麗華、右翼から呪力の急激な膨張を確認。ミラーの鏡の結界だ。十秒後に君の死角からクラウンが仕掛けてくる。回避は左へ」安全な味方本部の管制室。神原司はいくつもの視界を同時に処理しながら、冷静にインカムへ言葉を紡ぐ。彼の術式による視野共有は、戦況の報告や、時には特級呪術師たちへ戦術的な指示を出すことすらあった。規格外の彼らであっても、戦場全体の鳥瞰図を持つ司の「目」は無視できない強力な道標だった。「はいはい、了解。助かるわ、司」現場の麗華から小気味いい返事が返ってくる。司はその視線を、前線へと赴く中堅・若手たちのグループへと切り替えた。「中野鈴リーダー。一級の一輝(かずき)と千代(ちよ)を北側の路地に配置してくれ。そこを二級の三人——颯斗(はやと)、大輝(だいき)、そしてあかりの防衛ラインへ繋げる。彼らのサポートが君の役割だ」「承知いたしました、神原先輩」一級リーダーの鈴が、部下である一輝と千代を率いて迅速に動き出す。その後方を、二級の颯斗、大輝、あかりの三人が引き締まった表情で追いかけていく。「三級の拓海(たくみ)、蓮(れん)、美咲(みさき)。君たちは周辺住民の避難誘導と残穢(ざんえ)の処理だ。戦闘には加わるな」「了解です!」と若手三級の元気な声が通信の向こうで弾けた。そして、司の視線が、最後に私とたくまの視界へと完全に同調する。「……さて、四級のまい、たくま。そして同じく四級の太一(たいち)とほのか。君たちの初陣だ」私の隣には、同じく最下級の呪術師である太一とほのかが、緊張でガタガタと体を震わせながら立っていた。私の足元では、天秤の姿をした、前髪のないたくまの顔が、私の呪力と司の視界共有の感覚にじっと瞳を凝らしている。特級の修行を経て、たくまの意識と私の呪力の連動は、今や一つの生き物のようになっていた。「四級の四人は、戦闘の主力にはなれない。だけど、僕の指示通りに動けば、一級たちが作り出した敵の『死角』を突くことができる。きいを引きずり出すための、最初の楔(くさび)になってもらうよ」「はい……! 司さん、指示を、お願いします!」私はたくまの冷たい質量にそっと手を添え、前方に広がる、きいたちが潜む廃ビル群を睨みつけた。『ブラックナンバーのミラー、クラウンが動いた。作戦を、開始する』司の冷徹な号令が、本部にいる特級たちから、戦場に散る四級の私たちまでに一斉に鳴り響いた。かつてない規模の全面戦争が、ついに幕を開ける。