43話『こわいよ』
錯綜する頂点、五大組織の牙「……すみません。ハツカは心当たりがあるようですが、あいにく僕のデータには、その『残りの二人の一将』の情報は記録されていないのです。ハツカに聞いても、意地が悪いので僕には教えてくれなくてね」奏は手帳を閉じ、少しだけ残念そうに肩をすくめた。ハツカは中性的な顔に妖しい笑みを浮かべ、ワイングラスを弄びながら「ボクの秘密だよ」と口元に指を立てている。Kに一将はいないと断言したものの、ハツカが握るその二人の正体は、依然として霧の向こうだった。その時、ずっと遮断されていた本部の神原司先輩からの視野共有と通信が、激しいノイズと共に復旧した。『……まい、たくま! 聞こえるか! Kの動向も気になるが、今、大阪の戦線が急激に動き出した!』インカムの向こうから響く司先輩の声は、かつてない緊迫感を孕んでいた。渋谷の巨大な円柱状の建物に私たちがいる間、本部の別の最高戦力たちが、独自の目的で動いていたのだ。『特級の麗華(れいか)、カナト、そして真白(ましろ)の3人が、現在、大阪にある「殺し屋のアジト」に突入している!』「殺し屋の、アジト……!?」私は息を呑んだ。シオンたちが言っていた「呪術師の殺し屋の中に、一将が2人いる」という言葉。それを確かめ、排除するために、本部の特級たちが動いたのだ。司先輩の戦況報告が、私たちの脳内へダイレクトにマッピングされていく。大阪の地下社会。そこには星の数ほど殺し屋の組織が存在するが、その中でも強大な力を持つ「五大組織」と呼ばれる巨大な闇のネットワークが存在していた。麗華、カナト、真白の3人が足を踏み入れたのは、その五大組織の中でも、最も危険と悪名高い最大勢力——『ウェアー』の本拠地だった。画面越しに伝わってくるのは、大阪の廃ビル群の地下に広がる、鉄と血の匂いが漂う巨大な空間。睡眠時間を削ってまで自らを追い込んできた麗華たちが、凄まじい呪力を解放しながら、次々と襲いかかるプロの暗殺者たちをなぎ倒していく。「あいつらが言ってた『一将の殺し屋』……ここにいるなら、私が引きずり出してあげるわよ!」麗華の放つ全方位への高密度呪力攻撃が、地下空間の隔壁を爆破していく。隣を走るカナトの静かな殺気、そして真白の底知れない儚げな呪力が、ウェアーの防衛線を紙切れのように引き裂いていく。「へえ、さすがは本部の特級だ。麗華にカナト、真白。……寝不足の割にはいい動きをするじゃないか」煙の向こうから響いたのは、低く、冷徹な男の声。『ウェアー』の最奥。世界を四分する混沌の四極の一角、最強の殺し屋たちの牙が、ついに本部の特級たちの前にその姿を現そうとしていた。