灰原哀編スタートです。
え、温度差?
…灰原目線はとんでもないことになってたりはしますが、その辺は数話後にやります。
その衝撃を、少年は未だに飲み込めずにいる。
『今日からみんなと一緒に勉強することになった灰原哀さんです!みんな仲良くしてあげてね!』
シェリーだった。
どこからどう見てもシェリーだった。
彼女を見てシェリーと気づかないやつがいたらそれはただの間抜けだろう。
やめたら悪の組織?と思うくらいにはシェリーだった。
え、これ話しかけていいやつ?
あれ?
え、どうしたらいいんすかこれは…なんか普通にいるんですけど…。
あんなに落ち込んで、心の闇につけ込むやつとかに襲われてピンチになったりしたのに…。
『ははは!動きが悪いぞスパイダーマン!!』
『うっとおしい…』
『さぁ、私のイリュージョンの世界にようこそ!君の恐怖こそが最大の敵さ!』
『やめろめろめろミステリオ!』
───少年は、ケガが回復し切る前に、ライノとは別の敵とも死闘を繰り広げていた。
いくら本家本元のスパイダーマンよりも異常に高い回復力を持つとはいえ、身体の本調子じゃなさは半端じゃなかった。
そんな身も心もぼどぼどな少年が迷っている内に、子どもたちはあっという間に仲良くなり、なんなら翌日の約束を取り付けてすらいた。
恐るべきは少年の生来のボッチ気質か。
それとも少年探偵団のみんなの光属性を恐れるべきなのか。
少年は終始無言のまま、少年探偵団のみんなの後ろについて回っていた。
「遠くの方に見えました!ヒデです!」
「…郵便ポストの上ってお前…」
「光彦くんずるーい!歩美も見たい!ね、ね、ベルくんおんぶして!」
「……………」
「…ベルくん?」
「へぁ!」
「ウルトラマン?」
いや、結果として無言になっただけで、少年は本人なりに頑張っていた。
「……なに?」
「や、その…し…」
「し?」
「しまうま」
「??ごめんなさい意味がわからないわ…」
ただ見つめ返されただけ。
それだけでなぜか恥ずかしくなって、顔が熱くなる。
助けられなかった後悔も自分の手では結局届かなかったことも。
全部どうでもよくなって、ただ生きていてくれることが嬉しくて。
でも、なんで胸の内がそんなに温かくなるのかもわからなくて。
胸が締め付けられるような、甘い痺れが、少年の口の動きの邪魔をする。
「……はぁ…ゆっくりでいいわよ」
「はいばらさんって…その、実はし…し…」
「ええ」
「し、しなもんぱいすき…?」
「…?嫌いじゃないけど…?」
少年は、その未知のなにかに敗北し続けていた。
それでも、少年は何度でも立ち上がる。
負けても。
心が折れても。
その力の責任を果たすために?
いいや、ちがう。
「むり…しぬ…」
途中あまりの挙動不審さと惨敗加減に少年を心配するコナンが顔を覗き込んできたが、どうにもならなかった。
スパイダーマンなら耐えれたけど、少年には耐えられなかったのだ。
「おい大丈夫かよベル…人見知りなんだから無理すんなよ…?」
「だいじょび」
「白目剥いてるけど」
「つよくならなきゃ…にんげんきょうどあげなきゃ…」
たかがシェリーかどうか確認することすら出来ない雑魚ですと少年は涙を浮かべ。
───爆発。
少年の迷いを嘲笑うように、長すぎる一日が幕を開けた。
「きゅう…」
そして少年は意識を手放した。
僕が…何をしたっていうだ…。
ただちょっと初対面の女の人相手に命がけで手を伸ばして死にかけるまで戦ってただけじゃん…。
1週間近く火傷も骨折も治らなかったのに…まだ苦しめってんですか…。
割と本気で世界を呪いながら、少年はしめやかに崩れ落ちる。
「倒れた!ベル君が倒れた!まさかベルくんの人見知りがついに限界を迎えた!?」
「爆発したのか!?おいベル大丈夫かよ!」
「元太くんあんまり揺らすと可哀想ですよ!こういうときはまず冷静に救急車を…」
「なわけないだろ落ち着けお前ら!」
「ばくはつした」
「したのかよ…!」
「びっくりしたから…」
「そうだよなお前は頑張ったよ仕方ないって!」
●
サッカーチームの優勝パレードを見物しに来ていたら、爆破事件に巻き込まれた。
それはいい。
いやよくはないが。
米花町ではよくあることだ。
問題は話すタイミングをいよいよ見失ったことだ。
青い空だ。
それに、アンパンのような雲が浮かんでいる。
