親愛なるうすほそ。   作:ひつまぶし太郎

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過去編です。
三年前ってことは4歳がスパイダーマンしてるってマジ?
言え!なぜこんなお労しくした!
闇の作者「だって小学生にしないとコナンと絡ませづらいし(建前)…おねショタしたいし…(本音)」


かこをふりかえるうすほそ

 

 

3年前。

 

迷子を案内したり、おばあちゃんの荷物を背負ったり、ひったくりを捕まえたり。

 

そんなささやかなスパイダーマン活動に勤しんでいた少年は、当時4歳。

 

心もボロボロで、身体は今よりも未成熟。

今よりももっと失敗は多くて、今よりももっと怖がりだった。

今のように警察無線に忍び込んでいたわけでもない。

 

…だから、少年がその現場に駆けつけたのは、ただの偶然だった。

 

今の少年なら、とりあえずで一旦駆けつけただろう。

だが当時、自己肯定感が地の底だった少年は、大事件は警察に任せておいたほうがマシだとすら感じていた。

 

失敗どころではない。

大きな過ちと、抱えきれない罪を背負って少年はスパイダーマンになった。

 

そんな少年は、出来ることなら来たくはなかった、という表情をマスクの下で浮かべていた。

見て見ぬふりはできない。

出来れば見なかったことにしたいけど。

 

あれ?あそこゴミ落ちてるじゃんほら、ちょっとスーパーヒーローとして些細な悪事を見逃せないので拾っとくんで…。

そんな風におどけつつも、少年の足はその場から離れることだけはしなかった。

 

「くそっ!遅かったか!」

 

「しかし、正午までまだ三十分もあるのですが…」

 

経験不足で4歳ゆえに知識もほとんどない少年は、周りで慌ただしくしている大人の会話はまともに理解できなかったが、それでも。

 

一つだけ、わかったことはあった。

どうやら止まってしまったショッピングモールの観覧車に取り残された人がいるらしい。

 

 

「たすけるくらいなら…できる…?」

 

 

少年はしばらくその巨大な観覧車を見上げる。

 

高いところは怖い。

 

また失敗するのも怖い。

 

でも自分には力があった。

 

逃げ場のない高所に取り残された人までたどり着いて、助け出す力が。

 

「…おおいなるちからには、おおいなるせきにんがともなう、から…」

 

少年は一度ぎゅっと目をつむり、それから静かに観覧車の上を目指し始めた。

 

 

それが街を震撼させる爆弾事件の一幕だとは露にも思わず。

 

 

「うわー!死ぬ死ぬ死ぬ!死んじゃう!」

 

「おい!離すなよ!?さっきまでの威勢はどうしたんだよ!」

 

「ただの虚勢だよ!」

 

 

まぁ、普通に巻き込まれたわけだけど。

 

観覧車のゴンドラの中を覗き込んだ瞬間に、まさに爆発する寸前の爆弾とそれを前に携帯電話を構え爆弾に表示されるヒントを仲間に送ろうと自己犠牲を選んだ刑事を発見。

 

『悪いな萩原…どうやらお前との約束は…』

 

『うわー死にかけてる!と、とりあえずかくほー!?』

 

間一髪、糸で捕まえて飛び降りたのだ。

 

恐怖を紛らわせるために本物のヒーローを真似る口は、まるで別人のように滑らかに動く。

 

でも、ウェブシューター初心者の少年の動きはあまりにもぎこちない。

 

揺れ動き、たまに糸の狙いを外して落下しかけ、長さをミスって絡まりそうになる。

観覧車から降りるだけなのに、あっちに行ったりこっちに行ったり忙しない。

 

「前前前前!!ぶつかる!」

 

「うわぁ!前からポールが!」

 

「クソボケー!!!なーにが『今売り出し中のスーパーヒーローだよ!』だ!ただのポンコツズッコケ小僧じゃねえか!」

 

