俺が抑えて、俺がホームラン打てばいいじゃん   作:大浦泉

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龍崎颯太 高校入学時ステータス

打撃
弾道:3
ミート:A
パワー:B
走力:C
肩力:A
守備:C

投球
球速:151km/h
コントロール:D
スタミナ:B
球種:
・直球(実戦レベル)
・カーブ(実戦レベル)
・スプリット(発展途上)
・チェンジアップ(発展途上)
・スライダー(発展途上)


第二章 高校篇・一年目

滋賀県内、開校からまだ日の浅い新設校・淡海学院。野球部は開校と同時に創部され、颯太たちが入部する時点で創部三年目、すでに二・三年生の部員を抱える体制ではあったが、公式戦での目立った実績はまだない状態だった。そこへこの年の春、颯太・航をはじめとする中学日本代表クラスの選手十数名が一斉に入学したことで、この無名校の名前は野球関係者の間に一夜にして知れ渡ることになった。

 

颯太たちの進学が内定した時点で、学校法人は野球部の体制強化に踏み切っている。それまで一人の顧問がほぼ兼任で指導にあたる体制だったが、颯太たちの入学に合わせる形で、他府県で甲子園出場経験を持つ指導者を新監督として招聘し、さらに元プロ野球選手を打撃コーチとして迎え入れた。実績のない一学年のためにここまでの体制を整えるのは異例中の異例であり、この人事だけでも学校側の期待の大きさがうかがえる、と当時の地元紙は報じている。既存の二・三年生の部員にとっても、自分たちより格上と目される一年生集団の合流は歓迎一色というわけではなく、レギュラー争いをめぐる緊張感が入学当初から部内に漂っていたと、当時を知る関係者は振り返っている。

 

入部初日、颯太の身体能力を数値として記録した部内資料が残っている。打撃では、バットの芯で捉える技術がすでに高校生離れした水準に達しており、担当コーチは「ミートに関してはこの時点で完成されている」と評したという。一方で投球は、球速こそ151キロという突出した数字を叩き出しながらも、コントロールは荒く、直球とカーブの二種類しか実戦で試したことがないという粗削りな状態だった。コーチ陣の間では「打つ方は完成品、投げる方はまだ原石」という評価で一致していたと記録されている。

 

滋賀県は都道府県の中でも高校数が比較的少なく、甲子園出場を争う母数そのものが限られている土地柄である。そのため、既存の強豪校にとって「実績も伝統もない新設校」の存在は、侮る対象ではなく、むしろ警戒すべき脅威として映った。特に県内で長く上位を占めてきた近江振徳高校・彦根工業高校といった伝統校の関係者からは、練習試合の申し込みそのものを断られるという露骨な対応もあったと記録されている。

 

――――――――――

 

なんJ実況スレ(淡海学院・新入生情報)より

 

1: 名無しさん@実況

無名校に中学日本代表クラスが十数人入学とかいう事件

 

9: 名無しさん@実況

龍崎、打撃はもう完成しとるらしいな

コントロールはまだガバガバらしいけど

 

17: 名無しさん@実況

球速151て高校入学時点でやばすぎるやろ

 

25: 名無しさん@実況

滋賀は高校の数自体少ないから

今までの強豪校からしたら新参者に美味しいとこ持ってかれてたまるかって空気らしいで

 

33: 名無しさん@実況

舐められてるんやなくて警戒されとるってことか

 

38: 名無しさん@実況

榊原も一緒に行ったんやな

バッテリーごと引っこ抜かれたようなもんやろこれ

 

――――――――――

 

春季滋賀県大会・準々決勝

 

四月、淡海学院野球部は春季滋賀県大会に臨んだ。初戦、颯太は五回途中まで無安打投球を続け、打者としても初打席から本塁打を放つなど圧倒的な内容で快勝。二回戦も危なげなく突破した。

 

三回戦、颯太の投球にほころびが見え始める。制球が定まらず、四球を連発して自ら得点圏に走者を背負う展開が続いた。それでも自慢の身体能力で強引に三振を奪い、なんとか逃げ切って準々決勝進出を決めている。

 

対戦相手は、県内でも屈指の伝統を誇る近江振徳高校だった。

 

 

 

四回まで、両チーム無得点。颯太のストレートは速いが、コースは荒い。それでも空振りが取れているうちは、誰も焦っていなかった。

 

五回表、颯太は先頭打者に四球を与えた。次の打者にも、際どいコースが二球続けてボールと判定される。ベンチの空気が、わずかに変わる。

 

「颯太、力抜け」

 

航がタイムをかけ、マウンドに歩み寄って言った。颯太は頷いたが、その頷きはどこか上の空だった。

 

 

 

二死一、二塁。近江振徳の四番打者が打席に入る。颯太が投じたインコースの直球は、狙い通りに際どいコースへ決まった――はずだった。だが打者はバットの根元で詰まりながらも、力任せに内野の間へ弱々しい打球を転がし、これが誰も処理できない絶妙なコースを抜けていく。二者が生還し、一気に逆転を許した。

