れとろげ!〜無趣味な男がレトロゲー好きの女に振り回される日々〜   作:スーサン

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第二篇「チャイナメイド喫茶で出会った少女が昨日のあの娘だった」

「ふわぁぁぁぁ……うぇ」

 

 朝からザワつく教室の机に突っ伏しながらレイジは気の抜けた声を出す。

 

「ねむぅ……」

 

 ぐったり突っ伏したまま涙を拭うと隣の席に座る悪友の皐月アマハルが呆れた顔を向けている。

 

「どうした? エロ本でも読んで夜更かししたのか?」

「違う……実は買ったばかりのゲームに夢中になってついついやり込んだんだ」

「ああ、お前ゲームするのが趣味だもんな。まぁ聴いてもお前のやるゲームに興味ないから聞かないけどな」

「……」

「なぁそれよりも今日の放課後付き合ってくれないか?」

「付き合う? なにに?」

「実はさ……新しいメイド喫茶を見つけたんだ。ただのメイド喫茶じゃないぞ。和風中華を出すチャイナドレス風のメイド衣装を着たチャイナメイド喫茶なんだ!」

「なんだかいろいろと事故ってる店だな。で……キャストは?」

「実は俺の推しの「にゃーちゃん」がすっごく可愛い! 背が小さいけど胸がとにかくデカいんだ!」

「……詳しく聞こうじゃないか」

「へへ! 聞く必要もないだろう……今日の放課後一緒にメイド喫茶に行こうぜ!」

「……胸がデカい……メイド……ごくり」

 

 胸の高鳴りを感じながらレイジは放課後が来るのを楽しみにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になりレイジは悪友のアマハルに連れられ隠れ家のように繁華街から少し離れた場所にぽつりと建つ「チャイナメイド喫茶・宅楽楼(たくらくろう)」にやってきていた。

 店の中は中華を思わせる卍模様の壁紙と洋風をイメージした調度品が品よく並べられており独特の雰囲気がある。

 見た目の良さとは別に中華料理店ならではの「香辛料の香り」がふわっと漂ってる。

 チャイナドレスをメイド服に改造したような制服がこの空間とマッチし空腹と妙な胸のざわつきを同時に掻き立ててくる。

 

「で……」

 

 レイジはメニュー表をぱらぱらとめくりながら頬杖を突く。

 

「例の「にゃーちゃん」って誰?」

「少し待て。どうやらまだ表には出てないみたいだ。もしかしたら今日はシフトのない日なのかもしれないけどな」

 

 ジャスミン茶を飲みながらアマハルの息がふぅと吐く。

 レイジも意外と美味いジャスミン茶を飲みながらメニュー表を認める。

 

「メニューが本当に「和風中華」なんだな……天津飯に冷やし中華ってこれ日本料理じゃん」

 

 写真付きで並べられている「中華料理にない中華料理風の日本料理」のメニューを見て呆れる。

 アマハルもメニューを確かめながら淡々と答える。

 

「なんでも店主が日本人向けの中華料理店の下で修業してたらしくってな。中華風和食なのはその名残らしい。ちなみにオススメが「らぶらぶキュンキュン漬けの天津チャーハン」らしい。一皿1500円な」

「高い……そして和風中華だからオムライスの代わりに天津飯か……」

「嫌いか?」

「いやむしろ面白い」

 

 厨房に向けて手を上げる。

 

「すみません。注文いい?」

「はぁい♡ ご主人様、少々お待ちくださぁい♡」

「うん?」

 

 厨房の奥から現れた女の子を認めレイジの太い眉がピクリと動く。

 

(昨日、ゲームショップでレトロゲーを買っていった娘じゃないか……ここでバイトしてたのか?)

 

 てくてくと歩いてくる女の子を認める。

 アマハルのテンションが急に上がる。

 

「うわぁぁぁ♪ にゃーちゃんもう出勤してたんだ♪」

「はい♡ ご主人様の可愛いメイドのにゃーちゃんです♡ そちらは新しいご主人様ですね♡ にゃーちゃんです♡」

「あ、ど、どうも……」

 

 にっこり笑われレイジも思わず胸をドキッと高鳴らせる。

 

(た、確かに可愛い……)

 

 ドキドキする胸を抑えながらメニュー表を指さす。

 

「この「らぶらぶキュンキュン漬けの天津チャーハン」を二つ頂戴」

「はい♡ 「らぶらぶキュンキュン漬けの天津チャーハン」ですね♡ 少々お待ちください♡」

 

 背を向けて急いで厨房へと戻るにゃーちゃんを見送りアマハルのテンションがさらに上がる。

 

