夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「くっ、あたしには何も出来ないっての……!?」
自分の目線の先、そこにいるのは大切な妹と初対面のあたし達と仲良くなって命懸けで助けてくれようとしている年下の男の子、テンマ。
何が何だか分からないけど、2人が戦ってる大男と2人は『同じ生き物』らしくて、同じじゃないと倒すのはほぼ無理って言うのを痛いくらい実感している。
あたしはこれでも結構やり手のハンターだと思ってきた、そりゃ今回講師として来たテンマや本土のエリート達には及ばないかもしれないけどかなり実績も実力も認められてる。
それで全く支援も何もあったもんじゃないような現状に歯噛みするしかないのがとっても悔しい、2人が命を懸けて戦ってるのに見てるしかないなんてそんなの嫌に決まってる。
――さっきテンマにも話した通り、セツナと自分とに血の繋がりは無い。
小さい頃、本土にたまたま出向く機会があってそこでの災害に巻き込まれた時に1人ポツンと立ち尽くしていたセツナを拾ってきた。
1人ぼっちなのがどうしても気になって、手を差し伸べて、連れて帰って妹にした。記憶があれば家に返すことも出来たんだろうけど、あの子は拾った時からずっとそれ以前の記憶が無いと話していたのもある。
――セツナは唯一の家族だ。親もおじいちゃんももう死んじゃってどこにもいない、本当は天涯孤独になるはずだったあたしに出来た大切な大切な家族。
「くっそ、まだ蘇ってきやがる!ほんっとしつこい奴だな!しつこい男は嫌われるって知ってたか!?」
「何度燃やしても……!せめてしーちゃんだけでも逃がさないと……」
「分かっちゃいるが余裕が無い!ったく、あの超再生さえ無けりゃ今頃消し炭だってのに!あと逃がすならセツナ、お前もだ!」
「でもそれじゃテンマさんが!」
「セツナはただでさえその力があんまり適合してないんだ、純粋な力なら格上の俺1人でも耐え切れる!」
その大切な家族を前にして、なんであたしは何も出来ない?何もしてあげられない?手を伸ばせば届くような場所にいるのに、なんであの時みたいに手を差し出してあげられないの?こんな近くにいるのに、どうしてあんなに遠くに見えるの?
「また突進かよ!?ほんとバカの一つ覚えだな!吹っ飛べゴリラ!!」
グルグルと回る思考を切り裂くように重たい衝撃波が襲いかかる、さっきみたいにテンマと怪物が衝突して空気が思いっきり揺れたみたい。
「きゃっ」
「しまっ、セツナ!」
でもさっきと違うのは、テンマの至近距離にセツナがいたこと。
怪物は吹っ飛んだけれど同時に目の前で衝撃波を受けたセツナが耐え切れずに衝撃波で吹き飛ばされてしまう……あたしはその瞬間にはもう身体が動いていた。
「し、しーちゃん!?ダメだよ今は!火傷しちゃうよ!?」
「……大丈夫、あたしはセツナを全てを受け入れる。何も出来ないままなんて嫌だ、大切な妹を守りたい……だってセツナは家族なんだよ?家族が大変な時、苦しんでる時、なんで何も出来ないのって見てるしか出来なかった。だからせめてこれくらいは……ね?」
セツナの身体は今、炎に包まれている。変身した時からこれだからきっとこれがこの子の力なんだと思う……多分大火傷を負うと思うけどそれでも受け止めたかった、助けてあげたかった。それが家族としての、お姉ちゃんとしての想いだったから。
「ん?あれ?熱くない?」
……そうして結構な時間触れていたけれど様子がおかしい事に気が付いた、いやセツナがじゃなくて様子がおかしいのはあたしの方。
ずっと燃え盛る身体に触れてるはずなのに全く熱くも痛くもない、良く見ると服すら燃えてないし火傷なんて一切してない。それどころかセツナの炎を包み込むようにして抱き締めているのが分かる。
「こりゃ一体どうなってんだ?」
テンマも困惑の色を隠せないでいる。
でも、何となくだけどあたしは……いや、『あたし達』は分かったような気がした。
「ねえ、しーちゃん」
「なに、セツナ」
「この力……しーちゃんにあげたい。何となくわかったんだ、きっとしーちゃんならわたしより力を使えるって、そしてしーちゃんもそれを望んでるって」
