夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
ねぇ、しーちゃん。
しーちゃんは気付いてるのかな。
多分だけれど、気付いてるようで気付いてないんじゃないかなってわたしは思うんだ。それをどうしーちゃんに伝えようかって悩んでるし、それと同じ気持ちをわたしも持っていると思うの。
おにーちゃんに『姉妹だね』『本当に似てるね』って言われるのはとっても嬉しいの、でも……この気持ちまで同じだったら、わたしはどうすればいいんだろうね、分からないや。
――この恋心、どうしたらいいんだろう、ねぇ、おにーちゃん。
最初、おにーちゃんに出会ったのはしーちゃんがハンターの講習会に行った時だったよね。地方?のハンターさん達をもっともっと強くする為に本土から先生が送られてくるってお話だった。
最初来るのはわたし達も知ってる、本土でお世話になったおじさんのハンターで良くしてもらってたから楽しみにしてたんだけどケガで来られなくなって、代わりに来たのがおにーちゃん。
ベテランのおじさんよりずっとずっと実力があるって、おじさんも太鼓判を押して代わりに送ってきたから若いおにーさんって聞いてたけど15歳とは思わなかったよね、だってしーちゃんより年下なんだよ?しーちゃんに聞くまでそうとは思わなかったからびっくりしちゃった。
「え!?明日のおじさんの代わりに来るせんせいって15歳なの!?」
「そうみたい、凄いよねあたしより年下なのに本土ではもう結構ベテラン陣からも頼りにされるスゴ腕ハンターで有名だって。おじさんの話だと実力も高いけど状況判断と盤面把握が高くて指揮官としての方が優秀とのことで」
「本土ってすごいね……」
あの時は本土にはおにーちゃんみたいな天才が何人もいるのかなって思ったけど、実際本土に来てみて、ハンターの人達は凄い人が多いけどおにーちゃんが飛び抜けてたんだって分かったんだ。
「わざわざ自己紹介ありがとう。ご紹介に預かった夜海テンマだ、よろしく」
第一印象は、せんせいって程怖くなさそうだしどちらかと言えばすっごく優しそうだった。
「すげーわこれ、店出せるレベルだぞ」
「そ、そんなに?わたしのお料理が?」
「おうマジだぞ、美味すぎてびっくりしたわ。将来有望だな」
「そうでしょそうでしょ、セツナはすごいんだから!」
「テンマさんもしーちゃんも褒めすぎだよぉ……」
それにわたしのことをたくさん褒めてくれた、この時からもう自分の中では『テンマさん』というよりも『おにーちゃん』だったのかも、とってもとっても優しくて安心出来て……でもどこか寂しそうな目をしてるのが気になった。
その目は、多分わたしと似ていて……あの時のわたしは記憶を封印していたから自覚してなかったけど、魔人だということを隠していて、本当はしーちゃんのところにいちゃいけないんだって無自覚に考えてたのと、おんなじだったからかも。
「待った」
「え?どしたの?」
「……インターホンの向こう側にいる奴、どうにも怪しい。というかとんでもなく面倒な奴だと俺は思ってる」
「分かるの?」
「なんつーのかな、俺とアイツは同族みたいな波長を感じるんだよ。そんで、俺の同族ってのはめちゃくちゃ厄介な事しかしてこないワケ、だから俺が出る……これから見るもの全部、現実として受け止めてもらいたい」
「うーん……良く分かんないけど分かった!任せるよ」
「セツナ」
「え?」
「絶対俺より前に出るなよ、シイナもだけどセツナは特にだ。出来るな?」
「だ、大丈夫」
そしてそれはすぐに分かることになった、魔人が襲ってきた時におにーちゃんが本当は隠していたかったはずの魔人の力を迷わずに使って助けてくれたから。
「大丈夫か?」
「う、うん。テンマさんもその、大丈夫?」
「俺は平気よ。それより怖がらせちまったな、俺もアイツと同じバケモンなんだよ」
「そ、そんな事……」