「なっ♪ なっ♪ すっごい可愛いだろう♪」

「あ、ああ。相変らずお前の女の子を見る目だけは立派だな……」

「はははは♪ まぁ待ってる間暇だからゲームでもするかな」

 

 スマホを取り出すアマハルにレイジも学生カバンにしまってあったズイッチライトを取り出す。

 

「うん?」

 

 アマハルの視線がゲームを起動するレイジの手元を向く。

 

「その古臭そうなゲームがお前の夜更かしの原因か?」

「うん? あ、ああ」

 

 首を縦に振りポーズ画面にしたズイッチの画面を見せる。

 

「ゲッT‐Xっていうんだ。アニメーションがすごくってな。後リマスター版だからズイッチのアーカイブスのように巻き戻し機能があるからやりやすいんだ」

「新しいゲームしか興味が無いと思ったけど意外と古いのもやるんだな。しかもハマッてるし……」

「今回だけだ。いくら面白くっても古いからな……そうそう夢中になることも……うん?」

 

 頭上に影が出来てることに気付き小首を上げる。

 

「おっ……な、なに?」

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

 ガンギマリの表情を浮かべていたにゃーちゃんの顔がまた媚びた笑みに変わる。

 だがその目の奥にはどこか隠しきれない獲物を狙う雌豹のような光があった。

 不思議とその妖艶な目が昨日の振り返った時に見せた可愛い笑顔と重なって見えた。

 

「ご注文の「らぶらぶキュンキュン漬けの天津チャーハン」を持ってきました♡」

「あ、ありがとう……」

「どうぞ♡ 熱いうちに召し上がれ♡」

 

 慣れた動きで意外と大きな皿の天津チャーハンをテーブルに置く。

 そして自然な動きでにゃーちゃんはアマハルの隣の席に座ると両手の指でハートマークを作る。

 

「それではこれからご主人様もご一緒に♡」

「へへ♪」

 

 アマハルも照れた顔で両手の指でハートマークを作る。

 にゃーちゃんのハートマークの両手がゆっくり回りながら射貫くようにテーブルに置かれた天津チャーハンに謎の魔法がかかる。

 

「美味しくなぁれ♡ おいしくなぁれ♡ 萌萌心动(めんめんしんどう)♡」

「萌萌心动(めんめんしんどう)♪」

 

 アマハルも気分よく答える。

 

「なんだその「萌萌心动(めんめんしんどう)」って?」

 

 にゃーちゃんの笑顔がさらに明るくなる。

 

「この店で作った造語です♡ 簡単に言うと「萌え萌えキュン」を中国語っぽく言い直した言葉です♡」

「徹底してるなぁ……」

 

 ところどころ俗っぽいところがまた堪らないのだが……

 

「じゃあそちらのご主人様も萌萌心动(めんめんしんどう)しますね♡」

 

 アマハルの席から離れるとにゃーちゃんの小さな身体をちょこんとレイジの隣の席に座らせる。

 

「うん?」

 

 ぐいっと距離を詰められる。

 

「な、なに……?」

「一目見た時から見込みがあると思いましたが……本当に見込みがあるみたいですね……せ・ん・ぱ・い♡」

 

 いきなり可愛い女の子に先輩呼ばわりされ、レイジの顔が赤くなる。

 にゃーちゃんの顔が蕩けるように可愛く笑う。

 

「えへへ♡」

 

 テーブルの天津チャーハンに向けてまた両手の指でハートマークを作る。

 

「萌萌心动(めんめんしんどう)♡ はい♡ ご主人様もご一緒に♡」

「め、萌萌心动(めんめんしんどう)……」

「ふふっ……♡」

 

 満足したように席から立ち上がろうとするとにゃーちゃんの唇が反対側に座るアマハルに気付かれない程度の距離で近づく。

 

「明日、今は使われて無い学校の裏庭の時計台広場に来てください。面白いモノを見せてあげます♡」

「ッ……!?」

 

 耳が蕩けるような妖艶な言葉にレイジは思わず顔を真っ赤にして距離を置く。

 

「ふふっ♡」

 

 にゃーちゃんの整った顔が可愛く微笑む。

 席から立ち上がると背中からチェキカメラを取りだす。

 

「追加料金でチャイナメイドとチェキを撮れますがどうしますか♡」

「ぜ、ぜひ!」

「お、俺は……」

 

 食い気味のアマハルにレイジは底知れない気配を感じ早く帰ろうと言葉を出そうとする。だが、

 

「お二人共それぞれチェキをなされますね♡」

「うっ……」

 

 獲物を狙うハンターのような視線を向けられレイジは逃げられないなにかを感じてしまう。

 これが彼女とレイジのファーストコンタクトであった。

 

 

つづく

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