犯人をヴィラン化することで難易度が上がった米花町。
まぁいつも通りか…。
「くそっ!待て!」
「ハハハハ!!お遊びは終わりだ探偵ども!ここからはPARTYの時間だ!!!」
完全左右対称じゃないからという理由だけで火を放ち、火薬を盗み、爆弾を仕掛けるという狂気の犯人は森谷帝二だった。
それを推理で追い詰めたのはいい。
だが、確保する直前に大柄な警官2人を振り回し、手錠を引き裂く怪力を見せた森谷を確保することができなかった。
警官2人を気絶させた森谷は絵画の裏に隠していた仮面と鎧を着込み、さらには『グライダー』に飛び乗って、空へ逃亡。
今や米花シティビルは燃え盛る炎の中、上から爆弾を落としてくる森谷帝二改め『グリーンゴブリン』のせいで救助隊が近づけない難攻不落の監獄へと変貌した。
怪人の狂笑が夜の街に降り注ぎ、それを見上げるしかない人々は恐怖で顔を曇らせる。
───直後、街の住人が聞き慣れたクモ糸の音が爆発音を切り裂くように響き渡った。
「もう許さないぞグリーンゴブリン!!」
「HAHAHAHAHAHAHA!来たな虫けら!誘き寄せられてるとも知らずに!!」
「誘蛾灯にでもなったつもり?残念だけど蜘蛛に光に群がる習性はないよ!勉強…」
隙ありと言わんばかりに突入しようとした救助隊に向けてカボチャの爆弾が降り注ぎ、しかしクモの糸がそれを捕まえる。
「不足だったね!!」
そして、くるりと身を翻したスパイダーマンの動きに沿うように爆弾が飛び、グリーンゴブリンの顔へと叩き込まれた。
「舐めるな小僧!」
「そのダサいお面どこで売ってたの!?爆発に耐えれるなら僕も欲しいかも!この時期って爆発多いんだよね!春の風物詩ランキングがあれば花粉の次にランクインするくらいには!」
白い蜘蛛と緑の小鬼が空中で暴れまわる。
だが、爆弾は一つも地上へとは降り注がない。
「守るものが多いなヒーローは!」
「羨ましい?欲しくなったらいつでも言ってね、あげないけど!」
ビルにあらかじめ仕掛けられていた爆弾が爆発し、瓦礫が振り注ぐも、それに押し潰されそうな人間は少年が素早く回り込むことで救い出す。
だが、その度にもう一度空を自由に飛び回るグライダーに乗っているゴブリンへと追いつこうとすると、どうしてもロスが発生する。
爆弾、爆発、瓦礫、グライダーに取り付けられた槍による突撃。
障害物は多く、少年はどんどんと消耗させられていっていた。
「あーもうアクションゲームやってんじゃないんだよこっちは!」
「不自由だなぁ虫けらは!俺はどうだ!?この通り、自由で最強だ!」
「商品の誇張は犯罪───です!」
少年の放ったクモの糸が2機のグライダーに吸い付く。
ぐ、と思いっきり地面に向かって身体を落とし、その反動で少年は一気に空へと舞い上がった。
…その瞬間。
「特別製の殺虫剤だ!たんと味わいな!」
空中で無防備になった少年を包み込むように、ガスが広がり、少年の意識を暗闇へと引きずり落とした。
同時に、今日一番の爆発がホテルで起こる。
落ちる。
堕ちる。
オチテイク。
スパイダーマンが、悪党に負けて落ちていく。
瓦礫にまみれ、空中で溺れるように、無様に。
同じ轍を踏みしめて。
未熟なヒーローが敗北する。
───人々がヒーロー以上に愛しているもの、それはヒーローが失敗し、転落する姿だ。
そんなグリーンゴブリンの声に、少年は心の中で同意した。
負けるその瞬間こそが、最も人々の興味を惹きつけることなどよく知っている。
人助けをしても、その場の感謝以上のものは得られないと知っている。
そもそも少年はとある実験施設で生まれた出来損ないで、本物の力を真似るだけの偽物だ。
内に秘めたものを考えれば、なおさら愛されるスーパーヒーローにはほど遠い。
ただ責任から逃げられない、哀れな力の奴隷だ。
それでも。
───楽な状況なら誰だって勝てる。本当に大事なのは、苦しい時、もう無理だって時にどうするかだ
グリーンゴブリンの嘲笑を掻き消すように、託された思いが少年のなかで燃え上がる。
「…まだだ!」
