「ふぅ……。これで六時間、ぴったり警備終了だね。お疲れ様、まい、たくま」ハツカは夜の横浜の港を見つめながら、中性的な顔に艶やかな笑みを浮かべた。彼の圧倒的な呪力の威圧感のおかげで、あれから特級呪霊(四将レベル)が戻ってくることはなく、二級呪術師としての私たちの初警備は何とか無事に幕を閉じた。前髪のないたくまの顔は、傷を癒やしながらも、隣に立つこの「掴みどころのない怪物質」をずっと鋭い瞳で警戒し続けていた。ハツカは振り返り、ボク、と胸に手を当てて本題を切り出した。「さて、約束通りお話をしようか。……二日後、まいとたくま、それから君たちの本部の『特級』を二人連れて、渋谷に来てほしいんだ」「渋谷……? そこに何があるんですか」「ボクたちの組織——『K』の本部へ案内してあげる。」ハツカの口から飛び出した衝撃の言葉に、私は息を呑んだ。「安心しなよ、罠じゃない。Kの本部に、どうしても君たちを合わせたい人がいるのさ。その人はね、今のボクと同じで、すごく『味方寄り』の考え方をしてくれている人だからさ」ハツカはそう言うと、全面ガラス張りの夜景を見つめるように視線を落とし、少しだけ退屈そうに肩をすくめた。「君たちがこないだ言っていた『将システム』だっけ? ──あいにく、ボクたちはそのシステムにあまり詳しくないんだよね。だってそれ、ブラックナンバーのレグウィスが勝手に作って、勝手に格付けしただけの不条理なルールだろ?」「詳しくない、って……ハツカさんたちは一将が誰なのか知らないんですか?」私は、神原司先輩から共有された世界の真実を思い出しながら、ハツカに詰め寄った。「一将の該当者はこの世界に全部で九人いるの。ブラックナンバーのレグウィス、シオン、アクア、ヒライ、デリザスタの五人。そして、こないだシオンたちが『殺し屋の中にヤバいのが二人いる』って教えてくれた。……だから、残る一将は、あと二人しかいないはずなんです」残りの二人は、もしかして『K』の幹部やボスなのではないか。私がそう疑いの目を向けた瞬間、ハツカはクスッと、心底おかしそうに笑い声を上げた。「あはは! なるほどね! でもね、まい。なら『K』には一将は一人もいないって、ボクがここで断言してあげるよ」「え……? いない……?」「そうだよ。だって、レグウィスが認めるようなその『残りの二人』のバケモノなら、ボクにははっきりと心当たりがあるしね。 奴らは『K』の人間なんかじゃないさ」ハツカの目は、笑っているのに、奥のほうが完全に冷え切っていた。『K』には一将はいない。そして、世界を裏から牛耳る残りの二人のバケモノの正体を、ハツカはすでに知っている。「ボクからの話はこれでおしまい。二日後、渋谷で待ってるよ。特級の二人を連れてくるのを忘れないでね。……じゃあね」ハツカは中性的な美貌に妖しい笑みを残すと、夜霧に溶けるようにその場から完全に気配を消し去った。同時に、ずっと遮断されていた司先輩の視野共有がジャ、ジャジャ……とノイズを立てて復旧する。『まい! たくま! 無事か!? 通信が今繋がった……!』インカムから響く司先輩の焦燥しきった声。Kには一将は存在しないという新事実。そして、二日後に指定された『Kの本部(渋谷)』への招待。私とたくまは、ハツカから手渡されたあまりにも巨大で危険なチケットを手に、本部の先輩たちが待つ部屋へと引き返すしかなかった。