「——下がれ、お前らッ!!」空間が爆ぜるような轟音と共に、赤黒い霧を吹き飛ばして二つの影が私たちの前に割って入った。特級呪術師の麗華とリントだ。二人が放つ最高峰の呪力の障壁が、レグウィスから放たれる圧倒的な圧力を一瞬だけ押し戻す。「司の報告を聞いて飛んできたが……マジでレグウィス本人かよ」リントが冷や汗を流しながらも、不敵な笑みを浮かべて呪力を極限まで練り上げる。麗華も長い髪をなびかせ、その瞳に鋭い殺気を宿して構えた。特級上位の二人が揃い踏みしたという事実に、私は一瞬だけ安堵の息を漏らす。あかり、太一、ほのかの三人も、へたり込みながら二人の背中を見上げた。しかし、目の前に立つ組織最強の男、レグウィスは眉一つ動かさない。彼は麗華とリントを一瞥すると、ひどく退屈そうにため息をついた。「なんだ、特級の上が来たと思えば……やっぱりその程度か。お前たちにも、何の興味も湧かないな」「舐めてんじゃねえぞ、バケモノがッ!!」リントが地を蹴り、訓練で私とたくまに見せたものを遥かに超える、街一つを消し飛ばしかねない密度の呪力拳をレグウィスへ叩き込む。同時に麗華の放つ全方位からの高密度呪力攻撃が、容赦なくレグウィスの死角を襲った。特級上位の二人が全力を尽くした、文字通り規格外のコンビネーション。だが、レグウィスは構えすらとらなかった。「……鬱陶しい」レグウィスが、ほんの少しだけその身にまとう呪力を爆発させた。それは、彼にとってはわずか二割程度の力に過ぎなかった。ドォオオオオン!!!鼓膜を破るような衝撃波が大阪の繁華街を駆け抜け、周囲のビル群のガラスが一斉に粉砕される。次の瞬間、何が起きたのか私の目では全く捉えられなかった。全力で突っ込んだはずのリントの身体が、くの字に折れ曲がって地面を何百メートルもバウンドしながら吹き飛んでいく。麗華の術式も文字通り力技で粉砕され、彼女は大量の血を吐きながらコンクリートの床へ叩きつけられた。「が、はっ……あ、ありえねえ……なんだよ、この、質量は……ッ!」血の海のなかで、リントが必死に腕を動かそうとするが、肉体が破壊されすぎて立ち上がることすらできない。麗華もまた、意識を保つのがやっとという惨状だった。特級上位の二人が、本気ですらない、たった二割の力で完全に叩きのめされたのだ。「はぁ……。期待して損した。弱すぎるな、お前たち」レグウィスは、ピクリとも動かなくなった特級の二人、そして恐怖で声すら出せない私たちを、心底呆れたような目で見下ろした。そこには殺意すら存在しない。ただ、道端に転がる小石を蹴り飛ばしただけの、圧倒的な無関心。「価値のないものを殺すほど、暇じゃないんでね」トドメを刺す価値すら見出せない。レグウィスはそう言い捨てると、血を流して倒れる麗華とリントに背を向け、そのまま深い霧の向こうへとゆっくり歩き去っていった。「あ……あ……」私の足元で、異形の天秤となったたくまの前髪のない顔が、生まれて初めて味わう「絶対的な強者」の理不尽さに、絶望と戦慄を宿した瞳をただ大きく見開いていた。特級の上。ブラックナンバーの頂点という存在の底知れなさを、私たちは血の味と共に、その脳裏に深く刻み込まされることになった。