「…で、結局大阪では何も食べなかったわけ?」
「…うん」
「呆れた…じゃあほんとに死にかけになりにいったようなもんじゃない…」
「うるさい」
少年は、あいも変わらず女の研究室でもてなしを受けながら、雑談に花を咲かせていた。
「…どうせおおさかいったことないくせに」
「あるわよ」
「えっ」
「あなたと違って大人な私はもちろん行ったことあるわよ」
「むぅ…」
なんだか釈然としない。
大人…大人…?
これが…?
むくれる少年は、目の前のポップコーンに手を伸ばす。
少年は今、シェリーの膝の間に座り、頭の上に顎を乗せられて映画を見ている最中だった。
スパイダーマンのスーツのまま部屋でくつろぐことにも慣れてきたのは慣れてきたが、なかなかの絵面だ。
画面のなかでは、雪だるまがしゃべり、姉と妹が手を取り合って歌を歌っている。
雪の城を駆け上り、一人でいいんだと言い聞かせていた姉も。
心に魔法を受けて凍らせてしまった妹も。
手を取り合って笑っている。
「怪物でも、人になれる」
「ん」
「私はそう思う」
少年の身体を抱きしめるシェリーの手が怪しく動き、少年の首に手が添えられる。
「でも、死にたくなったらいつでも私のところに来なさい」
「………」
「私が殺してあげる」
「…なら、あんしん」
少年は目をつむる。
女に抱かれ、意識を委ねる。
ハッピーエンドを迎えた映画のエンドロールに浸りながら、少年は夢を見る。
平和で穏やかな、非現実的な夢を。
「何寝てるのよ」
「ひぅっ!」
「今日は映画をあと3本は見るんだから」
耳元に息を吹きかけられ、跳ね起きた少年を見て、シェリーは悪戯っぽく笑う。
夜の逢瀬はもう少し続きそうだった。
「次寝たら耳に舌ねじ込むわよ」
「ばけもの…」
●
翌日、少年はシェリーがおすすめするたこ焼きへとスーツを脱いで向かっていた。
どうやらそのお店は関西でも有名な店主の息子がやってる本格派らしく、たこ焼きだけでなくお好み焼きや焼きそば、白米も出るらしい。
お好み焼きと一緒に食べる白米、という。
ある意味でもはや有名になった関西の食べ合わせに、少年はわくわくしていた。
久しぶりにちゃんと寝たからか、少年のテンションはいささか高くなっていたのは否めない。
たこ焼きは丸いのになんでイカ焼きは姿焼きなんだろうかとか、たこ焼きの上でかつお節が踊るって本当?とか。
まだ見ぬ珍味に胸を躍らせて、少年が角を曲がって目にしたのは。
「せやから、犯人は店主のあんたしかおらんっちゅうこっちゃ!堪忍しーや!」
「う、うう…私が…!私がやりました…!」
「えっ」
米花町のよくある日常だった。
探偵がいて、殺人犯がいる。
しかも犯人は店主らしい。
店主らしき男が警察に連行されるのを見届けてから、少年はふてくされて地面に寝転んだ。
「これだから…」
これだから米花町は…!
ぎり、と少年は歯を食いしばり、拳を地面に叩きつける。
泣かなかっただけ褒めてほしい。
あのあと少年はシェリーに散々自慢され、マウントを取られて悔しい思いをしたのだ。
だから、そんな大人?なシェリーの紹介とはいえ、たこ焼きを食べれると思っていたのに、なんだこの仕打ちは。
「な、なんやこのガキ…夏の甲子園で負けたんかってくらい悔しがっとるぞ…」
「あれちゃうん?たこ焼き食べたかったとか!」
「んなわけあるかい!そんなしょーもないことでこない大袈裟に悔しがるかいな!」
終わっちまったな…俺たちの夏…とかやっていると、そんな少年を覗き込むように、先ほどまで店先で店主らしき男を推理で追い詰めていた高校生くらいの色黒の少年と、その後ろについて回っているこれまた高校生くらいの女の子。
少年は見ず知らずの年上が話しかけてきたことでテンパり、普段の軽口のような言葉が中途半端に口をよぎる。
「………たこやきがはなしかけてきた…」
「なんやとぉ!?誰がソース顔じゃい!」
「やっぱたこ焼き食べたいんちゃうかな、この子」
「たべたい…たこやきがたべたいです…」
「バスケ漫画かいな…安西先生が出てくるやつ」
ほな、今やってる用が終わったらごっつうまいたこ焼き屋に案内したるさかい、ちょお待っとけや。
そう笑う色黒の高校生に、少年は素直に頷いた。
…このあと、楠川という元刑事の部屋の前で何分も待たされ、挙句部屋の鍵が空いてたからと中に入って入手したメモを片手に人探しを開始。
結果として、よく知らない弁護士の女に銃を突きつけられる場面で少年は彼らについていったことを心底後悔した場面もあったのだが、最終的に少年が女弁護士の顔に向かって鉢植えを叩きつけたことで事件は解決した。
「そうそう。さっきは危ないところをこのガキに助けてもろたんや。毛利のおっさん悪いけど、ちょっとこのガキも一緒でかまへんか?」
「…て、ベル!?なんでお前が服部と一緒にいんだよ?」
「うわ…」
その女の屋敷の屋根裏に探し人もぼこぼこにされていたとはいえ見つかったので、まぁハッピーエンドでいいのだろう。
「なんや!工藤の友達かいな!」
「くどう?」
「おおい!何言ってんだ服部!」
「なるほど…すきなひとのすきなひとになりかわろうとしてるのか…ばけもの…」
「ちがっ!…ちげえよ!こいつが勝手に言ってるだけだから!」
そのあと、なぜかコナンと一緒にたこ焼きを奢ってもらうことになったけど、それもいい思い出だ。
「あふっ」
「はは!まぁ、大阪ならもっとおすすめの店もあるんやけどな、東京だとええ店ここしか知らんねん。堪忍な」
「はふ、はひっ」
「ほれ、水」
火傷した舌の先に、手渡された氷水を冷やしながら少年は薄くほほ笑んだ。
「…で?また犯人に向かって立ち向かったって?しかもまた顔面狙い!喧嘩っ早いのどうにかしろって前言ったよな!?」
「あく、そく、ざん」
「牙突じゃなくて猪突猛進なだけだろそれは!おい聞いてんのか!?」
「きいてない」
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。