 

颯太の表情に、初めて焦りらしきものが浮かぶ。次の打者への初球、力んだ直球が真ん中に入り、痛烈な二塁打を浴びた。三点目。

 

ベンチから監督が動く気配はなかった。ここで代えないのか――スタンドのどよめきが、そう問いかけているようだった。結局、颯太はそのまま投げ続け、なんとかその回を切り抜けたが、流れはすでに近江振徳のものになっていた。

 

 

 

打者としては最後まで意地を見せ、七回に一本、九回にも一本と長打を放って追い上げを試みたが、守備の乱れも重なり、一歩及ばずに敗れた。ベスト4進出――すなわち夏の滋賀大会でのシード権獲得――にはあと一歩届かなかった。

 

試合後、ロッカールームで颯太はしばらく誰とも口を利かなかった。荷物をまとめる手も、いつもよりずっと遅かった。

 

「まだ何も終わってへん」

 

引き上げるバスの中、颯太がぽつりと漏らしたこの一言だけが、当時の記録として残っている。

 

――――――――――

 

なんJ実況スレ(春季滋賀県大会・淡海学院敗退)より

 

1: 名無しさん@実況

淡海学院、準々決勝で敗退か

 

7: 名無しさん@実況

龍崎まだ制球バラバラやな

打つ方はやっぱ化け物やけど

 

11: 名無しさん@実況

相手は近江振徳か

あそこ伝統校やししゃあないな

 

14: 名無しさん@実況

新設校がいきなり結果出すわけないやろ

これくらいが妥当や

 

26: 名無しさん@実況

シード逃したのは地味に痛いけどな

夏は初戦から強豪と当たる可能性あるし

 

31: 名無しさん@実況

近江振徳側からしたら「新設校ごときに」って空気やったんちゃう

 

――――――――――

 

春の敗戦から一夜明け、颯太は自主練習の時間を大幅に増やしたという、中学時代と同じ行動パターンを繰り返している。特にコントロールの矯正に重点が置かれ、ブルペンでの投球数はチーム内で群を抜いていたと当時の部員が証言している。この期間で颯太は変化球の制球にも取り組み始め、それまで実戦投入できなかったスライダーが徐々に武器として形になり始めていたという。

 

航もまた、颯太の荒れ球を受け止め続ける中でリードの精度を磨いており、二人のバッテリーとしての完成度は、この夏に向けての数か月で目に見えて向上していった。シード権を逃したことでチーム全体に危機感が生まれ、守備練習に費やす時間も春先までとは比較にならないほど増加したと記録されている。

 

練習試合では、近隣の中堅校を相手に打撃・投球ともに結果を残し続け、六月に入る頃には制球面での改善が数字にも表れ始めていた。とはいえ本番でどこまで通用するかは未知数のまま、淡海学院は夏の滋賀大会を迎えることになる。

 

――――――――――

 

夏の滋賀大会・決勝

 

七月、全国高等学校野球選手権滋賀大会が開幕した。シードを持たない淡海学院は初戦から一戦必勝の日程を強いられたが、春の借りを返す形で序盤から危なげない勝ち上がりを見せる。

 

初戦、颯太は八回途中までノーヒットに抑える快投を披露し、打者としても二本塁打の活躍。二回戦・三回戦も同様に投打で圧倒し、危なげなく突破している。四回戦では相手投手との息詰まる投げ合いとなったが、九回に颯太自身のタイムリーで勝ち越し、辛くも勝利をもぎ取った。

 

準決勝では、県内屈指の伝統校を相手に投打で圧倒。颯太は完投で相手打線を三振の山に沈め、打者としても本塁打を記録している。

 

迎えた決勝の相手は、春の準々決勝で敗れた近江振徳高校だった。

 

 

 

《翌朝の地元紙・見出し》

 

『雪辱なるか 淡海学院、春の借り返上へ 夏の頂点は近江振徳との再戦』

 

――記事は、春の逆転劇を「新設校が伝統校の壁の高さを思い知らされた一戦」と振り返った上で、この決勝を「新参者が本当の意味で滋賀の頂点に立てるかを占う試金石」と位置づけていた。

 

 

 

試合は初回から動いた。近江振徳の先頭打者が颯太の直球を捉え、二塁打で出塁する。スタンドがどよめく中、颯太は表情を変えなかった。続く打者を三球三振に切って取ると、そのまま後続を断ち、無失点で切り抜けた。

 

「春とは、何かが違う」

 

近江振徳のベンチで、そう呟いた選手がいたと、後年のインタビューで本人が語っている。それが単なる直球の速さの違いなのか、あるいは颯太自身の落ち着きの違いなのか、当時は誰にも判別がつかなかった。

 

 

 

