各グループ、警戒を最大に。……まだ霧が濃すぎて、ブラックナンバーの上位陣の正確な位置が掴めていない」安全な本部の管制室から、神原司の緊繁な声が私たちの脳内に直接響く。司の視野共有の術式をもってしても、大阪の街を覆う赤黒い呪詛の霧は不気味に渦巻き、敵の配置を完璧には捉えきれていない。特級ペアがレグウィスたち3トップを狙い、1級ペアが中衛を固めてはいるが、お互いに視界の悪い中での全面戦争だ。どこで誰が誰とぶつかるかは、完全に運に委ねられていた。「もし、2級から4級のグループがレグウィスやシオン、アクアと遭遇した場合は……戦おうとするな。即座に肉壁を築いて、特級が駆けつけるまでの時間を稼ぐんだ」司の冷徹な言葉に、私たちのグループを率いる2級のあかりが、ゴクリと唾を飲み込んだ。私と、4級の太一、ほのかの3人も、武器を握る手にじっとりと汗をにじませる。「あ……が……」私の足元で、異形の天秤となったたくまの前髪のない顔が、周囲の霧を鋭く睨みつけていた。私とたくまの意識のシンクロ率は、特級との修行のおかげで過去最高に高まっている。受けた衝撃を倍返しにする「天秤の特性」も頭に叩き込んだ。けれど、相手はあのブラックナンバーだ。きい以外の上の連中、ましてや『強さの壁』の向こう側にいる化け物たちと鉢合わせたら、運が悪ければ一瞬で全滅する。「大丈夫……大丈夫だよ、たくま。司さんの指示もあるし、あかり先輩もいる」私は自分に言い聞かせるように呟き、たくまの冷たい質量に寄り添った。太一とほのかも、互いの背中を合わせるようにして呪力を練っている。その時だった。ピタリ、と周囲の風が止んだ。いや、風だけじゃない。大阪の喧騒、遠くで響いていた特級たちの戦闘音、そのすべてが、まるで空間ごと『凍結』したかのように消失したのだ。「え……?」あかりが声を漏らした瞬間、前方の濃い霧が、まるでモーセの海割りのように左右に割れていく。そこから、ゆっくりと歩いてくる一つの影があった。重すぎる。放たれている呪力の密度が、神代や、あの時戦ったクラウンたちとは文字通り次元が違っていた。ただそこに存在しているだけで、私たちの皮膚がビリビリと裂けそうなほどの圧。「あーあ、外れクジか。特級の連中と遊べると思ったのに、ただの雑魚じゃん」霧の向こうから現れたのは、退屈そうに首を振る一人の男。ブラックナンバーの頂点。強いもの以外に一切の興味を持たない、リーダーのレグウィスだった。最悪の『運』。2〜4級のひよっこグループである私たちの前に、いきなり組織最強のバケモノが立ちはだかった。「ひっ……あ、あ……」太一とほのかが、その圧倒的な存在感を前に、恐怖で膝をガタガタと震わせる。「みんな、動くな……ッ! 司さん、繋がって……!?」あかりが必死にインカムに叫ぶ。「……っ、たくま……!」自分で体を動かせないたくまの瞳が、かつてないほどの警戒と恐怖、そして私を守ろうとする強い意志でカッと見開かれた。私たちの『天秤』が、最強の王を前に、静かに、しかし決死の覚悟で傾き始める。