「……ようまとけいの治療は、今も医療班が全力で行っている。二人とも一命は取り留めたが、前線への復帰にはしばらく時間がかかるだろう」本部の作戦会議室。神原司先輩の重々しい声が響く。モニターには、集中治療室で反転術式を受けながら眠る、ようまとけいの痛々しい姿が映し出されていた。大阪でのレグウィスに続き、愛知でのシオンとアクア。睡眠時間を削ってまで強くなろうとした特級の先輩たちが、才能の化け物たちに蹂躙されていく現実。私の足元では、異形の天秤となったたくまの前髪のない顔が、己の無力さを噛み締めるようにじっと床を見つめていた。喋れない彼の瞳には、かつてないほどの激しい焦燥の炎が灯っている。「落ち込んでいる暇はない。ブラックナンバーは、私たちの戦力を削るための『次の一手』をすでに打ってきている」司先輩が画面を切り替えると、日本各地の地図に無数の赤い点が浮かび上がった。「奴らは今、『呪霊(じゅれい)』を人工的に製造し、街へと大量に放出している」「呪霊を、製造……!?」4級の太一とほのかが驚愕の声を上げる。1級リーダーの中野鈴は、いつもの無表情のまま腕を組み、兄の伊織はタバコを咥えながら(まだ火はつけていない)だるそうに画面を睨みつけた。「幸い、現時点では『二級以上の警備システム(週1回、2人ペア、6時間、1日4ペア)』が機能しているため、街が完全に崩壊する事態は防げている。だが、放出される呪霊の質が徐々に上がってきているんだ」司先輩はホワイトボードに、呪術師と同じ階級の図を書き加えた。「周知の通り、呪霊にも呪術師と同じく『特級、1級、2級、3級、4級』の階級がある。普通の3級や4級なら、まいや太一たちでも問題なく祓えるが……問題はやはり、奴らが製造し始めた『特級呪霊』だ」司先輩の眼鏡の奥の目が、鋭く光る。「特級呪霊は、これまでの下位呪霊とは根本的に違う。高い知能を持ち、人間と同じように言葉を喋るんだ。 そして実力に関しては、レグウィスの『将システム』で言えば『四将』……つまり、僕たちの陣営における『特級下位レベル』に相当する実力を持っている」特級下位レベルの化け物が、組織の手によって量産され、街に放たれている。きいのような「三将(特級上位)」クラスが動かずとも、この特級呪霊たちが警備ラインを突破すれば、それだけで下位の呪術師や一般人は一瞬で全滅する。「あ……が……」動けないたくまの顔が、私の呪力操作を求めるようにギチリと天秤の体を鳴らした。『努力は才能に勝てない』。あのクソガキたちの嘲笑が、今も耳の奥でリフレインしている。だけど、先輩たちが命を削って守ろうとしているこの世界を、これ以上奴らの玩具にさせるわけにはいかない。「まい、たくま。そして4級の皆。警備の先輩たちが特級呪霊を引き受けている間に、君たちは放出された下位呪霊を確実に間引き、実戦の中で『将』の領域へ至る足がかりを掴むんだ。……作戦を継続する」「はい……!」私はたくまの冷たい質量にそっと手を重ね、次の戦場へ向けて、どす黒い闘志を自らの呪力へと変えていった。