…僕もどっかに連れてってくれないかな…悩みとかない場所に…なんて考えたところで現実が変わらないことをよく知る少年は諦めたように目を瞑る。
少年は現在、事件現場の近くの日陰で休ませてもらっている最中だった。
…真面目に心配する大人たちには本当に申し訳ないと思っている。
無事だったとはいえ爆発に巻き込まれた高木刑事にまで心配されたときは、さすがの少年も土下座しかけた。
理由が気になる女の子に話しかけられなさすぎてとは、とてもじゃないけどいえなかった。
墓場まで持っていこう…。
人知れずそう決意する少年は、小さくため息を吐き出した。
「おー坊主…まーた厄介事に巻き込まれてんのか」
「べつに…たまたま」
「ハハッ、まぁだろうよ」
爆発物処理班。
そう呼ばれる部署に所属する不良警官。
スーツを着崩し、髪もぼさぼさ。
だが、サングラスの下からのぞく鋭い眼光だけは、あたりを油断なく観察している。
「あたまなでるな」
ぐしゃぐしゃと、少年の銀髪をわざと乱すように撫で回すその男と少年の付き合いも、それなりに長いものになる。
もう三年だろうか。
松田陣平。
少年の数少ない大人の友人だ。
「まぁ、爆発を未然に防げなかったのは問題だが…こりゃ、ちげえな…あいつらじゃねえ。ま、わかってたことだが」
「そもそもあくしゅみなあんごうがないじてんで」
「…ったく、人騒がせだなぁおい」
その瞳に、言葉ほどの軽さはない。
少年は知っている。
3年前、スパイダーマンとして初めて大きな事件として関わったあの事件で聞いた彼の覚悟を。
彼が連続爆弾犯によって、友人を失ったことを。
とはいえ。
「あいつらおりのなか」
「脱獄してるかもしれないだろ。何でもありだぜ最近」
「よもすえ」
まぁ確かに、最近はもう犯罪者って畑から取れるの?ってレベルで凶悪な犯罪者が増えてきている。
それと同じくらい少年が牢屋にぶち込み続けているので、最近刑務所が新設される話が現実的になっているらしい。
それだけの犯罪者がいれば、たしかに一人や二人牢屋から出てきてもおかしくはない。
おかしくはないが、ぜひともやめてほしかった。
「…で?」
「なにが?」
にまり、と悪い笑みを浮かべた不良刑事に少年は疑問符を返す。
「なんだよしらばっくれんのか?あれだよあれ」
「?」
「にぶちんめ。…ほら、あれだよ。お前どっちがタイプなんだ?」
「は?……はぁ?」
少年の肩に馴れ馴れしく手を置き目線を向ける先には、歩美ちゃんと転校生の灰原哀がいる。
タイプ、と言われても。
火を出したり水を出したりしてるところを見たことがないので、たぶんノーマルタイプですとしかいいようがないのだけど。
「あゆみちゃんはともだち。ぽけもんじゃない」
「ほー…まぁ確かにお前さん好みっぽいよな。愛嬌で相手を尻に敷くタイプだありゃ」
「しり…?このみ…?」
けけ、と悪い笑いをする大人にまったくついていけない少年はしかし。
「でもお前が気になってるのはあのツンツンした女の子と見たね」
「!?」
「お、ビンゴ」
顔が真っ赤になるほどその指摘だけは突き刺さった。
フリーズし、さらにそんな少年の視線に気付いた灰原哀がこちらへと振り向いたことで泡を食ったように自分の陰に隠れる少年を見て満足したのか、その男はゆっくりと立ち上がった。
ついでに必死にしがみつく少年を持ち上げて無慈悲に投げ捨てた。
「とりあえず俺は警部に使われた爆弾の特徴なんかを伝えてくるわ。じゃーな坊主。気ぃつけて帰りな」
「よけいなおせわ」
「クラスの女の子の横顔ばっか見てると転けるぞ!わははッ」
「よけいなおせわっ!」
その立ち去っていく背中を見ながら、少年はゆっくりと。
乱れた呼吸を整える。
吸って、吐いて。
飲み込んで。
少年が3年間繰り返してきた、自分の心を整える呼吸法。
初めて呼吸が乱れるほどの大事件に巻き込まれたその日のことも、少年はよく覚えていた。
そう、あれは三年前───。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
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ただ、一応作者も人間なので匿名で『微妙』とか直接的なこと言われると普通に傷つきます。
映画版マイルズ曰く、マスクは誰でも被れるらしいですが作者はスパイダーマンにはなれなかったので(悲しみ)優しく殴ってください。