「——なるほどな。ハツカという男は、二日後に渋谷の『K』の本部へ俺たちを招いたか」本部の作戦会議室。神原司先輩が眼鏡の位置を正し、ホワイトボードに『渋谷・K本部』と書きつける。室内には、一級リーダーの中野鈴(すず)、そして睡眠時間を削ってまで修行を続けていた特級の先輩たちが全員集まっていた。私たちの足元に浮かぶ漆黒の天秤、その体の一部から突き出た前髪のないたくまの顔は、次なる戦局の重圧を肌で感じるように、鋭い眼差しで室内の緊迫感を見つめている。「ハツカの言葉通り、Kに『一将』がいないのが本当なら、戦力的な意味での即死リスクは低い。だが、状況次第で敵に回ると言っていた男だ。罠の可能性も十分に考慮し、動ける特級の中から最強の二名を選出する」司先輩が並み居る特級たちを見渡すと、包帯を巻いたリントが不敵な笑みを浮かべて一歩前へ出た。「俺が行く。大阪でのレグウィスの一件から、自分の限界を超えるための新技の算段がようやくついたところだ。Kの本部がどんな地獄か知らねえが、まいとたくまは俺が守ってやるよ」「……あーあ。面倒くさいけど、僕も付き合うよ」壁に寄りかかりながら、気だるそうに前髪を払ったのは優斗(ゆうと)だった。特級上位の二名、リントと優斗。彼らが同行してくれるという事実以上に心強いものはなかった。無口で無表情な一級リーダーの鈴も、この二人の選出には小さく深く一度だけ頷く。「よし、決まりだ。まい、たくま。リントと優斗を伴って、二日後、指定された渋谷の座標へ向かってくれ。僕も本部の安全圏から、君たちの視野共有を通じてすべての戦況をモニターし、指示を出す」「はい……! よろしくお願いします!」私は強く頷いた。ハツカが断言した「Kには一将はいない」という言葉。そして、残りの二人のバケモノへの心当たり。すべての謎の答えが、二日後の渋谷に待っている。──そして、二日後。私たちは、ハツカに指定された渋谷のスクランブル交差点へと降り立っていた。いつもなら若者や観光客で溢れかえっているはずの渋谷の街は、Kが張った独自の強力な結界のせいか、どこか静まり返り、不気味な薄墨色の霧が立ち込めていた。「へえ、本当に特級上位の二人を連れてきてくれたんだね。約束を守ってくれて嬉しいよ、まい、たくま」駅前の喧騒の跡から、中性的な美貌に妖しい笑みを浮かべたハツカが、いつもの「ボク」という一人称を響かせながら、ひらひらと手を振って現れた。「ちっ……怪しい雰囲気がバンバン出てるな、お前がハツカか」リントが凄まじい呪力を身にまとい、いつでも動けるように身構える。優斗もまた、周囲の空間そのものを歪ませるような圧力を放ちながら、ハツカを鋭い視線で値踏みした。「そんなに怒らないでよ。ボクは今、君たちの『仲間寄り』なんだからさ。さあ、案内するよ。君たちを待っている『合わせたい人』の元へね」ハツカの先導により、私たちは薄暗い渋谷の地下へと続く階段を下り、Kの本部へと足を踏み入れていく。インカムの向こうで、司先輩が「……全員、周囲の残穢を警戒しろ」と緊張した声を漏らす。ゴミ虫と言われたあの夜から、二級へと駆け上がった私とたくまの天秤が、世界の深淵を暴くための次なる扉を叩こうとしていた。