「手土産、ですか? ──ふふ、気が早いね優斗。ボクたちが用意した最高の手土産は、まさに今、君たちの目の前にいるじゃないか」ハツカは中性的な顔に妖しい笑みを浮かべ、隣に立つ奏を指差した [INDEX]。「この奏(かなで)はね、完全に君たちの『味方』という認識でいいよ。Kのボスがどんな命令を下そうが、奏だけは絶対に君たちを裏切らない。その頭脳と力を君たちのために貸し出す。これ以上の手土産なんて、そうそうないだろ?」ハツカの言葉を受け、奏は丁寧な動作で軽く一礼した。彼は話すときは基本、敬語を使う。ただ、へりくだりすぎるわけでもなく、様付けをするような過剰な礼儀正しさではない。どこか淡々とした、落ち着いた大人の声音だった。「ハツカの言う通りです。僕は『K』という組織に身を置いてはいますが、ボスたちの掲げる破壊的な思想には一切共感していません。僕はただ……『強いものこそが世界を守れる』と考えているだけなのです」奏がそう言った瞬間、彼の澄んだ瞳の奥に、ぞっとするほど純粋で、かつ狂気的な光が宿った。「この世界は、圧倒的な強者によって秩序がもたらされるべきです。僕はただ強さを渇望し、強さに固執しているに過ぎません。だからこそ、理不尽な暴力を振るうブラックナンバーではなく、世界を護るために泥を這う呪術師の皆さん……特に、レグウィスのような『一将の上位』に位置するような、理外のバケモノを心から憧れ、尊敬しているのです」奏のその言葉には、嘘偽りが一切なかった。彼は一般的な「正義」のために味方をするのではない。あまりにも強さに固執し、圧倒的な一将の上位という存在を尊敬するがゆえに、世界を「護る側」の強者へその力を貸そうとしているのだ。「なるほどな……。一将に届かないまでも、大した呪力だ。ハツカ、お前も含めてな」リントが、少しだけ構えを緩めて二人を値捕みする。「お褒めに預かり光栄です。自己分析を恐れずに申し上げるなら、僕とハツカの実力は、おそらく『二将の下位』か、あるいは『三将の上位』といったところでしょうか。レグウィスのような絶対的な頂点には遠く及びませんが、皆さんのサポートをするには十分な力があると自負しています」二将下位、あるいは三将上位。それは、かつて大阪で私たちを子供のようにあしらったきい(三将レベル)と同等か、それ以上のバケモノが、一気に二人も「完全な味方」として加わったことを意味していた [INDEX]。隣に浮かぶ漆黒の天秤、その体から突き出た前髪のないたくまの顔が、奏の放つ静かな呪力の波動をじっと見つめている。私とたくまはまだ、将の数にすら入れない二級呪術師 [INDEX]。けれど、この強さの信奉者(奏)との出会いは、私たちの天秤に、かつてないほど巨大な『勝機』を傾けようとしていた。「皆さんがお知りになりたい世界の真実……『残りの一将』の正体についても、僕の知る限りのすべてをお話ししましょう」奏は本棚から一冊の古い手帳を取り出し、静かに微笑みながら私たちをデスクへと促した。