「うん。あたしもセツナのこの力があれば何とかなりそうな気がする、セツナだけじゃダメでも『セツナとあたし』でなら何とでもなるって思ってる。そんでセツナを守るためにこの力が、欲しい」
理屈とか理論とか、そういうのじゃない。もしかしたらこういうのはリスクがあったりとか普通ありえないこととかなのかもしれない、でも大丈夫だって思った、他の誰でもない大切な家族の、セツナの能力だから。
セツナも同じ想いなんだと思う、確信したようににっこりと笑うその姿は通じ合った2人にしか分からない絆がある証拠だね。
「触手ゴリラ野郎テメェ今良いとこなんだから起き上がってくんじゃねえよ寝てろボケ」
あたしの身体に、この炎がどんどん入ってくるのが分かる。
まるでセツナが抱き締めてくれるかのように、温かい……この子の力はどこでどう手に入れたのかは分からない、もしかしたら悪い大人に捕まって無理矢理能力を付けられたのかもしれない。でも今間違いなく、温かさに包まれていた。ここに、あたしの中に間違いなくセツナがいるんだって教えてくれる。
「無くなっちゃった」
「でもあたしの中に全部ある」
「だね」
「ねえ、セツナ。――あたし知ってたんだ、多分セツナは普通の子じゃないんだろうなって。知ってて妹として迎えたんだよ。家族がみんな死んじゃって、孤独の中で見つけたあたしの光。どんな事があっても離さない。ずっとずっと、ずーっと、大好きだよ」
「ありがとう……ありがとう、しーちゃん……!」
「2人でぶっ倒そう、アイツを!」
「うん!」
温かさの中に、燃え盛る情熱の鼓動が伝わる。勿論あたしにだって今コイツを倒したいと願う情熱がある。でもこれはあたしの鼓動じゃない、あたしの感情じゃない……全部、全部全部、感じてる熱さ、想い、全てセツナとリンクしてるんだ。
「お前ェ……食ったのかァ、あの魔人をォ……」
「食ったなんて人聞きの悪い事言わないでよね。セツナはあたしの大切な家族だ!大切な妹だ!今この胸に宿る勇気、情熱、能力、その全てがセツナとあたし、2人で1つ!!」
「がんばれしーちゃん!」
「お姉ちゃんに任せといて!」
グッと脚を踏み出す、相手もそれに合わせて腕を振るうけど……2人で1つになったお陰で今まで全く動きを見ることが出来なかった動きが見える!
「どりゃああ!!」
「がァッ!?」
動きを見てからかわせる、そして想いの丈を渾身の拳に乗せて振り抜く。たったそれだけで腹に風穴を開けられた、また回復しちゃうだろうけどこれならやれる。
「あァ……その能力を、そいつを、寄越せェ!!」
「ざっけんな!!」
「来ォい!!」
でもさすがに大量の侵略種も相手だと分が悪い、まだ力を手にして数分も経ってないから使い勝手はともかく自分の身体が着いてこれない。
「おっと、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
「テンマ!」
「良いもん見せてもらったよ、でも俺も『先生』としてもっと頑張りたいんでね!露払いとセツナの事は任せろ!シイナ、そっちは『託した』ぞ」
「セツナの事『託す』からね」
でも今はテンマがいる。だから安心出来る、安心してセツナを託す事が出来る。
これなら。
「ぬアァァァァァァ!!!!」
肥大化するバケモノに向けて対物ライフルを構える。
これからきっと、あたしの生活は一変して行くのだろう……それもとてつもなく大きな何かを知って、戦いを迫られる事も何度だってあると思う。怖くて逃げ出したくなる時も何度もあるのだと思う、それでも……それでも、セツナが一緒なら。
「きっと、乗り越えられるから」
「いっけーしーちゃん!!」
その日、海女取島に紅蓮の花が咲いた。
という訳で祝!セツナ生存しながら1話の襲撃乗り越えました!
本来1話のシイナはもっと派手派手なアクションして雑魚も蹴散らして無双するんですが、そこはテンマにやらせました
理由としてはセツナが生存していたのであの感じで緋色の弾丸飛ばしまくってたらセツナにも被害が出てしまうためです
その代わり今話はシイナsideで1話丸々心情描写とセツナとの絆と覚醒に使わせていただきました
勿論現状生存してるセツナの出番は後にもあるので楽しみに待っていてもらえればと思います