親愛なるうすほそ。   作:ひつまぶし太郎

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時計じかけの摩天楼編です。
過去作と流れはほぼ割と同じですが、会話やら場面やらが増設(肉付け)されております。


おいかけるうすほそ

 

 

 

今日は最近増えてきた放火犯を取り締まってやろうと気合を入れていたのだけど、どうやらその予定は変更しなくてはいけないらしい。

 

少年は、予想外の展開に怯える自分を押し殺しながら夜の街を駆けていた。

 

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」

 

「近所迷惑って知ってる?知らないかな、そりゃそうか!こんな時期にハロウィン気分のあんたにはいつでもパーリナイトってことだよね!最悪!」

 

少年は今、吐き捨てるように悪罵を投げかけ、首都高速を暴走する大型トラックへと追い縋っていた。

 

にわかに騒がしくなった警察無線に呼び寄せられるようにして駆けつけてみれば、東洋火薬の巨大倉庫から警察の用意したバリケードをぶち破って高速へと走り去るトラックを見つけたのが数十分前。

 

今のところ怪我人は出ていないだけで、深夜の首都高を爆弾積んだトラックが逆走してる時点でもはや手遅れなくらいの大事件ではあった。

 

「うるさいガキだ!キーキーと頭に響く!神経に直接触れられてるかのようなおぞましさがするぞ!」

 

「昼夜逆転してるおじいちゃんには言われたくないね!今は夜だよ、朝まで眠ってな!それに僕の美声で頭が痛くなるなんて補聴器あってないんじゃない?いいお店紹介しようか!ついでに老眼鏡も用意してくれるとこ!」

 

ただの暴走トラックならさっさと運転手を気絶させ、どこか安全な場所にトラックを突っ込ませて無理矢理止めているところだが、今回はそうもいかない。

 

なにせこのトラックが積んでいるのは大量の火薬。

一歩間違えれば大惨事間違いなしなその激ヤバトラックを前に、少年はどうするべきか困り果てていた。

 

「死ね虫野郎!!」

 

「蜘蛛は虫じゃないんだけどなぁ!君からすれば、雲の上みたいな存在かもしれないけど!」

 

挙げ句これだ。

突如トラックの運転席から荷台の上に飛び乗ってきて、足を突き刺して身体を固定すしている緑の怪人。

 

仮面を被り『グリーンゴブリン』を名乗るその怪人が、より事態を混迷へと導いていた。

 

「どうしたスパイダーキッズ!そんなものか!?口先だけのバカな奴め!」

 

「…そのお面趣味悪いね!お祭りの屋台で買ったの?あ、だからそんなに安っぽいのか!」

 

「…殺すゥ゙!」

 

「だからそれやめてってば!」

 

自分に向かって投げられたカボチャの形へと加工された手榴弾を躱して、上空へと蹴り上げる。

夜の首都高にオレンジ色の花火が咲いて、それに急き立てられるように多くの車が避難をしていく。

 

怪我人が出ていないことに安堵したのも束の間。

その隙を狙うように逃げ遅れた車へとカボチャが飛び、それを糸が捕まえて再び空に火花が散る。

 

自分へと攻撃を集中させようと煽っているのに、沸点が低い割に周りが見えているゴブリンは、的確に少年の弱さに付け込んでいた。

 

「服のセンスをけなされてキレるのは痛いところ突かれたからだろ?お母さんに買ってもらう時期は卒業したらどうだろうって思うよ!」

 

「黙れ!」

 

「というか盗み出したトラックになんであんた好みに加工された爆弾があるわけ?盗む前に夜なべでもした!?」

 

「知能犯の準備は狡猾で静かなものだ!!」

 

「誰も手伝ってくれるお友達がいないなんて悲しいね」

 

糸をトラックへと張り付けて、一気に突っ込む。

しかし、その瞬間を見計らっていたかのように高速道路の地面が爆発し、無人の車が空を舞った。

 

「───!?」

 

空中で身動きできないタイミングに重ねられたその罠は見事にベルの動きを捉えた。

 

ひっくり返った車に全身を打ち付け、もんどりうつように地面へと落ちる。

それでも糸を手放さなかったのは最後の矜持。

 

まるでブライダルカーの缶のような動きで振り回される少年は、マスクの下で目に涙を浮かべながら歯を食いしばった。

 

「…ふんぎぎぎぎぎぃ!」

 

「HAHAHAHA!未熟だ、あまりにも!美しくない!宝の持ち腐れだ!貴様のそれは力を使ってるのではない!力に使われているだけだ!」

 

「よけいなおせわ…」

 

地面をトラックに引きずり回されながら、背中に石や破片が突き刺さる。

 

その痛みに堪えながら、思わず素に戻った少年はなんとか体制を整えようとして、それよりも先に糸を掴んだグリーン・ゴブリンの怪力に振り回され海へと投げ飛ばされた。

 

