俺救2   作:ネネネノノ

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24話『頑張るよ』

大阪での惨敗から、本部の空気は一変していた。あの最強と信じていた特級上位の麗華やリントが、本気ですらない二割の力で赤子のようにもぎ取られたのだ。世界の基準が『将システム』へと書き換えられた今、誰もが己の無力さに歯を食いしばっていた。「……あ。まい、たくま。今日のメニュー、これ」資料を差し出してきた一級リーダーの中野 鈴(すず)は、いつも通り無口で、全くの無表情だった。普段は冷徹な鉄の女に見える彼女だが、唯一、その表情が柔らかくなる瞬間がある。「おい、鈴。俺の分のタバコ、本部の購買で買ってきといてくれよ。あと今月の仕送り、パチスロで全部溶けたからちょっと貸して」気だるげに髪をボサボサに掻きながら現れたのは、彼女の兄であり特級の中野 伊織(いおり)だ。重度のヤニカスでパチカス、私生活は完全に破綻しているろくでなし。ただ、性格が悪いわけではなく、口調も別に怖くはない。「……お兄ちゃん、また負けたの。仕方ないなぁ、今回だけだよ」そう言う鈴の顔には、微かに楽しそうな、年相応の妹としての笑みが浮かんでいた。そんな二人のやり取りに、張り詰めた訓練場の空気が一瞬だけ緩む。だが、現実はそれほど甘くはなかった。「よし、4級コンビ。休憩は終わりだ。……いくぞ」包帯まみれの身体を引きずりながら、リントが前へ出た。隣には、同じく寝不足で目の下に色濃いクマを作った麗華が立っている。特級の先輩たちは、あの敗北が死ぬほど悔しかったのだ。ただでさえ、私たち下の階級(2級〜4級)の若手たちを少しでも死なせないために、つきっきりで指導をしてくれている。それなのに奴らは、自身の睡眠時間を限界まで削ってまで、自らの『三将』の限界を超えるための狂気的な修行を裏で並行して行っていた。「おいまい、たくま! 特級(俺たち)がここまでやってんだ、お前らも血を吐くまでついてこい!」「リントの言う通りよ。次にあいつらと会った時、今度こそ一矢報いる。……そのためなら、私は睡眠なんていらない」麗華の凄まじい呪力の障壁が展開される。私は恐怖を捨て、地を蹴った。「たくま、合わせて……ッ!!」自分で身体を動かせないたくまの「強くなりたい、まいを守りたい」という強烈な意識を、私の呪力の糸が完全に捉える。優斗から教わった『主導権の逆転』。そして、リントから授かった『天秤の特性』の解釈。ドォオオオォン!!!リントの放った強烈な打撃を、たくまの漆黒の天秤が受け止める。衝撃が皿に蓄積され、倍の質量となって膨れ上がる。まいの呪力がオートマチックに追従し、前髪のないたくまの顔が、前回を遥かに凌駕する超音速の螺旋を描いてリントへと射出された。「へへ……いい重さになってきたじゃねえか!」リントがそれを片腕で弾き飛ばす。一級リーダーの鈴が、その無表情な瞳で私たちの成長をじっと見つめ、神原司先輩の視界共有が私たちの動きのブレを脳内で的確に修正していく。「あ……が……ッ!!」喋れないたくまの瞳に、確かな闘志の炎が灯っていた。特級の先輩たちが命を削って繋いでくれる時間。私たちは将の数にすら入れてもらえないゴミ虫かもしれない。だけど、この地獄のような焦燥の揺り籠の中で、私たちの『天秤』は、確実に『将』の領域へと傾き始めていた。

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