「あーあ、つまんない。やっぱり特級(笑)の二人じゃ、シオンたちの魔法を見る価値もないや」西側通路。18歳の魔女っ子・シオンが大きな帽子を直しながら、退屈そうにため息をついた。隣に立つ同じく天才クソガキの一将、アクアも「本当それー」と同意し、アヴィと優斗の二人をこれでもかと煽り続けていた。アヴィの呪力結界も優斗の空間歪絶も、一将二人が放つ絶対的な天才の圧の前に、完全に発動を封じ込められている。その時、二人のクソガキの手が、ピタリと止まった。コツ、コツ、と不気味なほど冷徹で、かつ圧倒的な呪力の足音が、薄暗い通路の向こうから響いてくる。現れたのは、肩より少し長めの灰色の髪を揺らす、美形の青年。人間を激しく嫌悪し、恋人であるルカにだけその心を開く、五大殺し屋組織『ウェアー』の頂点——一将の殺し屋、クロエだった。「わあ……! クロエじゃん! 本物だ!」「すごーい! リーダー(レグウィス)が言ってた、殺し屋の一将!」アヴィたち特級をゴミのように扱っていたシオンとアクアの顔が、一転して憧れの芸能人でも見つけたかのように嬉しそうに輝き出す。一将の天才クソガキ二人にとって、自分たちと同格であるクロエの存在は、最高にエキサイティングな「遊び相手」だった。「ねえアクア、どっちがクロエと遊ぶか、ジャンケンで決めよ!」「いいよ! 最初はグー、ジャンケン……ポン!」通路の真ん中で、嬉々としてジャンケンを始める二人の一将。結果は、シオンの勝ちだった。「やったー! 勝ち! じゃあクロエは私のね!」シオンが生意気な笑顔で一歩前に出ると、アクアはつまらなそうに口を尖らせた。「ちぇー、つまんないの。じゃあ私は、他にもっと強そうなやつを探しに他のところへ行くね。バイバーイ!」アクアはそう言い残すと、瞬時に青い呪力の霧となってその場から消え去り、別のエリアへと移動していった。残されたのは、自称最強の魔女っ子シオンと、冷徹なる暗殺者クロエ。クロエは、人間全般を激しく好まない。しかし——彼は強者との戦いそのものは好きだった。 だからこそ、目の前に立つ18歳のクソガキが本物の一将であると察したクロエは、珍しくその薄い唇を開き、強いやつとは少しだけ話すという彼なりの流儀を見せた。「……ブラックナンバーの一将、シオン。貴方の魔法、少しは『仕事』の退屈しのぎになりそうですね」「あはは! 殺し屋の一将に褒められちゃった! でも、シオンの魔法は痛いよ?」シオンの指先に超高密度の光ビームが灯り、クロエの手に握られたナイフが銀色の呪力の閃光を放つ。アヴィと優斗の存在など完全に置き去りにしたまま、一将同士の世界最高峰の激突が、今まさに始まろうとしていた。【中層エリア】伊織・鈴 vs まつり一方、中野鈴の放つ絶対零度の「氷の術」によって、そのトリッキーな身のこなしを物理的に凍結させられ、少し押されていたブラックナンバーの中位、まつり。「くっ……お前ら兄妹、マジで冷てえお祭りだな! これ以上は付き合ってらんねえよ!」まつりはこれ以上の戦闘は不利と瞬時に計算し、最後の悪あがきとして周囲の壁に呪力弾を叩き込んだ。激しい爆煙が通路を満たし、伊織と鈴が視界を奪われたその一瞬の隙を突き、まつりは一旦引く(その場から撤退する)のだった。「チッ、逃げ足の速いガキだな」「……お兄ちゃん、追う。別のエリアに被害が出る前に」伊織と鈴のペアもまた、まつりの残穢を追って迷宮の奥へと再び駆け出していく。──そして、最下層エリア。かつて襲撃した女子校の生徒たちを丸ごと引き延ばした、無数の「女子高生コレクション(顔武器)」を壁一面に従え、狂気的な笑顔で突っ込んでくる宿敵・きい。その地獄絵図のような光景を、本部の神原司先輩の通信越しにリアルタイムで目撃していた、私とたくま。前髪のないたくまの顔は、あまりにも悪趣味なきいの軍勢に、怒りと共にかつてないほど激しい瞳の炎を燃え上がらせていた。「いくよ、たくま……! 私たちの天秤で、あの泣き叫ぶ女の子たちの衝撃を……すべて引っくり返すッ!!」四極の迷宮の最底辺で、二級へと駆け上がった私たちの、命を懸けた反撃の幕が上がろうとしていた。