「いーいみんな!6時になったらおねーさんのいるこの展望台に戻ってくるのよー」
「はーい!」
東都タワーの展望台に、子どもたちの元気な返事が揃う。
やっぱ蘭しかいねーよな…。
その様子を見ながら、コナンは頭の後ろをぽりぽりとかいた。
「お姉さん美人だね!コナンくん!」
「姉さんじゃないよ…」
思わず否定したものの、子どもにも伝わる言葉は咄嗟には出てこない。
隣の歩美ちゃんの屈託のない笑みにどう返したものかと悩んでいると、その隣で物珍しそうに辺りをキョロキョロと見渡していたベルも会話に参加してくる。
「おねえさんじゃない…?」
「えーと、なんていうか…居候先のお姉さんというか…」
「おねえさんたけど、おねえさんじゃない…??ととろ?」
「いや夢だけど夢じゃなかった、じゃなくてな?こう、預かってもらってんだよ、蘭ねーちゃんのとこに」
「ほーん…?」
ベル・パーカー。
赤い瞳に、雪のような白い肌。
少女と間違えられても仕方のない美貌。
ところどころ髪がはねたウルフカットの銀髪とピンクのインナーカラー。
派手な頭髪は日本人離れした容姿をより際立たせていた。
だが、その小さくて華奢な体のどこにそんな力があるのか、大人を一撃で昏倒させれることをコナンは知っている。
力というか、容赦のなさというか。
普段ぼんやりとしてる少年が、無表情のまま『うぃーんがーむどれゔぃおさー』という巫山戯た掛け声と共に人間の頭大の石を容赦なく犯人の顔面に投げつける絵面は、かなりの衝撃だった。
「ならにたようなもん」
「え?」
「かぞくじゃないひととすんでるなかま」
「そう、なのか…」
そういえば、インナーカラーについて担任の教師から注意されたとき、施設の人間がせっかくしてくれたものだからと、甘んじて掃除当番を引き受けていたのを思い出す。
元より海外にいて放任的な両親に育てられてきた新一は親元を離れることに慣れているし、そもそも自分の状況は事件に首を突っ込みすぎた自業自得。
だが、この少年は…。
安易に同意することも躊躇われたコナンを知ってか知らずか。
重い空気を軽くするかよように、どこか得意げな顔をしたベルがニヤリと笑う。
「きらくなもん」
「えっ」
「かみそめてもおこられない。このいんなー、なんかいもそめなおしてる。よあそびじゆう。さいこう」
「意外とやんちゃだなお前…」
「はんせいぶんとかもじかきゃうまる」
「いや…まぁ…うん…楽しそうで何よりだよ」
意外とクソガキな少年の生態に呆れるコナンは、その少年から似たような評価をされてることには気付かない。
江戸川コナン。
年上好きで、カッコつけ。
あとしょんべん小僧。
少年の評価は割と容赦がなかった。
●
その後、仮面ヤイバーの人形を全員が無事受け取り、この話は終わるはずだった。
途中歩美ちゃんの紙袋が取り違えられて紛失しかけたものの、それも手元に戻ってきた。
だが、取り違えに気づいて袋の中を確認した際に元太の手元にのこった1枚の紙が問題だった。
「ったく、おせーぞコナン!」
「ごめんごめん…蘭ねーちゃんを誤魔化すのに手間取っちゃって」
「お前らも親には内緒にして出てきてんだろーな?」
「うん!」
「当然ですよ!」
翌日、再び子どもたちは集まっていた。
まさか2日連続放課後に予定がはいるという異例の珍事に、どこぞの少年が内心取り乱しているなんてことにはもちろん気づかず、コナンは改めて元太の握りしめる紙を見つめ直す。
暗号、と言うには図形だらけだ。
元太たちは宝があるとあれやこれやと好き勝手に語っていたが、コナンの頭脳はなぜこんな暗号を用意しなくてはならなかったのかについてまで推理を巡らせていた。
「きっとすげー宝だぜ!」
「ですね!」
「ごせんちょうえん」
「バカの規模じゃん…」
真剣な顔をするコナンの横で子ども達は夢を膨らませているせいで、いまいち締まらなかったけど。
「おーし、オレその宝で世界中のうな重食いまくるぞ!」
「わたし世界100周旅行しちゃう!」
「じゃーボクはNASAからスペースシャトルを買って宇宙に…」
「せかいせいふく」
そんな子ども達に、自分はどうするのか聞かれたコナンの答えは貯金。
隣で窓の外を眺めていた少年はぼそりと呟いた。
「じんせいつまんなそう」
「ほっとけ!」
とはいえ、その後の探索がうまくいったとは言い難い。
図形を頼りに洋服屋を虱潰しに探して回り、途中で暗号に記された文字がイタリアで金を意味する言葉と理解したはいいもののその先にはたどり着けず、看板のかたちに見立てたものだと思って追いかけても行き先を見失う。
