「——緊急事態だ。全員、直ちに僕の指示に従ってくれ」味方本部の管制室から、神原司の緊迫した声が全員の脳内へと一斉に響き渡った。戦況報告を行う彼の視野共有の術式を通じて、本部にいるすべての呪術師に「最悪の映像」が流れ込んでくる。「大阪市の中心部、心斎橋および道頓堀の繁華街一帯に、急激な呪力の奔流を確認。……敵はブラックナンバー。ボスであるヒライを除く、レグウィス、シオン、アクア、デリザスタ、マビキ、まつり、クラウン、ミラー、きいの9人全員による、同時総攻撃だ」その言葉に、会議室の空気が完全に凍りついた。下位のメンバーですら特級中位クラスの実力を持つブラックナンバーが、ボスのヒライ一人を残して、戦力のほぼ全てを大阪に一挙に投入してきたのだ。一般人の被害はすでに計り知れない。「麗華、アヴィ、カナト、真白、あきら、ようま、けい、中野伊織。特級の8人は各自の最短ルートで現地へ急行、即座にレグウィス、シオン、アクアら上位陣の足止めに入ってくれ」「一級リーダーの中野鈴。君は一輝、千代を率いて現場の指揮権を掌握。二級の颯斗、大輝、あかり、三級の拓海たちと連携し、一般人の救出とブラックナンバー中位のデリザスタ、マビキらの防衛ラインを構築せよ」司の的確なチェスの指し手のような指示が次々と飛び交う。「そして、四級のまい、たくま。太一、ほのか。君たちも一級のカバーに入りながら、大阪へ向かうんだ。きいがそこにいる。決着をつける時だ」「……はい!」私は強く頷いた。足元では、異形の天秤となったたくまの前髪のない顔が、ついに訪れた宿敵との決戦を前に、怒りと決意を宿した鋭い瞳で前方を睨みつけている。特級との修行、そして司との視界同調(シンクロ)を経た今の私たちは、もうあの頃の無力な子供ではない。新幹線や呪術師専用の高速移動手段を乗り継ぎ、私たちは息を呑むような緊張感の中で、一気に西へと駆け抜けた。数時間後。私たちが降り立ったのは、赤黒い呪詛の霧に包まれた大阪市の繁華街だった。いつもなら観光客で賑わうはずの道頓堀の街並みは、建物の壁がひび割れ、ガラスの破片が散らばる地獄絵図へと変貌していた。はるか前方からは、空間そのものが削り取られるような、特級同士の凄まじい戦闘の衝撃波が地鳴りとなって伝わってくる。「……みんな、無事に大阪に到着したね。ここからが本番だ」私たちの視界を共有している司の冷徹な声が、脳内で響く。すぐ側には、一級リーダーの中野鈴、二級の颯斗、大輝、あかり、そして四級の太一やほのかが、それぞれの武器や呪力を構えて臨戦態勢をとっていた。「私のたくまを奪ったきい……、今度こそ、あんたを絶対に許さない」私は、自分で体を動かせないたくまの天秤の背にそっと手を置き、呪力を爆発させた。ブラックナンバー9人vs呪術師総勢、大阪の街を舞台にした最大規模の全面戦争が、ついに幕を開ける。