れとろげ!〜無趣味な男がレトロゲー好きの女に振り回される日々〜 作:スーサン
「それでこれはなんのゲームなんだ?」
レイジの質問に天愛は鼻息を荒くする。
「この私が先輩を部屋まで連れてきて一つ百円ちょっとのどら焼きを用意したのはチープなアダルトゲームのような素晴らしい展開に発展させるためじゃありません! 好きですけどねロープライズのアダルトゲーの展開。まぁそれは置いておいて……先輩を呼びつけたの私の家のコレクションを先輩に見せてちょうきょ……共感してくれればいいなと思いまして!」
「お前、今、なにを言おうとした?」
「実は先輩にプレイしてもらってるのはドリームカスタム専用ソフト「ぼくトラえもん」です。先輩はトラえもん好きですよね。オタクでトラえもんが嫌いな奴は人間じゃないと私は思ってます」
「思想が強いのはやめてくれ……」
眉間を指揉む。
「で、これはなんだ? 操作キャラがトラえもんになってるけど?」
畳の上をジャンプしながらレイジは右へ左へと視線を移す。
天愛の声が弾む。
「この「ぼくトラえもん」はトラえもんゲームシリーズでは珍しく戦わず野比ノビトを成長させてヒロインである静流(しずる)ちゃんと結婚させる未来を作るというゲームです!」
「トラえもんが戦う?」
「ああ、もう今の時代トラえもんがゲームで戦うのは知らない人もいるんですね。流行病の時には映画シリーズのゲーム化もいったん終わっちゃったし……」
「ていうかトラえもんのゲームってあるの?」
「ありますよ! トラえもん ノビトとの牧場ストーリーなんか大ヒット作ですよ!」
「……?」
「はは……こりゃ調教しがいがありますね♡」
「まぁいいけどなにすればいいんだ?」
「いったん部屋から出ましょ。このゲームの素晴らしさを教えます!」
「……」
畳の部屋を歩き、部屋から出る。
廊下にシーンが変わる。
「で、これからなにをするんだ? ていうか、ノビトの家ってこんな作りしてたんだ?」
古いゲームながら美麗な2Dと3Dを掛け合わせた部屋の中にレイジは少し感動する。
天愛もわざと声をガラガラにして答える。
「平成時代の家の中の設定ですけどノビト君の家を堪能できるだけでこのゲームは神ゲーだと思いませんか?」
「実際の評価は?」
「ファンでも眉毛を少しひそめる程度の凡ゲーです」
天愛の顔が赤くなる。
持ち上げるだけ持ち上げて傑作と言えないのが悔しいのだろう。
レイジも天愛の表情を見てあらかた納得する。
「ようするにクソゲーじゃないけど手放しに絶賛も出来ないファンゲーなのね」
「で、でも……」
今にも泣き出しそうなほど声を荒げる。
「トラえもんの世界を堪能できるんですよ! 先輩、今、トラえもん好きって言いましたよね?」
「言ってねぇよ!」
「心で言ってました!」
「お前友達少ないだろう!」
と、言いかけていったん口ごもる。
「ま、まぁ映画は毎年観てるけどな……」
「あ、ならクレヨンジンちゃんも行ってますよね? 今度ゲームを紹介するんで一緒に今年のクレジンを観に行きましょう……今年こそ名作のはずです!」
「……」
「なにか言ってください! クレジンはサイコーなんです!」
「で、話は戻るけどこれからなにをすればいいんだ?」
「じゃあまずは公園に行きましょう。スタートボタンを押して場所を選択してください」
「歩いていけないのか?」
「ああ、このゲーム、歩く機能ってほとんど意味ないんで。どっちかと言うと会話を楽しむアドベンチャーゲームだと思ってください」
「歩くのに意味がないって……」
「場所移動するたびにどら焼きが半分減ります。無くなると行動できなくなるので、どら焼きが無くなりかけたらママのお手伝いをして増やしてください」
「無駄に制約があるところに必死にゲームを作ろうのする心意気は感じるな……」
ピッとスイッチ押す。
移動パネルが開く。
「これか?」
公園のパネルを押す。
トラえもんとなったレイジは公園に移動するためのシーンが挿入される。
「この移動のシーン、テンポ悪いな」
「これも乙だと思いませんか?」
「……」
たぶんこのゲームが普通に不親切なだけなのだろうとレイジは思った。
つづく