…最終的に、自分たちをつけ回す怪しい3人組を見て、暗号の製作者について思い至ったコナンは子どもたちを先に帰らせた(そのあと普通に子どもたちに追いつかれたが)。
暗号製作者の正体。
それは今、世間を賑わせるイタリアンマフィアのボスだ。
そしてつけ回していた3人組こそが、つい先日スパイダーマンに一人が確保されたというが、逃げおおせていた残りの3人だったのだ。
そして。
「あー…オレたち撃ち殺されちまうのかなぁ…」
「きっとセメントで固めて海に沈める気よ!」
「いや、ここは証拠が残らないように焼死かもしれませんよ…」
金貨の在り処を見つけた子どもたちは、その三人組に捕らえられていた。
…泣きそうな子どもたちの中で、2人だけが必死に打開策を探している。
一人は犯人の隙と倒し方を。
一人はいかに正体がバレないようにしてこの場を切り抜けるか、ということを。
言わずもがなコナンとベルである。
もちろんベルが遠慮なく暴れられるなら、この場は一瞬で片が付く。
つけ回されていたのも気が付いていた。
だが、友達付き合い初心者の少年は、『ちょっとトイレ!』などとうまく抜け出すという発想がなく、結果としてかなりギリギリの状況になってしまっていた。
ウェブシューターは使えない。
使った瞬間に正体がバレる。
スーパーパワーも使えない。
スパイダーマンと結びつけられなくても、危険な子どもとして怖がられてしまう。
縄から抜け出し、そろりそろりと無策で移動を始めたベルに気付いたコナンは、思わず小声で話しかけた。
「おま…っ。いつのまに?」
「…なんかごそごそしてたらとれた…」
嘘である。
少年は普通に怪力で無理矢理引きちぎった。
「…ベル、お前だけでも逃げろ…そんで公衆電話を使って警察を呼んできてくれっ」
「むり」
「…!なんで!?」
「かねねんだわ」
「……あー…と、それは仕方ないな…」
コナンの縄を必死に解くフリをしてタイミングを見計らう少年の姑息さに、気まずさを覚えて目を逸らしてしまったコナンは気付かない。
伝え聞いてる家庭環境を考えれば、お小遣いを親にもらって好きなものを買う、ということがいかに遠い話なのか想像できたはずだ。
そんな反省をしているコナンに対して、いや逃げてたらスパイダーマンとして戻ってこれたじゃんやっべー、とコナンの後悔など一切気にせずに頭を抱える少年のアンジャッシュは、両者無言で繰り広げられていた。
あと、そろそろ縄ほどいてもいいか…?まだか…?とか悩んでる少年に、コナンが自分の境遇に同情しているという発想がそもそもなかった。
「…なんかいいあんある?」
やけに落ち着いたベルの言葉に、ようやく両手が自由になったコナンは、一つの案を口にした。
───その後、天井に隠されていた金貨に押しつぶされて三人のマフィアたちはお縄についた。
コナンが言葉巧みに3人の立ち位置を誘導し、ちょうど真下に来た瞬間に少年がロープの支えを引き抜いたのだ。
金貨が落ちてくることに真っ先に気づいていたはずの一人が、
「……………」
「どうかした?」
「いや、悪い。何でもねーよ」
小さな違和感はある。
青い理知的な瞳は、不自然に足を取られたその男をしっかりと捕らえていた。
だが、それを深く考えるほどコナンの疑念は育っていない。
たとえ後ろで下手くそな口笛をバカが吹いていたとしても、見て見ぬふりをするだけの優しさがコナンにはあった。
こうして、名探偵とスーパーヒーローの人知れず行われた共闘は幕を閉じる。
「それよりおてがら」
「そ、そうだな…?」
「ごほうび」
「えぇ…?俺があげるの…?」
「かねねんだわ」
「タカリじゃねえか!…はぁ、まぁいいよ。さっきは助けられたし」
「いってみるもん」
「ク、クソガキ…」
得たものは多くない。
割と本気で5千兆円手にはいると思っていた少年は、不貞腐れている。
それでも、少年に初めて「また明日」と言える相手ができた。
それが、どんな宝よりも価値のあるものだと少年が気付くのはもっと先の話。
「ふふん。ともだちできたきねんアイス」
「うまいか?」
「ちょううまい。ちょこもなかひゃんほ」
「口に物入れたまましゃべるのはやめような」
というわけでベルというキャラの掘り下げ回でした。
次回は1日空けて劇場版に入ります。
流れこそ同じですがちょくちょく会話とか場面が増えてはいるので、そのあたりを面白がってもらえたら幸いです。
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