-MIXの名前を聞いた子どもたちのテンションはうなぎ上り。
まさかお前も?という目線がベルにも突き刺さるが。
ベルはよくわかりませんと首を傾げる。
「まきしま◯ざほるもんがすきです」
少年はロック趣味だった。
●
あのあと、件のトゥーミックスのメンバーの一人。
高山さんに遭遇した子どもたちは、口止め料も兼ねて近くの喫茶店で奢ってもらっていた。
「「「いっただーきまーす!♡」」」
「…ます」
割と高そうなもの容赦なく頼む子どもたちを尻目に、少年はアイスティーを無言で吸い上げる。
「あれ?みなみちゃんは食べないの?」
「アハハ…いいのわたし。おなかすいてないから…」
そう言いつつ涙目で財布の中身を確認する姿は哀愁が漂っている。
さらに言うなら、彼女は最近色々とついていないらしい。
今日はライブで打ち合わせ前なのに相方はこない。
最近事務所のロッカーが荒らされ、家の玄関の鍵穴はこじ開けようとした痕跡もあり、いたずら電話も多数。
なんで通報しない?と思わないでもないが、ストーカーかしら…なんてため息をつくその女性は、意外とタフなのかもしれなかった。
「そうか!わかりましたよ!さっきからなにか引っかかるなーと思ってたんですが、みなみさんとコナンくん声がそっくりなんです!」
「「ははは、んなバカな…」」
「いまどっちがしゃべってるのかわからん」
「ほんとだー!」
「んじゃわたしがカゼ引いたとき、代役頼んじゃおっかな〜!」
「いやぁ…」
照れるコナンに、少年は処置なしと首を振った。
「きびしい」
「コナンくん音痴だもんね♡」
「はは…今日はこればっかだな…」
…そんな風に、大物アーティストと雑談に花を咲かせるという、少年にとっては貴重な経験で終わっていれば良かったのに。
───彼女は子どもたちの前で誘拐されてしまった。
やはり江戸川コナンって呪われてるのでは?と、少年はわずかに疑念を深めた。
●
誘拐犯からの指示で、子どもたちが彼女の荷持を運ぶことになったのはいい。
荒事になればいざとなれば少年がどうにかできるという自信もあった。
だが、これは聞いていない。
「ベルくん可愛いー♡」
「うぅ…」
俯いてスカートの裾を必死に下げようとする少年は、目の前でニコニコと笑みを浮かべる歩美ちゃんの目をまったく見ようとしない。
「照れてるの?」
「はずい…」
少年は今、歩美ちゃんと服を交換していた。
誘拐犯の指示で、歩美ちゃんだけが荷物のなかのデモテープを持ってくるように指示が入り、それならと少年が身代わりを申し出たのだ。
ついでにコナンの起点で、コナンと二人で行けることになったのも心強い。
「あ、あんま落ち込むなよほら…似合ってるし…」
「うう…」
ただ、なんか変な感じだった。
スカートはひらひらしていて落ち着かないし、目の前の友だちがつい数秒前まで着ていたせいでその温もりが落ち着かないし、何より顔がバレないようにフードを被るせいで、人より優れた嗅覚が歩美ちゃんの甘いお菓子のような匂いを覚え始めている。
「えへへー、ベルくんから歩美の匂いがする!面白いね!」
「ゆるして…ゆるして…」
その後、羞恥心で多少のリミッターが外れた少年に、誘拐犯たちがボコされてこの事件は幕を閉じるのだが。
「ちょ、おま、やりすぎやりすぎ!」
「けせけせけせけせ」
「この…悪く思うなよ!…うそだろ麻酔針が効かない!?」
「■■■■■■■ッ!」
「出てる出てる!なんかこんなギャグパートじゃ出しちゃ駄目なヤツ出てるって!!」
この時の写真を撮っていた歩美ちゃんからのお願いに逆らえず、定期的に歩美ちゃんの服の着せ替え人形にさせられるようになったという話は、少年にとってスパイダーマン以上に誰にもいえない秘密として刻まれるのだった。
今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございました。
次回は世紀末の魔術師編に入ります。
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しょうがねぇなぁ…(呆れ)って感じで、どうか…お慈悲を…!(五体投地)