俺救2   作:ネネネノノ

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第3章『秘密のK』
32話『誰?』


「任務完了、お疲れ様。四人とも、速やかに本部の迎えの車両へ合流してくれ」地下街の残穢(ざんえ)が完全に消え去るのを見届け、神原司先輩の視界共有がそっと解除される。新技『因果傾転』の確かな手応えに胸を震わせながら、私と太一、ほのかは地上へと続く階段を上っていた。私の足元では、自分で体を動かせないたくまの天秤の巨体が、私の呪力に引かれて静かに宙を浮いている。前髪のない彼の顔は、戦いを終えた安堵からか、少しだけ穏やかな表情を浮かべていた。その「彼」に出会ったのは、深夜の繁華街の、ひときわ暗い路地裏の十字路だった。「——へえ。面白い天秤を連れているね」艶(つや)のある、鈴を転がしたような声が響く。街灯の頼りない光の中に佇んでいたのは、一瞬、誰もが息を呑むほど美しい「女性」に見える人物だった。しかし、よく見ればその顔立ちは極めて中性的(やや女性寄り)であり、身体のラインも性別をあやふやにさせる独特の衣服に包まれている。名前は、ハツカ。ただそこに立っているだけなのに、彼(あるいは彼女)の周囲の空間だけが、ねっとりとした独自の呪力で歪んでいるのが分かった。味方陣営の特級たちとも、ブラックナンバーのあのクソガキどもとも違う、背筋がゾワゾワとするような怪しい雰囲気がバンバンと漂っている。「な、何者……!? 呪詛師、それとも……」太一とほのかが、先ほどの呪霊戦以上の警戒で武器を構える。動けないたくまの顔も、その本能的な危険を察知して、鋭い瞳でハツカをじっと睨みつけた。だが、ハツカは気にする風でもなく、中性的な顔に妖しい笑みを浮かべて私の手を取り、その手の甲にそっと唇を寄せた。「おっと、警戒しないで。私はただの、君たちの『ファン』さ。特にその、声を出せない天秤の少年(たくま)に、ずいぶんと興味があってね。……どうだい? 立ち話もなんだ。私の『家』で、少しお茶でもしないかい?」普通なら、司先輩に報告して即座に逃げるべき案件だった。けれど、ハツカの瞳の奥にある底知れない呪力の深淵を見た瞬間、私の直感が告げていた。ここで拒絶すれば、今度こそ逃げられない、と。それに、この怪しい人物は、私たちが求めている「世界の真実」を握っているような気がしてならなかったのだ。「太一、ほのか……私は、この人と行く。司先輩には私から連絡を入れておくから」「えっ、まいちゃん!? 正気かよ!」二人の制止を振り切り、私はたくまを伴って、ハツカの用意した高級外車へと乗り込んだ。車が向かった先は、大阪でも愛知でもない——東京だった。ハツカの案内で連れてこられた彼の「家」は、東京の一等地にそびえ立つ、一般人では一生立ち入ることすら許されないような超高級タワーマンションの最上階だった。大理石の床、天井まで届く全面ガラス張りの窓からは、東京の眩い夜景が一望できる。「さあ、歓迎するよ。まい、そしてたくま」ハツカは上着を脱ぎ捨て、贅沢なソファに深く腰掛けながら、私たちを妖しく見つめて微笑んだ。本部の安全な管制室にいる司先輩の視野共有も、この東京の超高級タワマンの結界のせいか、先ほどからノイズが混ざって上手く繋がらない。ブラックナンバーでも、本部の呪術師でもない、怪しすぎる中性的な美貌を持つハツカ。この豪華絢爛な密室で、私たちはこの世界を揺るがす「新たな深淵」と対峙することになる。

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