試合は三回、颯太自身の一振りで動いた。カウント1―1からの内角高めを完璧に捉え、レフトスタンドへ運ぶ先制の一発。ベンチが沸き立つ中、航が誰よりも先にホームベースで颯太を出迎えた。

 

「春の分も含めて返してもらうで」

 

「知っとるわ、そんなん」

 

短いやり取りだけで、二人はベンチへ戻っていった。

 

 

 

五回、淡海学院が下位打線の繋がりで一点を追加し、3対0。だが近江振徳もここで意地を見せる。四球と長短打を絡めて二点を返し、3対2と一点差まで詰め寄った。春の再現を予感させる空気が、一瞬だけスタンドに漂う。

 

だが颯太は崩れなかった。六回、丁寧に打者を打ち取って追加点を許さないと、その裏、颯太自身が走者二人を置いて二塁打を放ち、5対2とリードを三点に広げた。

 

九回、二死走者なし。近江振徳最後の打者が打席に入る。カウント2―2から、颯太が選んだのは、この夏に磨き続けてきたスライダーだった。低めへ鋭く曲がりながら沈んでいくボールに、バットが空を切る。

 

球審の右手が上がった瞬間、ベンチから選手たちが雪崩を打ってグラウンドへ飛び出した。颯太はあっという間にチームメイトの輪に飲み込まれ、誰かに帽子を奪われ、誰かに背中を叩かれ、揉みくちゃにされながらもただ笑っていた。

 

輪が少し落ち着いた頃、颯太の隣にいつの間にか航が並んでいた。

 

「これで貸し借りなしやな」

 

「まだ夏の甲子園、残っとるけどな」

 

颯太はそう返しながら、グラウンドに響く歓声を全身で浴びていた。創部初のタイトル――夏の滋賀大会優勝が、この瞬間に決まった。

 

――――――――――

 

なんJ実況スレ(夏の滋賀大会決勝・淡海学院vs近江振徳)より

 

1: 名無しさん@実況

決勝、まさかの春と同じカードやんけ

 

12: 名無しさん@実況

近江振徳側からしたら絶対負けられん試合やろこれ

 

40: 名無しさん@実況

三回、龍崎の一発で試合動いたな

 

58: 名無しさん@実況

五回に近江振徳が詰め寄ったところは春の悪夢を思い出したわ

 

62: 名無しさん@実況(近江振徳ファン)

正直まだいけると思ったんやけどな……

最後のスライダー、えげつなさすぎる

 

70: 名無しさん@実況

試合終了ー

淡海学院、創部初のタイトルや

 

71: 名無しさん@実況

春に負けた借り、きっちり返しよったな

 

75: 名無しさん@実況

近江振徳もこれで終わりやなくて、また秋に当たりそうやし

このカード、しばらく続きそうやな

 

――――――――――

 

夏の滋賀大会優勝により、淡海学院は創部以来初となる夏の甲子園出場権を手にした。全国の舞台でも颯太は投打で存在感を示したが、準々決勝で格上の強豪校に敗れ、初出場での夏は幕を閉じている。

 

秋季滋賀県大会では優勝を果たし、準決勝では近江振徳を完封で下した。続く秋季近畿大会でもベスト4まで勝ち上がり、翌春の選抜出場を確実なものとした。無名の新設校として警戒され、白紙の状態から始まったこのチームは、一年という短い期間で県内トップクラスの実力を持つ集団へと姿を変えていた。特に春・夏・秋と三度対戦した近江振徳高校との関係は、この一年を通じて「警戒する伝統校」対「結果で黙らせる新参者」という構図を象徴するものとなった。

 

――――――――――

 

一年目・主要成績まとめ

 

- 春季滋賀県大会:準々決勝敗退(対近江振徳、ベスト4逃す)

- 夏の滋賀大会:優勝(創部初のタイトル、決勝で近江振徳を撃破)

- 夏の甲子園:初出場・準々決勝敗退

- 秋季滋賀県大会:優勝(準決勝で近江振徳に完封勝ち)

- 秋季近畿大会:ベスト4

 

颯太個人成績

- 投手成績:登板試合の防御率は大会を追うごとに改善。春季大会時点では乱調が目立ったが、夏の甲子園時点で1点台前半、秋季大会では0点台まで低下

- 打撃成績:年間を通じて打率5割前後を維持、長打率も高水準

- コントロール面:春季大会時点では制球難が目立ったが、秋季大会時点では別人のような安定感を見せるまでに成長。変化球も実戦レベルで通用し始める

 

――――――――――

 

秋季近畿大会を終えたロッカールームで、颯太が短く漏らした言葉が記録として残っている。

 

「来年は、日本一獲りに行く」

 

この一言もまた、後に度々引用されることになる颯太の発言の一つとなった。無名の新設校を舞台に始まったこの物語は、一年目を終えた時点ですでに、単なる番狂わせでは片付けられない現実味を帯び始めていた。

 

(第二章 了)

 

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