「口悪いな刑事さん!?文句言うなら縮んでよ!その無駄にスタイル抜群で女ウケ良さそうな容姿全部捨てて!」

 

「無茶言うな!」

 

「なんかほら…薬とか飲んで子供に戻るとかさぁ!」

 

「あるわけねえだろそんな薬!」

 

「あるわけないよねそんな薬!!」

 

そもそも大人を抱きかかえるのが無茶な4歳の身体では、うまくいくはずもなく。

少年は『飛んでるんじゃない。かっこつけて落ちてるだけだ』と言わんばかりに、顔面から着地するという無様すぎる着地を決めてみせるのだった。

 

「いてえ…!」

 

「し、しぬよりまし…」

 

「はっ、そいつがお前さんの素か?悪いがもう一仕事してもらうぜちびっ子ヒーロー」

 

「…へ?」

 

「お前だけが頼りなんだ。すまねえな」

 

 

…そこから、秒刻みの展開が始まった。

 

爆発寸前の爆弾に表示されていたヒントで提示されていたという『米花中央病院』に向かってその刑事を抱えながら全力で移動を開始し、そして、それを追うように巨大な砂の男が追い掛ける。

 

「ねぇこれ間に合うやつ!?ほんとに間に合うやつなの!?」

 

「うるせえ!いいから飛ばせ!犯人は元から刑事一人を殺せば満足だったのさ…そいつがヒントを無視して解体するような奴ならその後必死に捜索する警察を観察してバカにしてから爆発させようって腹だったんだろうが…」

 

「だから何!?」

 

「当てが外れたって話さ。あいつの使う爆弾の通信距離はそう遠くねえ。そもそも近くで爆発を見ようってタイプなんだ、わざわざそこに労力は割くわけもないわな…!」

 

「つまり犯人より先にたどり着いて爆弾見つけて解体すればいいってこと!?…無理じゃん!」

 

「無理とか言うな!やるんだよ!」

 

「だって爆発寸前までヒント出さない性格の悪さなんでしょ!?できっこなくない!?」

 

「うるせー!」

 

低空飛行を続ける少年と抱えられている松田を押しつぶすように、トラックほどのサイズの砂の拳が振り下ろされ、それを既のところで躱しきる。

 

身体能力と第六感(スパイダーセンス)に任せた、あまりにも無謀な突撃でピンチを凌ぐのももう限界だ。

 

敵の攻撃を予測する技術がない。

人を抱えてスイングする経験がない。

 

むしろ、このデスドライブ()が成立していることが奇跡だった。

 

「こんな下手くそな動きじゃ将来好きな女ができたときにかっこつかねえぞ!」

 

「余計なお世話すぎる!」

 

少年は半べそをかきながら、それでも必死に口と手を動かしていた。

 

「あとこのおっきい人誰!?友達!?」

 

「そいつは4年前*1事故に巻き込まれて砂になる力を得た爆弾犯の一人だ!確かラジオを勘違いして警察に爆弾の解除の仕方をわざわざ連絡してきたお人好しって聞いてたけどよォ…」

 

もしかしたら、違う世界ではただ命を落としていただけだったかもしれない犯罪者は、科学実験に巻き込まれたことで、サンドマンと呼ばれるヴィランへと変貌していた。

 

「どのへんがお人好しなのか小一時間ほど問い詰めたい…!」

 

「オオオオオオオオオッ!」

 

「やばいやばいやばーい!」

 

不定形の豪腕があたりを薙ぎ払い、ビルの外壁ごと粉砕する。

 

その威力にゾッとしたのも束の間。

 

少年は、一度松田から手を離して、向きを変えた。

 

「ちょ…!」

 

未熟な少年に、全ては救えない。

 

同時に何人も救いあげる力だってない。

 

それでも助けたいなら、方法は一つだけだ。

 

一つ一つ。

 

順番に、確実にこなしていくしかない。

 

瓦礫で押しつぶされる車や店は諦める。

 

