「——まい、太一、ほのか。正面の地下通路から二級呪霊が二体、三級呪霊が五体接近中。左右の退路は確保してある。君たちの連携で、ここで一網打尽にするんだ」深夜の地下街。静まり返ったコンクリートの空間に、神原司先輩の冷静なナビゲーションが響く。司先輩の視野共有の術式のおかげで、霧の向こうから這い出てくる呪霊たちの正確な位置が、私の脳内に直接マッピングされていた。「ま、まいちゃん……! 本当に来た、すごい数……!」「落ち着けほのか! 司さんの指示通りに動けば絶対に勝てる!」四級の太一とほのかが、緊張で声を震わせながらも、それぞれの武器に呪力を込める。私の足元では、漆黒の天秤の姿となったたくまの前髪のない顔が、鋭い眼光で暗闇を睨みつけていた。特級の先輩たちが睡眠時間を削って繋いでくれた時間。そして、優斗先輩とリント先輩から教わった「主導権の逆転」と「天秤の特性の解釈」。私たちは、あの天才クソガキどもに「努力は才能に勝てない」と嘲笑された屈辱を、一瞬たりとも忘れていない。「キシャアアアアッ!!」闇を裂いて、異形の腕や無数の目を持つ二級・三級の呪霊の群れが、猛然と私たち目掛けて突っ込んできた。「太一、ほのか! 前衛の三級を引きつけて!」「応ッ!」太一の放った高出力の呪力弾が先頭の呪霊の足を止め、ほのかが展開した呪力の罠が敵の陣形を崩す。連携は完璧だ。だが、その奥から、巨体を持つ二級呪霊二体が、仲間を踏みつぶしながら圧倒的な質量で私たちへと跳びかかってきた。「今だよ、たくま……! 意識を私に預けて!」私がそう叫んだ瞬間、自分で身体を動かせないたくまの「まいを傷つけさせない」という強烈な防衛意識が、私の呪力の糸と完全に同調(シンクロ)した。まいが操るのではない。たくまの「動きたい」という脳内イメージに、私の呪力がオートマチックに追従する。ズガァアアアン!!!二級呪霊たちの凶悪な一撃が、滑り込んできたたくまの漆黒の天秤の皿へと直撃した。凄まじい衝撃。だが、今の私たちはこれを受け流さない。リント先輩の教え——『天秤とは、二つのものの均衡を測る道具だ』。「——新技、『因果傾転(いんがけいてん)』!!」受け止めた二級呪霊二体分の凶悪な衝撃の質量が、天秤のもう片方の皿へと一瞬で蓄積され、呪力の輝きとなって倍に膨れ上がる。「あ……が……ッ!!」喋れないたくまの顔が、怒りと共にカッと見開かれた。次の瞬間、衝撃をすべて上乗せされたたくまの顔が、超音速の螺旋を描きながら、前方の空間ごと抉り取るような勢いで射出された。ドガガガガガガガガッ!!!それは、ただの顔の分裂攻撃ではない。受けた攻撃の重さをそのまま相手に傾ける、絶対的な倍返しの一撃。直撃を受けた二級呪霊たちは叫び声を上げる暇もなく消し飛んで肉片となり、その背後にいた三級呪霊の群れも、凄まじい衝撃波の余波に巻き込まれて一瞬にして一網打尽に、文字通り塵へと化していった。「す、げえ……二級の群れを、一撃で……!」太一が唖然として声を漏らす。「あ……はは……やった、やったよ、たくま……!」私は荒い息を吐きながら、たくまの冷たい天秤の身体を強く抱きしめた。黒い塊から突き出た、前髪のないたくまの顔が、私の頭に優しく擦り寄るように小さく喉を鳴らす。『素晴らしいコンビネーションだ。まい、たくま。君たちの呪力の出力は、確実に四級の枠を飛び越えつつある』インカムの向こうで、司先輩の驚きと、確かな賞賛を孕んだ声が響いた。私たちはまだ、将システムの数にすら入れてもらえないゴミ虫かもしれない。だけど、この泥臭い努力の果てに掴んだ新しい牙で、私たちは必ず、あのきいたちのいる高みへと這い上がってみせる。地下街に静寂が戻る中、私たちの天秤は、復讐のために力強くその傾きを刻んでいた。