「ふふ、そんなに緊張しなくていいのに。……あ、もしかして私のこと、女の子だと思ってた?」東京の超高級タワマンの最上階。東京のきらびやかな夜景を背に、ハツカは悪戯(いたずら)っぽく微笑んだ。中性的な顔を近づけてくる彼に、私は思わず身を引く。「実は私、男なんだよね。よく間違えられるんだけどさ」「え、男……っ!?」私と、4級の太一やほのか(彼らも心配してついてきていた)は、驚きのあまり声を揃えてしまった。あんなに艶やかで綺麗な立ち振る舞いなのに、まさか男性だったなんて完全に騙されていた。私の足元で、自分で身体を動かせないたくまの前髪のない顔も、驚愕にその目を丸くしている。喋れないたくまの代わりに、私がハツカの意図を問いただす。「ハツカさん……あなた、何者なんですか。本部の特級たちとも、ブラックナンバーの奴らとも違う呪力だけど……」ハツカは最高級のソファに深く腰掛け、ワイングラスを傾けながら、その妖しい唇を開いた。「私はね、君たちが警戒している例の組織——『K』の一員さ」その言葉に、室内の緊張感が一気に跳ね上がる。神原司先輩から「その一切が闇に包まれている」と説明された、あの新勢力『K』。その幹部クラスが、目の前にいるのだ。「そんなに怯えないでよ。情報を与える価値もないって切り捨てた、ブラックナンバーのクソガキどもよりは、私はずっと君たちに親切だよ?……せっかくだし、君たちに『K』の内部事情を色々話してあげようか」ハツカは中性的な顔に笑みを浮かべ、誰も知らない組織の全貌を語り出した。「まず、君たちが一番気にしているだろう『Kの目的』についてだけど……。表向きの最終目標は『世界征服』さ」「世界、征服……!?」あまりにも時代錯誤で、かつ壮大すぎる規模の言葉に私は耳を疑った。「そう。でもね、そんな大それたことを本気で考えているのは、ウチのボスと、ごく一部の狂信的な幹部だけ。組織の全員が一岩になって世界を滅ぼそうとしてるわけじゃないんだ。……何なら、Kのメンバーの中には、君たち『呪術師(本部)』の仲間として動いている人間も何人か混ざっているよ」「本部の呪術師が、Kのメンバー……? 内通者がいるってこと!?」「内通者、というよりは協力者、あるいは二足の草鞋(わらじ)かな。呪術界の上層部に不満がある奴らが、Kの力を借りて変革を起こそうとしてるのさ。だから組織のカラーとしては、実はブラックナンバーほど冷酷非道ってわけじゃない」ハツカはグラスを置き、まっすぐに私とたくまを見つめた。「ちなみに私の立ち位置は、組織の中でも『中間的なポジション』。まぁ、どちらかと言えば呪術師(君たち)寄りの考え方をしてるかな。だから、一般人を面白半分で武器にするきいちゃんたちのやり方は、私もあんまり好きじゃないんだよね」ハツカのその言葉には、嘘偽りがないように思えた。味方側の呪術師とも、完全な悪であるブラックナンバーとも違う、極めてグレーで独自の正義を持つ組織『K』。「あ……が……」動けないたくまの顔が、ハツカの言葉の真偽を確かめるようにじっと瞳を凝らす。本部を揺るがすほどの重要な情報を、なぜこの男は私たちに話すのか。東京の夜景を見下ろすラグジュアリーな密室で、私たちは世界の『均衡』を握る、さらなる深淵へと足を踏み入れていた。