れとろげ!〜無趣味な男がレトロゲー好きの女に振り回される日々〜 作:スーサン
マリサランドを起動するとレイジは呆れたように口を開く。
「で、こんな古いゲームをやらせて俺になにを見たいんだ?」
「とりあえず進んでください」
天愛の言葉にレイジは小首をコキコキと鳴らす。
「それはいいけど……このゲームの画像、もろドットって感じだな? ギリギリ主人公がマリサだと理解できる程度のグラフィックしかなくない?」
「そこがいいんですよ。このGTゲーム特有の荒いとすら言えない8ビットゲーム……見てるだけで楽しくならないですか?」
「俺には手抜きっぽく見えるが……
脛を蹴られつつ前へと進む。
「うん?」
後ろを振り向き元の道を帰っていく。
「なんだこれ?」
レイジは元来た道をバンバン叩く。
「一度進んだ道が戻れないぞ!? バグか!?」
「この時代のゲームはまだ試行錯誤の時代ですからね。こうやって元来た道を戻れなくすることで、プレイヤーに“どっちに進むのが正解か”を間違わず教えてるんです」
「いくらなんでもユーザーを舐め過ぎじゃ……」
「当時はゲーム業界の常識すらなかったんですよ。先輩もいちいち文句言ってないで早くゲームを進めてください。タイムオーバーになりますよ」
「なんだよタイムオーバーって?」
「画面の上に数字が減ってるでしょう? あれが0になると問答無用で死にますよ」
「なんでゲームのカウントダウンがあるんだ? なくってもいいだろう?」
「昔は制限時間があるのが普通だったんです」
「ていうか、300秒もあるならクリアは余裕だろう?」
「このマリサランドならそうですけど、ゲームによっては寄り道できないくらい根詰めたゲームシステムのアクションゲームもあったんですよ」
「昔のゲームはユーザーに親切なのか追い込んでるのかわからん……」
仕方ないので前へと進む。
「お? 最初の敵か……」
前の方をてくてく歩くシイタケのような敵が現れる。
「先輩。言わなくってもこれくらいはわかると思いますがジャンプして踏んづけて倒すんです」
「よし!」
ダッと駆け出す。
「せんてひっし……あれ?」
ジャンプする前にレイジの身体が謎の慣性に引っ張られて敵とぶつかる。
「え……?」
小気味よい音楽と共にレイジの残機が一つ減る。
「……なんだよこれ?」
「この時代のゲームは謎の慣性が働くゲームも多いんです」
「ッ……」
額に青筋が経つとレイジはまた一番最初の場所に戻る。
少しイラッとした顔で駆け出す。
シイタケ型の敵が現れ、走っていたレイジの足がゆっくりになる。
「次はぶつからないように事前に……」
ジャンプする。
「あれ……?」
レイジの足が敵を踏みつけるよりも前の道を踏みつける。
ピタッと敵の前で着地してしまう。
「あっ……?」
本能的に敵を追いかけようと振り返る。
が、
「先輩……それダメです」
「え……あ?」
振り返ると同時にまた謎の慣性がかかりレイジは自分から敵にぶつかってしまう。
「下手ですね……」
小気味よい音楽と共にレイジの残機がまた一つ減る。
「ちなみに残機は二つまでなので次、死んだらゲームオーバーですよ」
「黙っとれ!」
レイジの顔がムキになり鬼の形相になる。
元の場所に戻るとレイジは今度こそ最初の敵を踏みつけて倒すことが出来た。
「どんなもんだい!」
ガッツポーズと取るレイジに天愛の呆れた声が耳を打つ。
「最初の敵でラスボスを倒したくらいのテンションで得意になられても格好良くないですよ……」
「やかましい! 俺は人をコケにすることはあってもコケにされるのは嫌いなんだよ!」
「ああ、さっき廊下であったばかりのサクト先輩のこと、無茶苦茶コケにしてましたもんね……先輩」
「あの自己陶酔男はコケにするくらいがちょうどいいんだよ……今後付き合う気はないけど」
「……あ、先輩。その二つ目の土管の上に立って下ボタンを押してください」