「そんな事無い!!」
「あたしとセツナを助けてくれたテンマが化け物なワケ無い!だから怖くなんてない!セツナ、怪我は?」
「無いよ、守ってくれたから。ありがとう、テンマさん」
「ね?セツナも怖がってない」
「やっぱりキミら姉妹だよ、似すぎ。でもありがとよ」
寂しそうで悲しい目をしていたのは、この力を使ったら怖がられると思っていたからなんだってあの時分かった。
でもそれをしーちゃんが思いっきり止めてくれた、どうやって言葉を伝えればいいのか分からなかったわたしと違ってやっぱりしーちゃんのそういうところが大好き。
その後はわたしが魔人だったという記憶を思い出して、色々あったけど何とか倒せた。しーちゃんと2人で1人の魔人になるとは思わなかったけど、これからは言葉通り運命共同体だねなんて言われて嬉しかったなあ。
……それから2ヶ月、おにーちゃんと本土で再会した。
島を出て初めての再会、あの人は変わらずに優しく笑顔で温かく色んなところを紹介してくれた。
でも。
でも、あの時の目は、変わってなかったよ、おにーちゃん。
もう魔人だということは受け入れられたってわかってるはずだし、わたし達も同じ魔人になったのに、何も変わってなかった。
どうして?どうしてそんなに悲しそうな目をしているの?わたしには、しーちゃんにも、話せないの?ううん……トワちゃんにも、きっと話せていない何かがあるんだって何となく思った。
「ねえ、しーちゃん」
「んー、なにー?」
「しーちゃんはおにーちゃんのこと、好き?」
「まあそりゃね。テンマはあたし達の命の恩人だし、話してて楽しいし、優しいし……まあ、あとはカッコイイし?こういうこと言うのは照れるけどなのちゃんやフェイちゃんと話してる時よりも安らぐ気がしてるんだよね。勿論なのちゃんフェイちゃんも大好きなんだけど、あの2人は安らぐと言うよりももっと弾ける感じ?みたいな」
「わかるよ、わたしもおにーちゃんといるとホッとするんだ〜」
「だよね!もちろん光一君も良い人だけど」
わたしはね、しーちゃん。
カッコよくて優しくて、命を懸けてわたし達を守ってくれたおにーちゃんの事が大好きだよ。家族に近い意味でもそうだけど、1人の男性として、憧れよりも強い恋心として大好きなんだって気が付いたんだ。
この人の近くにずっといたい、離れたくない、本当の意味で幸せにしたい、しーちゃんに想ってる気持ちと同じくらい、そう思ってるんだよ。
だから……だから、あんなに悲しそうな目をしているその人を助けたいって、何とかしたいって、なのにこれ以上近付いてきてくれない苦しみ、悲しみ、そして理解出来てしまう感情を……どうすればいいのかわたしはわからない。
でも、そんなわたしにも夢が出来た。
「しーちゃん、わたしね、夢ができたよ」
「おっほんと!?なになに!?」
「この世界を、いつか魔人や人を襲う侵略種のいない平和な世界にして、大切な人達みんなでいつまでもずっと笑って一緒に暮らしたいの」
「……そうだね。みんなが平和に過ごせるような世の中にする為に、きっとこの力はあるんだと思うしなのちゃんやフェイちゃん、光一君と出会ったんだと思うんだ。叶えよう、あたし達2人だけでじゃなくてEXCEEDSのみんなで。そして叶えて、テンマ、トワ達と一緒にいつまでも平和なこの世界で暮らそう」
「うん、絶対に叶えようね、しーちゃん」
まずはこの世界を平和にする。大き過ぎる夢だなんて思わない、だってそうでもしないときっとおにーちゃんは悲しい目のことを話してくれないと思ったから。
平和にならないときっと、あの人はふっとどこかに消えてしまいそうに見えたから……しーちゃんも、トワちゃんも、わたしも、そうなったら悲しいんだよ?
悲しいって気持ちを本気で届かせるために、そのためならなんでもできるんだよ。
見ててね。
きっとわたしは、わたし達は。
世界も、おにーちゃんも、助けてみせるから。