れとろげ!〜無趣味な男がレトロゲー好きの女に振り回される日々〜 作:スーサン
「いやぁぁぁ……夢のような時間だったな」
「まぁそこは否定はしない」
人の机の上で頬杖を突きながらアマハルはうっとりしている。
どうやら昨日寄ったチャイナメイド喫茶店が相当気に入ってるのか朝からこんな感じである。
「なぁ……お前は誰を推す? 俺は断然にゃーちゃんだな。あの可愛い笑顔なら水だけでも金出しちゃう!」
「まぁサービスを楽しむ店だからそれもありかもな……」
「てことでレイジ。悪いが今月はもうお前と遊べなくなった。今日からバイトをみっちり占めて来月はあの店に入り浸る!」
「お前の趣味を否定はしないが変な方向に走るなよ」
「おう!」
「ついでにトイレ行ってくるわ。少し催してきた」
「漏らすなよ」
「誰がじゃ!」
トイレまでの道、妙な人だかりを認める。
「ねぇ、あれチーム千早じゃない?」
「うん?」
女子の声を聴き、群衆の中で出来る隙間から廊下の奥を見つめる。
「あ、チーム千早」
この学校になぜかカースト制度が出来るきっかけを作った謎のカリスマを持つ変な集団を認め、嘆息する。
もっともレイジが呆れていても取り巻きはアイドルを見かけたミーハーのように騒ぎ出す。
「千早サクト君、今日もすごいオーラ!」
「元野球部で四番だったらしいよ」
「うちの野球部より練習してるって噂あるし……私もチーム千早に入りたいぃ!」
「……」
なんだか勝手に盛り上がっている女子達にレイジは目を細めてくだんの「千早サクト」を認める。
どこか没個性なのに妙に整った顔立ちの美形の少年を認める。
美少年・千早サクトが自信満々に前を歩き、後ろからサクトの相手に相応しいと言えるほどの美少女や美形が後をつぐ。
(端か見るとどこぞの御曹司のようないで立ちだ……)
「うん?」
一瞬視界の端に見覚えのある顔が映る。
「あれって……にゃーちゃん?」
チーム千早の一番後ろで歩くつまらなさそうな顔をしている美少女を認める。
「あの子……昨日のメイド喫茶にいた娘だけど雰囲気が違うな。もしかしてプライベートだと物静かなタイプなのか?」
化粧を落としてるから雰囲気は違うが背の高さも目の形も……なによりも胸のサイズが完全に一致しているから間違いない。
「うん?」
「……」
一瞬、目が合ったがにゃーちゃんと思われる少女をそっぽを向く。
「気のせいか?」
目が合っても無視されたような気がしたがレイジはもしかして人違いかなと頭の後ろを掻く。
「悪いが俺達のロードを神話に出てくる大岩のように塞ぐのをやめてくれないか?」
「うん?」
いきなり声をかけられ顔を上げる。
眼前に自信満々な笑みを浮かべる「千早サクト」のいけ好かない顔が映る。
レイジは自分がいつの間にか廊下の真ん中に立ってることに気付く。
「ああ、どけってこと?」
気付いたら進路妨害してることに気付きレイジは慌てて道を開ける。
一瞬でも足を止めさせたレイジに不快感でも抱いたのかどこか小ばかにしたような軽い言葉が返ってくる。
「俺達は常に試練を挑まれている」
「試練?」
「お前はその試練を邪魔するものか?」
「いや違うが」
「それとも手を取って俺と共に戦ううぉりあ」
「うっさい」
「え……?」
「素直に俺の邪魔するなって言ってくれ。無駄なポエミーは脳に過負荷がかかって鼻血が出る」
「っ……」
サクトの顔が他の女子達にバレない程度の距離感で近づく。
不思議とこの距離感が昨日のにゃーちゃんがメイド喫茶で自分だけに聞こえる声で接したのと似た雰囲気であることに気付く。
「お前さ……俺のことわかってるよね?」
「……?」
ガラが悪くなったサクトにレイジは少しだけ好感を持ち首を縦に振る。
「名前だけな」
「っ……ならわかるだろう。俺は一軍勝ち組陽キャ主人公属性なんだ。お前みたいなモブキャラに俺のロードを邪魔されるのは」
「はぁ……」
「おい聞いてるのか?」
これ以上話をしても精神衛生が穢れるだけと判断し、レイジは彼を無視して過ぎ去ろうとする。
その時、
「今日のお昼、忘れないでください」
「ッ……」
ちょうど「にゃーちゃんと思わしき少女」の横を通り過ぎるとボソッとした声をかけられビックリする。
「……」
「……」
にゃーちゃんと思わしき少女は右口角を上げるとすぐにはつまらなさそうな顔をしてチーム千早の末端を歩きだす。
どこかどんよりした雰囲気がなんとなく一緒にいて楽しい時間じゃないことだけは理解した。
「……全然キャラが違うな」
あんなに媚び媚びしていた態度が嘘のように冷淡なことにレイジは少し戸惑う。
だが、
「……今朝の冷たい目が嘘みたいだ。チームの中ではああいう顔をしてるのか?」
ポケットに手を入れレイジはトイレに向かって去っていく。
レイジは気付いていなかったがその後姿をチラチラとにゃーちゃんと思わしき少女が見ていた。
昼になり昨日、にゃーちゃんに言われた指定された「学校の裏庭の時計台広場」のボロベンチに座っていた。
ここは外からは本校舎の中が見えるが本校舎の中からは鬱蒼とした木々のせいで庭の景色が見えない知る人ぞ知るサボりの定番スポットであった。
「昼を食ってからここに来たが……まだにゃーちゃんは来てないか。もしかしてすっぽかされたか?」
昼休憩に入ってからもうそろそろ十分経つが待ち人はまだ来てない。
チーム千早と邂逅した時、自分から昨日のことを忘れるなと言ってたからすっぽかすとは思えないが……
「まぁ女心秋の空って言うからな。まだ夏も来てないが……うん?」
裏庭に入るための扉が開く音が聞こえる。
静かな足音が響く。
裏庭のベンチで座っていたレイジの前に一人の少女が冷めた目つきでレイジの下へとやってくる。
「遅くなりました。チーム千早の会合が急遽入ってヌケるのに苦労して……」
「……」
やはり顔が似てるじゃなく本人だ。
「にゃーちゃん?」
「はい」
優雅に学校指定のスカートの丈を持ち上げ淑女のように頭を下げる。
「チャイナメイド喫茶・宅楽楼(たくらくろう)の新人チャイナメイド、にゃーちゃんこと本名「氷室天愛(ひむろあまめ)」。以後お見知りおきを……」
「あ、ああ……湯川レイジだ。俺からもお見知りおきを……」
「……ふふっ♪」
「ッ……」
今朝の冷めた態度はと一転して柔らかい笑顔で返す氷室天愛にレイジは困惑しつつも、
(ちょっと可愛いな)
と素直に思ってしまうレイジだった。
つづく