視界が光を取り戻す。
地面はすぐそこ。
咄嗟の判断で瞬時に張り出した鉄骨へと糸を伸ばした少年は、自分と共に落ちる瓦礫を踏み台にして一気に駆け上がっていく。
すれ違いざまに瓦礫を糸で絡め取っていき、人々に危害が及ばないようにするのも忘れない。
「しぶとい奴め!!いい加減諦めろ!」
「いやだ!!」
「紛い物が!!」
本物を真似た軽口すら投げ捨てて、少年は過去最高の速度で天へと駆け上っていく。
もう迷わない。
少年はスパイダーマン。
責任なんて苦しいだけで、後悔は消えなくて。
何度も失敗して、何度も取りこぼして。
積み重ねてきた罪に対して埋め合わせなんて、とてもできない。
それでも。
それでも目の前で泣いてる人がいたら手を伸ばす。
助けられなかった人がいるからこそ、救えなかった人たちのために、できるだけ多くの人を救うのだ。
今度は助ける。
全ての戦いに勝てなくても、何度だって立ち上がってみせる。
そんな決意を込めて真っ直ぐ放たれた拳が、グリーンゴブリンの顎へと叩き込まれた。
●
仮面も鎧も奪い取られ、念入りにウェブで繭にされた森谷帝二が逆さまにされた状態で吊り下げられている。
彼を下に降ろすためにはしご車も警察官も準備万端で、この事件の収束は時間の問題だった。
そんな光景を、コナンは遠くから眺めている。
小さくなってしまったあの日の朝と同じように。
「───ケガは大丈夫なの?」
「平気だよ、慣れてるから」
「…そっか」
音もなく、自分の真上。
喧騒から少し距離を置くようにして、電灯の上へと現れたその人物にコナンは驚かない。
来ると思っていた。
スーパーヒーローが、コナンのような子どもが無茶したのを見て気にしないわけがないのだから。
「まさか君が爆弾を解除するなんてねー。本当にすごいよ。助かった。ありがとうね」
「…僕じゃなくて、蘭ねーちゃんと新一兄ちゃんのおかげだけど」
「ふぅん…ま、これで一件落着。君はよくやった。でもこれっきりにしとけよ?子どもがするには危ない仕事みたいだし、探偵って」
「それはお互い様でしょ」
「僕はいいんだよ。なんせスパイダーマン、だからね」
スパイダーマン。
その言葉が指すヒーローが消えて久しい。
ここ1年、新しいスーパーヒーローの登場に世間は沸いているが、そもそも
自転車泥棒やひったくり、暴漢の退治など、街の治安をささやかに守る、そんな小規模な自警団だったゆえに、警察に目をつけられることもなく街のご当地ヒーローとして親しまれていた彼。
時折凶悪な犯罪者と対峙する場面もあったようだが、どこまでいっても彼は『親愛なる隣人』だった。
そんな彼と同じような力を持ち、世間の注目を集めるように精力的に犯罪者に立ち向かっていく新たなヒーロー。
区別するために“スパイダーキッズ”と呼ぶ人すらいる目の前の白い少年は一体何者なのか。
そんな疑問は、焦げ付いたスーツを見て消え去った。
あれほどの大怪我を慣れている、と言えてしまう子どもの覚悟は、ただ目の前の謎を解いてきただけのコナンには持ち得ない物だ。
なら、そんな中途半端な覚悟の人間が触れていいものじゃない。
「ねぇ」
「なに?」
何を言うべきか迷って、そういえばそもそも大事なことを伝えていなかったことを思い出す。
「みんなを助けてくれてありがとう」
「…どういたしまして!それじゃ、未来の名探偵との出会いを記念して!」
はいチーズ!と逆さまでカメラを構える不完全なスーパーヒーローと咄嗟のことで笑顔の途中のような表情になった小さくなった名探偵。
写真の出来にやいのやいのと言い合う二人は、どこか見た目相応で。
そんな二人を、青い満月が静かに見下ろしていた。
というわけで劇場版でした。
前回よりもしっかり掘り下げて少年スパイダーマンの葛藤やら決意やらをかけて満足しています。
とんでもない自己満足小説ではありますが、よければ感想や評価を頂けるととても嬉しいです。
そして、既に評価や感想をしてくださっている寛大な読者様、様々な形で目を通ししてくださった皆様、本当にありがとうございます。