「僕はボールじゃないんだけどなぁ…!」

 

ギリギリで高速道路の縁に届いた糸をたぐりよせ、不格好な着地を決めて少年は再び走り出す。

 

空中でよろけた拍子に、逃げ遅れたバスの窓にべちゃりと情けない衝突をしたものの、それすら踏み台にして少年は大きく飛ぶ。

 

厄介なのは、激情型のように見えて狡猾な性格や、高性能な爆弾だけではない。

全ての爆弾をなんとか無力化して被害が出ないようにしながらも一度だけトラックにたどり着いた少年をあっさりと吹き飛ばす怪力は人間のそれではなかった。

 

「あーもう!いい加減に…!」

 

「ほら見ろヒーロー!街が燃えているぞ!お前はどうする!?俺はお前が逃げるならこれ以上誰も害さないと誓おうじゃないか!」

 

ゴブリンの指差す方へと顔を向ければ、首都高から見えるほど赤々とした光と煙が立ち上ってるのが見える。

 

「……覚えてろよ!」

 

「ヒャハハハ!ほーらおチビちゃんが尻尾を巻いて逃げるぞみんな!ザマァない──ぐぁ!?」

 

そんな危険人物を取り逃してしまったことは痛恨ではあるものの、火事を放置するという選択肢もない。

 

「…イケてる悲鳴だねグリーンゴブリン!地獄で会おう!」

 

「クソガキイイイイイイイイイイ!!!」

 

…最後の悪足掻きで、土手っ腹に高速道路の照明の柱をぶち込んどいたから、痛み分けと思いたい。

 

結局、火災の被害は火の手の上がった黒川邸だけに留めることはできたものの屋敷は全焼。

屋敷に取り残された人のために何度も火に飛び込んだ少年の鼻は、すっかり馬鹿になってしまっていた。

 

 

 

 

 

…うーんまだ焦げた臭いがする気がする。

少年は鼻の頭をかきながら、ぼんやりと目の前の光景を眺めていた。

青空を切り裂くように、少年がトイレで用を足しているうちに貰ったという飛行機のラジコンが空を舞っている。

 

「おい光彦そろそろ代われよ!!」

 

「私もやってみたぁい!」

 

「もうちょっと待ってください!結構難しいんですよ、RCの操縦って…」

 

…昼下がりの堤向津川緑地公園。

穏やかな日差しが少年のささくれだった心を癒やしてくれている。

どこかふわふわとした雰囲気でぼけっとする時間が、少年は嫌いではなかった。

 

「おーい光彦、そのRCどうしたんだ?」

 

「うわ…」

 

だが、そこに駆け寄ってくる一人の知り合いを見て少年の中で嫌な予感が広がっていく。

 

江戸川コナン。

一度は手を取りあったが、なんだか彼のそばにいるとやたらと事件に遭遇することに気がついてから少年の中でコナンは厄介事の前触れになりつつあった。

 

「コナンくん!」

 

「くれたんですよ!ヒゲを生やした人が…」

 

「これは爆撃機だって言ってな!」 

 

「爆撃機!?」

 

元太の言葉に顔色を変えたのはコナンもベルも同時だった。

 

目を細めて、飛行機をよく見れば、その胴体の下に安っぽいプラスチックで作られた爆弾の模型が取り付けられている。

 

「─────!!」

 

…寝ぼけていた第六感が、急速に警告を鳴り響かせるが遅すぎる。

 

さっきから感じていた火薬の匂いは昨日の残り香じゃなくて現実のものだということに気付き、冷や汗をだらだら流す少年の行動は早かった。

 

コナンが必死に光彦からリモコンを奪おうとしているが、そんな悠長なことはしていられない。

 

昨日の爆発祭りっぷりを考えれば、子ども相手でも容赦のない火薬の量なのは確定していた。

少年は、足下の小石を慌てて拾い上げて振りかぶる。

 

「ベルくん?……きゃっ」

 

それに唯一気がついた歩美ちゃんの疑問を置き去りにして、少年の投げた小石は飛行機へと吸い込まれ。

 

 

───爆発。

 

 

その直前に子どもたちをまとめて突き飛ばし、歩美ちゃんに覆いかぶさるように強く抱きしめて地面に伏せた少年は、昨晩散々目に焼き付けたオレンジ色の閃光に歯を食いしばった。

 

 

 




最後まで読んでくださってありがとうございました。

■グリーンゴブリンについて
スパイダーマンとは因縁の相手。
ピーター・パーカーの親友のハリー・オズボーンの父親であり、定期的にスパイダーマンの正体にたどり着いて人生をめちゃくちゃにしていく。
サム・ライミ版の実写映画の演技は必見。
超怖い。
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