夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「結局また3日何も食えてねえ……」
あの女魔人を食ってから3日、結局のところ俺はまた食いっぱぐれていた。魔人の力を使えば窃盗なんて簡単に出来るが、そんな事をしてしまえば俺が食ってる魔人達と同じゲスに成り下がる。そんなのは死んだって御免だ、何より俺の憧れである高町なのはに顔向けできなくなる。いつかこの地に舞い降りるなのはに顔向け出来るように、せめてこの手が血で塗れていようが自分なりの正義だけは貫き通さねばならない。
「……動きたくねえ……カロリー消費したくない」
この3日、次なる魔人の情報を掴みに行く為にいつも情報提供してくれるヤクザの事務所まで赴いたが今はどうにも確定的な情報は無いらしく、詫びにと1食ご馳走してもらったがそれだけでどうにかなる程実情は芳しくない。
動けばカロリーは減る、動かなくても減るが動けば動いた分減っていってしまう。だから1日動かずにスラムみたいな廃ビルの中で何もせずに寝そべっている。
ちなみに侵略種も食べられると言えば食べられるが、両親を殺す為に食ってた時にクソ不味かったので出来る事なら食べたくないとギリギリまでは食べないでいる。
何とも虚無である。まだ11歳なのにどうしてこんな目に……ああ今世の両親が憎い、なんで借金返す為に非合法なモノに手を染めるのかなあ。お陰で殺すしかなくなっちゃったじゃねえか、借金があったとて少しずつ返して行くってなら俺はこの世界で両親の手伝いをしつつ魔人とか何とか倒せる方法探したのに。
……皮肉にも今の魔人になった姿での方が魔人を倒せる、というか人間のままだったら今でも倒せていなかっただろうという事がなんとも複雑だ。嫌になるぜ全く。
ところで今は11歳な訳だが、暦的に言えば原作が開始されるのは4年後になる。つまり今の時系列はちょうど地球の方で無印が始まった辺り、海鳴市藤見町に生まれられていれば今頃ジュエルシード事件に巻き込まれてくれていたものを。なんて運が無いんだ。
「あん?……足音?」
はぁ嫌だね全くなんて独り言を呟いていると唐突に足音が聞こえた。こんな場所に人が来るなんて普通はありえない、数年間ここに住み着いていた俺の経験則だ。
だとすれば魔人か?その方がまだ下手な人間よりはマシか、返り討ちにして食ってしまえば良い。ちょうど腹を満たしたいところだったからその方が良い……魔人化して短剣に毒を塗りたくる。念には念を入れての準備だ。
「と、トウヤ!男の子がいるわ!」
「何!?良く見つけたなエマ……おい、大丈夫か?」
「人?人がなんでこんなところに来るんだ?」
「それはこっちのセリフよ……怪我とか無い?」
しかし足音の正体は魔人ではなさそうだった、人2人。
そこそこ若そうな男女2人、20代後半から30代前半だろうか、戦闘服っぽいものに身を包んでいるから多分ハンター辺りか。困った、まさかこの場所まで駆除範囲に入れている敏腕ハンターがいるとは思わなかった。まあ幸いにも優しそうだから良いが……いや待てよ。
「無いけど……俺のこの姿見ても驚かないんだ」
俺は魔人化を解いていない。茶髪は金髪に染まり黒目も金に染まっている、両腕も『怪力』の力で肥大化している。だと言うのにこの人達は一切動揺せずそんな事を聞いてきている。ただの敏腕ハンターと呼ぶには妙だ、魔人は表向きカバーストーリーで隠されているから一般人が知るはずが無いのに。
まさかこう見えて裏社会で魔人化薬を流通させているとか?だとしたら仕方ないが殺すしか無い……
「あーそれな、ウチの娘のトワも似たような個性持っててさ。ちょっと面食らったのはあるけどトワと同じなら別に驚く程のものじゃないなと」
「あなた……もしかして行く場所無いの?もしそうならウチに来る?」
「いや情報量多っ!?」
そう思ったがどう考えても違った。
そもそも魔人ならここまで理性的な話は出来ない、特に弱そうな無防備な魔人を前にしたら有無を言わさず飛びかかってくるくらいはする。
あと娘が俺と同じってどういう事だよ、理性を失わずにいられた魔人がこの時期にもういるって事か?
いや待て待て、確か予告編には『魔人狩り』と呼ばれる魔人の力を宿したダークヒーロー的な存在が……ん?トワ?