「うん、こうか?」
言われた土管に立つとレイジの身体が落下する。
「うぉ!?」
土管の中に入ると数枚のコインが置かれた部屋へと落下する。
レイジの目が輝く。
「こりゃすごい……このコイン、集めるとなにかアイテムと交換できるのか?」
「百枚集めると1アップです」
「ワンアップって? 残機が増えるってことか? それだけ……?」
「この時代の残機は貴重ですよ」
「まぁ確かに後一回倒されるとゲームオーバーだしな」
コインを集めるとレイジは土管から出ていく。
一本道のステージを走りながら駆け抜けていく。
「ところでこのゲーム、いつものマリサシリーズのようにティーチ姫を助けるのが最終目的なのか?」
「あ、このゲームにティーチ姫は出ません。というかマリサランドシリーズにティーチ姫は出ません」
「え……じゃあなにを目的にしてるんだ? ただの冒険?」
「このゲームの舞台、マッシュルーム王国じゃなくサラサラランドっていう国で助けるのはこの国のお姫様、デイリー姫なんです」
「ティーチからデイリーに変わっただけなの?」
「ゲームトイのゲームですからね。差別化を図る意図もあったんでしょう」
「ちなみにデイリーってどんなお姫様だっけ?」
「正確な情報はわかりませんが、一般的にはお転婆ということになってます。まぁマリサシリーズに細かいキャラ設定を求めるのも野暮でしょう。あ、ちゃんとブロックは破壊してくださいね」
「ああ……」
手前に浮くブロックをジャンプして破壊する。
気持ちのいい音と一緒に星型のアイテムが現れる。
「あ、スターだ!」
レイジの目が輝く。
「これは俺でも知ってるぞ! 取ると無敵になるんだろう?」
「先輩、落ちる前にスターを早く拾ってください」
「え……ああぁあぁぁ!?」
落下するスターが地面を透過して画面外へと消えていく。
「スターは地面を這わずにそのまま落下して消えていくんです」
「先に言って!」
「まぁこのゲームに限らずスターなんてマリサシリーズのオマケですよ。名作スーパーマリサワールドだってスターなんて数える程度しか用意されてませんし」
「そういえば最近のゲームでもそんなに多い気がしないな……」
「ちなみに無敵状態で一定数的を倒すと1アップします」
「コインだけじゃなくって敵も倒すとワンアップなのか?」
「あ、ちなみにこのゲーム、セーブ機能ないですからゲームオーバーになるとそれまでですよ……」
「なんで今言うんだ? そんなこと……あ?」
「あ……?」
突如画面外から現れたハエのような敵にぶつかる。
「……」
「……」
画面の真ん中に「GAME OVER」の文字が浮かぶ。
「っ……」
ゲームトイの画面から顔を放すとレイジは着ている制服の上着を脱ぎだす。
「先輩?」
「黙っててくれ……」
ぼさぼさの前髪をかき分ける。
「俺はゲーム相手でもコケにされるのが大っ嫌いなんだ」
「……前髪あげると意外とイケメンですね」
「なにか言ったか?」
「いえいえ……存分に戦ってください」
「当たり前だ! こんな古臭いゲームにコケにされるほど俺は安くない!」
またゲームを最初から始めるレイジに天愛はふふっと笑う。
「やっぱり見込みありましたね。先輩♪」
「だぁぁっ! なんだ、慣性が働いてると思って十字ボタンを離すと空中でピタッとマリサが止まったぞ!?」
「あ、このゲーム、ジャンプ中に右ボタンを外すと慣性の法則無視してその場でピタッと止まるんです。不思議ですよねぇ……」
「落ちた……」
またゲームオーバーになりレイジの額に青筋が立つ。
「イラッとしてる先輩可愛いですよ」
「黙っとれ」
完全に前髪を上げオールバックにするとレイジの両手が強くゲームトイのコントローラー部分を握る。
「ぶっ倒す!」
「頑張ってください。先輩……」
ムキになってゲームに夢中になるレイジを見て天愛はどこか初々しい視線で微笑むのだった。
つづく