多少の怪我にも目を瞑ってもらおう。

 

誰も死なせないことにだけ集中しろ。

 

 

吸って、吐いて。

 

 

「…ここ!」

 

少年は、全神経を集中して、大きな瓦礫の落下地点にいる見知らぬ誰かをもはや突き飛ばすような勢いで助け出す。

 

ウェブを使って器用に、なんて夢のまた夢。

 

それでも少年はひたすら身体能力に任せて、強引な救助を成功させていく。

 

合計3人。

 

たったそれだけの人数を救い出すのに、そこら中を擦りむきお尻も頭も打った。

 

だが、人命だけは守ってみせた。

助け出された人たちも全員擦り傷まみれだけど。

 

「よくやった!最高だよお前!」

 

「ほんと…?うまくやれてた?」

 

「ああ!こんな状況じゃなきゃもっとちゃんと褒めてたよ!」

 

「……そっ…か…できたんだ…よし…!」

 

最終的に。

サンドマンの一撃を回避しきれないと判断した少年は途中で松田を病院に向かって放り投げたり、殴っても効果のない砂相手に困り果ててたらスパイダーセンスもびっくりな勘の良さで(たぶん頭もいいのだそもそも)爆弾を見つけた松田が爆弾を抱えてるのを見てそれをサンドマンに向かってぶん投げたりして、どうにかこうにか犯人二人は逮捕されて事件は解決した。

 

何回悲鳴をあげ、何回泣き言を言ったかはわからないけれど、少年はこうして、初めて大きな事件を解決し街を救ったのだ。

 

…最後の最後で帳消しにできないミスを犯して。

 

『へっぷし!すなだらけ…』

 

『あーあー、あんだけ命張ってまさかの始末書とはな…ついてねえ。だが、萩原…運命の女神は俺に味方してくれたみたいだぜ…あ?』

 

『あっ』

 

1秒でも早く砂だらけのスーツをどうにかしたくて、マスクの布地の目に入り込んだ砂のせいで息がしづらくて。

 

そんな言い訳すら浮かぶ前に、少年は流れるように土下座の姿勢へと移行する。

 

考えるより先に体が動いてました、と。

まるでヒーローみたいなセリフで振り返ってもちょっと誤魔化しきれないカッコ悪すぎる大失敗。

 

半脱ぎのスパイダーマンスーツと脱ぎ捨てたマスクを握りしめて大人に向かって土下座するという経験は、あとにも先にもこの時だけだった。

 

「ゆるしてください」

 

「いや…待て」

 

「おかねはないからなんでもします」

 

「ちょ、ばか!やめろ!ガキんちょに土下座させる趣味はねえよ!」

 

別に協力関係にあるわけでもない。

ただ、等身大の少年を知る大人が一人できただけ。

 

実はその縁というか、松田のはからいで降谷とスパイダーマンが引き合わされたなんてことに繋がったりするのだが。

 

以来少年は、爆弾を扱う事件に巻き込まれる度に雑に頭を撫でられるようになる。

 

…。

………。

……………。

 

「おい、おいってば。もしもーし、大丈夫かおい」

 

「……はっ!かいそうしてるあいだにじけんがかいけつしてる…?」

 

「もう夕方だぞ」

 

「これがちょうのうりょく…」

 

「違うと思う」

 

結局、パレードに乗じて郵便局を強盗しようとしてたとかなんとからしいけれど、そんな米花町の日常はどうでもいい。

 

完全に話しかけるタイミングを見失ったことを、夕焼けとともに理解した少年は肩を落として施設へと帰るのだった。

 

 

「もうまぢむりすぱいだーまんしよ…」

 

 

 

*1
現時点からは7年前




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
というわけで宮野明美に引き続き松田陣平生存です。
カップリングは特に決めてないので描写もないかと思います。
彼にはあむぴと少年を結び、ついでに少年の正体を知る貴重な大人の友人という重要な役目を担ってもらいました。
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