確か何とかトワってのが魔人狩りのリーダーだったはずだが……いやまさか、こんなところで繋がる訳は無いよな。モブにも例外の魔人がいたってだけだな、いやそれもそれでおかしいが。
「ここから3人も4人も増えたらさすがにちょっとどうするか考えないといけないが、子ども2人くらいなら余裕で養える。メシを探す心配も無い、フカフカの布団もあるぞ」
「ウチの子にならない?」
それはそれとして、この2人……夫婦か、あまりにも聖人が過ぎるのではないだろうか。
見ず知らずの薄汚れた行き場の無い子どもを見て開口一番に怪我が無いか心配して、次に口を開いた時にはこれだ。
本編に登場しない人達にしては人間が出来すぎている、いやそれは世話になってるヤーさんとこも似たようなもんだが。
「良いのか?こんなどこの誰とも分からない奴を」
「ええ。私達中々子宝に恵まれなかったけど、最初は男の子と女の子1人ずつは欲しいって話していたのよ」
「おうよ、だから来たいなら俺達の手を掴め」
俺は迷わなかった。この世界に生まれてから幸せだった頃のあの日を心のどこかで忘れられなかったのもあるのだろうか、狂う前の実の両親との日々は嘘ではなかったと今でも思いたかったのか……どちらにせよ迷わず2人の手を取ったという事実だけが鮮烈に残った。勿論魔人化は解いてだが。
「これからヨロシクな!俺は夜海トウヤだ」
「私は夜海エマよ」
「まあ、よろしく」
果たしてこの2人を親と呼べる日が来るのかは知らないが。
「ところでお前、名前は?」
帰り道。いや、今日から『帰り道になる場所』を車で走行中にトウヤからそう聞かれた。実際のところ途中まではまともな家庭だったから名前はある、あるにはあるがもう何年も名乗っていないし名乗る気も無かった。名乗る度嫌な思い出が蘇るからだ。
「あるにはあるけど、その名前はもう捨てた」
「あらそうなのね。それじゃあトワと同じだからまずは名前を決めないと」
「だな。トワは俺と似た名前にしたから、今度はエマと似た名前にするのはどうだ?」
「良いわね〜」
「……聞かないのか?名乗らない理由とか」
「いや、別に。言いたくないならそれなりの理由があんだろ。だったら良い、そういう思い出は無理に思い出すんじゃなくて本当に言いたい時に言ってくれればそれで」
しかしトウヤとエマはどこまで人が出来ているのか、理由を聞かずに受け入れてくれた。聖人過ぎるというのもどうにも居心地が悪い、俺はそんなに出来た人間じゃないから眩しすぎるものを摂取するのは苦手なのだ。
「ならそうする」
という事ではあって眩しすぎるのは苦手だが、それに乗じてヤーさんと繋がりがあるとか魔人殺ししている事は一旦黙っていよう。だって今は話しても面倒になりそうというか信じてもらえないだろうし、いつか話せるタイミングが来たら話す。タイミングが無かったら墓場まで持っていくがな。
何にせよ取り敢えず食いっぱぐれなくて済む場所を提供してくれるからある程度友好的にしておこう。
「さあ、そろそろ着くぞ。……ここが我が家だ」
しかし2人の家、夜海家は子ども2人を養うには十二分そうなそこそこ立派な家だった。さっきの言葉に見栄は無しという事か。
さて家という事はそろそろ『トワ』ともご対面か、どんな女の子かは少しだけ興味がある。いくら同じ名前なだけで本編に出てこない……多分、とはいえ、リリカルなのは世界は美少女揃いだ。気にならない訳が無い。
「ただいま〜トワ」
「お帰りなさい。……その男の子」
「ああ、拾った。トワと同じだ」
「……そう」
……いや、いやいやいや。
いやほんとに待って。
特徴的な赤色の混じっている黒いロングヘア、少し無気力そうな顔付き……ま、間違いない。こ、これは……
(アニメで出てくる方の子だこれー!?ということはこの両親もアニメに出てくるのか!?嘘だろ!?俺最初に出会った原作キャラこの夫婦なの!?)
リリカルなのはシリーズに出てくる人達で初めて遭遇したの、どうやら『夜海家』らしいです。
いや俺この3人の関係性とか全く知らんぞ……
これからどうなるんだ俺はァ!?
既に前途多難そうな雰囲気に心の中で絶叫するのだった。
・情報提供してくれるヤクザ事務所
裏社会に生きるが本当の意味での人道は外れない瑞穂でも珍しい組織
魔人化薬には手を出さない為、不利益になる魔人連中を消してもらうよう主人公に度々情報提供をしている
物理的な金銭支援/組織所属も考えたものの、主人公の正体が露見しやすくなってしまうのではという主人公と組織双方の考えが一致し情報提供のみに留めている
・主人公に見えてる世界
所謂リアル的に見えている訳ではなく、視界にはアニメ的に映っている。その為知ってる顔はちゃんと一瞬で判別が付く
せっかく二次元の世界に転生出来るのだからそこはデフォルトで付いている