れとろげ!〜無趣味な男がレトロゲー好きの女に振り回される日々〜 作:スーサン
「はぁ……なんかドッと疲れた気がする」
風呂から部屋に戻るとレイジは汚いベッドの上にバフッと倒れ込む。
「ああぁぁぁ……」
少し硬めの布団が却って気持ちよかった。
「なんだろう……このベッドに倒れた際のいい気持ちいい倦怠感は」
ベッドの上でふるふる震える。
「数ヶ月分の疲れから解放されたような気持ちだ……あぁ眠くなって……うん?」
スマホが鳴る。
「誰だ?」
スマホを手に取ると目頭を手の甲で拭う。
「氷室さんからか? そういえばロインを交換したっけ……」
受信のポップアップを押す。
「もしもし?」
受話器を耳に当てる。
「あ、先輩、無事帰れましたか?」
「なにか用か?」
『用がないとかけちゃ駄目ですか?』
「お前に対しては首を縦に振ってやる」
『ツンデレってやつですか?』
「無駄話が目的なら切るぞ」
『実はゴーチューブを見ていたら良さげなゲームとかいろいろ見つかっちゃって。ほらレトロゲームを紹介するチャンネルって探さなくっても出てくるんですよ』
「……」
嫌な予感がする。
「俺、もう寝たいから切るな」
『今度の土日のどっちかの休日、一緒にデートしましょう! 昼くらいなら奢りますよ』
「家にいたいんだけど?」
『資金稼ぎのために面接を受けたメイド喫茶の中に先輩好みのお店がいくつかあるんですけど?』
「昼の奢りなんてケチなこと言わせん。飯代くらい俺が出してやる! その店でな」
『……先輩が望むなら先輩専属メイドとして毎日一緒の家にいてあげても』
「約束忘れるなよ」
『今度は私が先輩にウザさを感じました……でも約束は取りつけましたし……もう少しお話しません? 先輩はギャーゲ好きそうですし古(いにしえ)のパソコンからの移植ゲーを教えてあげましょう!』
「誰がギャルゲー好きだ……好きだけど」
顔が熱くなる。
電話越しの天愛の声が弾む。
『じゃあまずは基本のDearキャロットへいらっしゃい!!2から……』
「昔のギャルゲーの名前まんまって感じだな……」
『なんと移植に合わせて次回作でメインの一人にまで昇格したオリジナルヒロインが人気なんですよ! 個人的はライトノベルなんかがオススメで……』
「はぁ……」
これが趣味のない無教養な男、湯川レイジと趣味のためなら他人の迷惑を顧みない美少女、氷室天愛の出会いであった。
二人がこれからどこへ行き、どんな結末を辿るのか。
それは誰にも分からない。
ただ少なくとも天愛には確信があった。
この先にどんなイベント(生涯)が待っていても結末はバッドエンド(鬱ゲー)にないことだけは……
『先輩。いい情報を教えてあげます♡』
「なんだよ?」
『月が綺麗ですねを私が許可するまで絶対に検索しないでくださいね』
「なんでそんな言葉を検索しなきゃいけない。普通に月が綺麗なだけだろう?」
『ふふっ……♪』
天愛の声がどこか幸せそうで、レイジも気付いてないが自分の表情が和らいでいた。
第一章「レトロゲーム大好き少女との出会い」終幕。
第二章「レトロゲーの女の子とデートしてみた」へつづく